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団野大成騎手、中東の夜空に誓った師匠への恩返しの思い

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
バーレーンでヤマニンサンパの調教に騎乗する団野大成騎手

サッカー少年から騎手へ

 「ジャスパークローネでは3カ国でレースに乗らせてもらいました。後、フランス滞在中には、フォンテーヌブロー競馬場でチェコの馬に乗って1鞍だけ参戦させていただきました」

 中東、バーレーンの夜空の下、そう語った団野大成。2000年6月生まれの24歳で、デビュー6年目となるこのジョッキーは、現地時間15日19時35分発走の(日本時間16日午前1時35分)のバーレーン国際トロフィー(GⅡ)で斉藤崇史調教師が送り込む2頭、すなわちキラーアビリティとヤマニンサンパのうちの後者の手綱を取る。

左が団野騎手騎乗のヤマニンサンパ。右はキラーアビリティ
左が団野騎手騎乗のヤマニンサンパ。右はキラーアビリティ

 父は厩務員をしていたが、団野自身は幼少時、サッカーに興じた。

 「キャプテンもしたけどだんだん体格差がついて、力ではかなわなくなっていきました」

 そんな小学5年の時、同じくトレセンで育った同級生らが馬に乗り始めたのを見て「自分も」と乗馬を始めた。同級生の中には、岩田康誠を父に持つ岩田望来がいた。

 「望来は上手でした。自分は負けず嫌いという事もあり、彼に負けるたびに悔しく感じ、中学1年生くらいからは真剣に騎手になりたいと考えるようになりました」

岩田望来騎手
岩田望来騎手

何かとサポートしてくれる師匠

 こうして岩田望来と共に騎手になった。19年、栗東・斉藤崇史厩舎からデビューすると、2年後の21年、厩舎の名牝が凱旋門賞(GⅠ)に挑む事になった。

 「クロノジェネシスでした。フランス遠征について行きたい旨を斉藤先生に話したら『どうせなら長めに海外を経験すれば良い』と言われました」

 思えば、師匠はデビュー前から何かとサポートの橋渡しをしてくれた。競馬学校生の頃の厩舎実習期間には、藤沢和雄調教師(引退)を紹介してもらい、しばらく美浦に滞在して、リーディングトレーナーの下、調教に騎乗した。

 「藤沢調教師は、スタッフに対して同じ指示でもあえて毎日する事で、インプットさせようとしている感じでした。また、ハミに糸を巻いて吊ったり、アイシールドをお手製で作ったりと、細かい事にも妥協しないで何とかしようとする姿勢は勉強になりました」

競馬学校生として、藤沢厩舎に研修に来ていた頃の団野現騎手
競馬学校生として、藤沢厩舎に研修に来ていた頃の団野現騎手

海外の縁

 クロノジェネシスの凱旋門賞挑戦に端を発した団野の海外修業では、イギリスで開業するロジャー・ヴェリアン調教師、花子夫妻を紹介してもらった。

 「1度、ロジャーと一緒に馬運車で競馬場へ移動した事がありました。その際、良いジョッキーの条件を聞くと『うまいのは勿論だけど、頭の良い人』という答えが返ってきました。それ以降、それまで以上に色々と考えて乗る事を心掛けるようになりました」

 イギリスで約2カ月の滞在。途中2週間ほど過ごしたフランスでは先述した通り、1レース、騎乗機会を得た。

 「ペースが遅くて自分の乗った馬も手応え良く勝負どころへ向けたので『勝てる!』と思いました。でも、最後は他の皆が伸びる中、自分は伸びを欠きました」

 競馬の違いを、身を持って知ると同時に、海外遠征の経験がいかに勉強になるかが分かった。

 今年24年には森秀行調教師の協力もあり、ジャスパークローネと共にサウジアラビア、ドバイ、韓国でも騎乗した。

 「ジャスパークローネでは同じスタッフとあちこちへ行く事で、海外遠征で関係者がいかに大変かも分かりました」

韓国でのジャスパークローネと団野騎手
韓国でのジャスパークローネと団野騎手

バーレーンでの騎乗機会

 そんな中、このバーレーンでは自厩舎のヤマニンサンパの手綱を任される事になった。

 「斉藤先生は常に『自分で考えて行動しなさい』というスタンスなのですが、だからといって放っておかれているわけではありません。競馬で気になった点はすぐに話してくださり、レースを良くチェックしてくれて、親身になって考えてくれているのが分かります」

 そんな師匠からもらった海外での騎乗。恩返しをしたいという気持ちは勿論、強い。

 「福島牝馬S(23年)を先生のステラリアで勝つ事が出来たけど、次は海外やGⅠで勝って恩返しをしたいです」

師匠の斉藤崇史調教師
師匠の斉藤崇史調教師

 レース前夜にはバーレーンのマナーマ市内にあるホテルで現地の競馬会主催のパーティーが行われた。サッカー少年だった団野は元マンチェスターUの名将であるA・ファーガソン氏(バーレーン国際トロフィーで連覇を狙うスピリットダンサーのオーナー兼生産者)と対面し、頬をほころばせた。

 また、W・ハガスやF・グラファールといった伯楽とも初めて顔を合わせ、会話をした。バーレーンではアンドロメダを出走させるグラファールは、この後ジャパンC(GⅠ)にゴリアットを送り込む調教師でもある。彼から「ジャパンCに乗り馬がいないならゴリアットに乗るかい?」と言われた団野は笑いながら「はい!」と返した。既に報道されている通りゴリアットには現在コンビを組んで連勝中のC・スミヨンが引き続き手綱を取るし、パーティーの席で初対面のジョッキーに調教師が勝手に鞍上をゆだねるわけがない事は、団野を始めその場にいた皆が承知していた。だからそんなジョークに場は笑いで包まれた。しかし、これがあながち冗談ではないと思えるようなジョッキーになる事が、斉藤への恩返しになるのかもしれない。ヤマニンサンパとのバーレーンでの騎乗を終えると、すぐに機上の人となり帰国。日曜日にはマイルチャンピオンシップ(GⅠ)でソウルラッシュに騎乗する予定でいる。同レースではイギリスでお世話になったR・ヴェリアンが送り込むチャリンと対決する事にもなるが、まずは目の前の職務を遂行し、師匠への恩返しを出来る日がまた一歩近づく事を期待したい。

バーレーン国際トロフィー、前夜のパーティーでの団野騎手
バーレーン国際トロフィー、前夜のパーティーでの団野騎手

(文中一部敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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