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4勝目へ向け、皐月賞馬ジャスティンミラノをダービーへ送り込む伯楽の現在の心境

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
皐月賞を制しダービーに臨むジャスティンミラノと友道康夫調教師(手前)

過去3回のダービー制覇

 今週末、行われる競馬の祭典・日本ダービー(GⅠ)。
 ここに皐月賞馬ジャスティンミラノを送り込み、自身4度目のダービー制覇という偉業に挑むのが栗東で開業する調教師の友道康夫だ。

友道康夫調教師
友道康夫調教師


 彼がダービートレーナーの称号を得たのは2016年。06年のサクラメガワンダーに始まり、09年にはアンライバルド、そして14年にはワールドインパクトで挑むも跳ね返されて来た頂を、マカヒキでついに制す事が出来た。
 「皐月賞(ディーマジェスティの2着)も自信があったけど、状態は更に良化していたし、東京の方が合っていると思っていたので、これで負けたらもう一生ダービーは勝てないと思いました。ただ、09年に1番人気だったアンライバルドが、レース直前の天候と馬場の急な悪化で大敗(12着)した事もあったので、あとは運次第かな、と思っていました」

09年のダービーで1番人気ながら12着に敗れたアンライバルド
09年のダービーで1番人気ながら12着に敗れたアンライバルド


 3番人気ながら先頭でゴール。ダービートレーナーの称号を掌中に収めた瞬間を、友道は次のように振り返る。
 「いつも通りスタンドの上の方で見ていました。ただ、いつもはウイニングランを見届けてから下馬所へ向かって、丁度良いタイミングで上がって来る馬を迎えるのですが、この時はゴールと同時に喜び勇んですぐに降りちゃいました。だから、マカヒキが戻って来るのをかなり待ちました。私自身、舞い上がっていたのだと思います」
 ダービーを初めて勝って、改めてその看板の大きさを感じた。
 「血縁者に競馬関係者がいるわけではなく、小さい頃から見ていたわけでもないので、ダービーに対して、強い意識はありませんでした。ただ、調教師となって、坂路での調教を橋口(弘次郎)先生と並んで見る機会が多かったのですが、その橋口先生が『ダービーを勝ちたい』と常におっしゃられていて、負けた時にはガックリと肩を落とすのを見て、自分もダービーに対する思いが強くなっていきました」
 加えてアンライバルドでの悔しさもあったため、初のダービー制覇で舞い上がってしまったそうだ。

友道調教師にとって初のダービー制覇となった16年のマカヒキ(奥の黒帽子)
友道調教師にとって初のダービー制覇となった16年のマカヒキ(奥の黒帽子)


 それから2年後の18年にはワグネリアンとエタリオウの2頭で3歳の頂点を目指した。結果は前者が1着、後者も4着に好走した。
 ワグネリアンは直前の皐月賞で1番人気に支持されながらも7着に敗れ、ダービーでは5番人気と支持を落としていた。
 「テンションが上がって折り合いにも不安があったので、皐月賞の時は調教を緩くしてしまいました。でもGⅠを勝つにはそれでは甘過ぎました」
 反省し、ダービーの前はしっかり負荷をかけた。
 「きっちり仕上がったので、後は折り合いだけだと思いました。掛かるかもしれないのに(福永)祐一(当時騎手、現調教師)がスタートを出した上でちゃんと折り合わせてくれました。枠(17番)的にも作戦はそうする以外ないと考えていたので、向こう正面での位置を見た時には『勝てる!』って思いました。ゴール後は自分の嬉しさよりも祐一が喜ぶのを見て、目頭が熱くなりました。おそらく金子(真人)オーナーも同じ気持ちだったと思います」
 オーナーも調教師も、過去にダービーを勝った事があるからこその余裕。それが、鞍上を祝福する方へ喜びのベクトルを向けさせたのだろう。

ワグネリアンでダービーを勝った直後の友道調教師と、後方が鞍上で喜びを爆発させる福永祐一騎手(当時)
ワグネリアンでダービーを勝った直後の友道調教師と、後方が鞍上で喜びを爆発させる福永祐一騎手(当時)


 そして、3度目は記憶に新しい22年。レジェンド武豊を背にしたドウデュースで、後の世界最強馬イクイノックスを抑えての優勝だった。
 「皐月賞では3着に負けたけど、最後は良い脚を使っていました。松島(正昭)オーナーはショックを受けていたけど、自分やユタカは、あれでダービーでの手応えを確実なモノにしました」
 ダービーを2度制しているという実績がモノサシとなり、自信を持てた。そして、実際にその思惑通り3度目となる制覇を成し遂げてみせたのだ。

イクイノックスを破ってダービーを勝ったドウデュース。友道調教師にとって3度目のダービー制覇となった
イクイノックスを破ってダービーを勝ったドウデュース。友道調教師にとって3度目のダービー制覇となった

4度目のダービー制覇をしなければいけない理由

 そんな伯楽が、今年はジャスティンミラノで4度目の頂を目指す。
 過去に制した3頭が、いずれも皐月賞惜敗をステップにここで巻き返したわけだが、ジャスティンミラノは1冠目を戴冠してからのダービー出走となる。このあたり、指揮官に心境の差はあるのだろうか?
 「ジョッキー(戸崎圭太)はプレッシャーがかかるかもしれませんね。でも、ジャスティンミラノ自身は皐月賞前から東京の方が合っていると思ったし、その皐月賞は厳しい条件の中でしっかり勝ってくれました。前に制した3頭に比べると、自分で競馬を作れる強みもあります。彼の操縦性の高さを持ってすれば、自ずと2冠目も見えてくると考えています」

皐月賞を制しダービーに臨むジャスティンミラノ
皐月賞を制しダービーに臨むジャスティンミラノ


 ディープインパクトからキズナを介してのジャスティンミラノ。勝利すれば史上初となる父子3代ダービー馬の誕生となるが、それよりも指揮官には“勝ちたい理由”“勝たなければいけない理由”が1つあった。
 「皐月賞の直前までは(藤岡)康太が一所懸命、調教をつけてくれていました」
 皆さんご存じのように、残念ながら彼はレース中の事故で皐月賞直前の4月10日に他界してしまった。
 「康太がいなくなった後は、厩舎の皆と荻野琢真君に手伝ってもらってここまでやってきました。康太に良い報告が出来るように、という思いは皆が持っています」
 藤岡康太に笑われないように、そして心配されないように、友道にとって4度目のダービー制覇は、義務となった。今週末の東京競馬場。藤岡康太もきっと空の上から見ている事だろう。

皐月賞勝利直後、鞍上の戸崎圭太騎手とガッチリ握手をかわす友道調教師
皐月賞勝利直後、鞍上の戸崎圭太騎手とガッチリ握手をかわす友道調教師

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)




ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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