阪神・安芸キャンプ 横田選手の打撃練習でファンを感動させた板山選手の演出とは?
高知県安芸市で行われている阪神の春季キャンプが最終クールに入った24日、青空が広がるポカポカ陽気の中で横田慎太郎選手のランチ特打は始まりました。この日のお客様は約800人。黙々とボールを打ち返す横田選手に視線が集まります。横田選手が初めて外で“打撃練習”(ロングティー)をした16日の模様は、こちらからどうぞ。→<阪神の安芸キャンプ・横田選手が一日早く、外で打っちゃいました!「すごく嬉しかったです」>
これが屋外で初めてのバッティングで、それからチーム本隊が春野で練習試合中の17日に屋外で初めてフリー打撃をしています。メイングラウンドで打ったのも今季初のことでした。この時も横田選手のために、チームのいない安芸市営球場へ来られたファンの方々が、柵越えの打球に大きな拍手!その時のことを書いた記事は、こちらからご覧ください。→<阪神・安芸キャンプ 練習試合で好投の谷川投手が宜野座へ!横田選手の屋外初フリー打撃>
第5クールの21日には、初めてランチ特打としてフリー打撃を行い、73スイングで柵越え1本。矢野燿大監督も見ていて、横田選手は「少し意識しました。やっぱり、ちょっと力んだかなと思います。もっと練習して、いい打球がいくようにしたい」とコメント。柵越えが出た際には新井良太コーチも、ファンの皆さんも大喜び。本人は「こういう機会を作ってもらって嬉しいです。みんなの前で打てて、少しは先輩方に近づけたかなというのはあります。一歩進んだと思いますが、一日一日を大切にしていきたいです」と話しています。
オーナーや社長、掛布SEAの前で
そして24日も同じくランチ特打で、これが自身3度目の屋外フリー打撃となりました。ピッチャーを務めたのはいつもと同じ手嶋秀和トレーナー、11時58分から20分間で86スイング、安打性の当たりが28本、柵越えは1本(76スイング目、右中間よりのライト)という結果です。
この日はタイガースの坂井信也オーナーや揚塩健治社長、掛布雅之SEAらが安芸キャンプを視察。ランチ前にメイングラウンドのライト芝生付近に監督、コーチ、選手、スタッフ全員が集まって、坂井オーナーからの訓示を受けています。続くランチ特打を、坂井オーナーと掛布SEAはバッティングケージのすぐ後ろで土屋明洋トレーナー、藤本将直トレーナーとともに見学。
横田選手の様子に坂井オーナーは「嬉しい。本当に心配していたので安心しました。よかったけど、焦らないようにしてほしい。お父さん、お母さんも心配されていたでしょう。早く戻って実戦でやってほしいけど、焦ったらいかんとも思いますね」との言葉。嬉しいけど焦らせてはいけないという、そんな心情を口にされています。
掛布SEAからは、こんな話がありました。「彼なりに、ここまで体元気になって、ランチ特打ができるまで回復した。嬉しいよね。これからが大変だと思うけど、彼ならまた横田らしい野球ができるまで努力ができる選手。継続した力がある。あきらめないと思う、絶対。オーナーとも話したけど、横田が復活するのは球団としても素晴らしいこと。大きな病気をして、球団がきっちりした形で復活を見守るのはプロ野球にとって大切。あきらめず、時間をかけて復活してもらいたい」
打撃練習の姿も、1月に室内でティーバッティングをする映像を見て以来だそうで「元気になっていて、すごく安心した。(きょうは)ちょっと力んでみたいね。矢野監督も言っていたけど。でも力むくらい元気になったということ。いいことだよね。ボールを捉える目だとか、まだまだ大変だと思うけど。あそこまで…。僕自身、嬉しかった。入院している横田を見ているだけにね」。病院での横田選手をご覧になっていたという坂井オーナーも同じお気持ちだったでしょう。
「自分に負けない、あきらめない」
矢野監督は練習後に「オーナーは横田のバッティング、高橋遥のピッチングを楽しみにしていたとのこと。2人とも、きょうはよくなかったね。力んでいたのかな」と苦笑いしつつ「横田はああやって、いい意味でオーナーや掛布さん、多くのファンに見てもらって、環境が変わってもどんどんできているのは前に進んでいるってこと」と目を細めます。守備に関しての質問があったものの「まだもうちょっと段階をおいてやっている。バッティングを増やして、外野守備をサブでやって問題なくきているから、あわてないようにね」とのことでした。
では24日のランチ特打について、横田選手本人のコメントをご紹介します。まず「いつも通り、打たせてもらって嬉しかったというのが一番大きいです」という感想。これが3度目のフリー打撃、2度目のランチ特打で「前回は少し、飛ばそうという気持ちもあったんですけど、きょうは飛ばそうとかじゃなくて、しっかりスイングしてセンター中心に、自分のバッティングが少しできたかなと思います。でもまだまだなので、しっかり練習していきます」と最後はいつもの言葉ですね。
坂井オーナーや掛布SEAが後ろで見守っておられたことについては「掛布さんに教わったことを、いろいろ思い出しながらやりました。話すタイミングはなかったけど、挨拶だけしました」と言います。教わってきたこと?「2年間ずっと教えてもらっていたことが絶対生きると思うので、一度頭で整理して練習に取り入れていきたいです」。掛布さんも、絶対に大丈夫だとおっしゃっていましたよ。「自分に負けたり、あきらめたら終わりだと思うので、育成に落ちた悔しさを持ってやっていかないと、絶対ひとケタに帰れないし勝負できないと思うので、自分に負けないよう頑張ります!」
それと、今回もファンの方の声援や拍手がありましたね。「それは毎日ほんと嬉しく思いますし、大勢の方に応援してもらっているので必ず恩返ししたいって気持ちが強いです」。打ち終わってベンチへ戻るとき、何人ものファンの方が24番のユニホームを柵にかけてくださっていましたね。「ありました。いつも目に入っています。僕なんかを応援してもらって嬉しいですし、この方たちに喜んでもらえるようにという思いでやっています」
突然流れてきたBGMに…
さて、そのお客様が一段と静かになったのは、20分間のフリー打撃が4分の3ほど終わった頃です。それまで意識もしていなかったであろうBGMに、ある曲のイントロが流れてからです。その歌詞は今、まさにバットを振る横田選手の姿を浮かび上がらせて…。カメラを構えたまま、私も涙がポロポロ出てきてしまいました。悲しいのではありません。どんなにつらかったか想像するしかないけれど、よくここまで頑張ったなあと、おそらく皆さんもそんな思いだったでしょう。
ある曲とは、ゆずの『栄光の架橋』です。アテネ五輪(2004年)のNHKテーマソングで、その後もあらゆるスポーツの場面などで使われていますから、ご存じない方の方が少ないのではないかと思うくらい。そして、悩んで苦しんで辿り着いた道は、きっと栄光へとつながっている―そんなイメージの曲です。もうイントロを聞いただけで歌のフレーズが浮かび上がって泣けてくる、という方も多いはず。だから、ですよ。この日も、イントロに続いて始まった『誰にも…』で早くも涙腺決壊です。
ここに歌詞は書けませんが、横田選手の背中を見ながら聞いた、特に2番がもう…アウトでした。逃げたくなった時に思い出した、たくさんの支え。しかも、この直後のサビへ向かうところで、なんと!大きな弧を描いた打球が右中間の柵を越えたのです。大きな拍手と歓声が上がり、涙ぐんでおられるファンの方々もいらっしゃいました。
わが息子のように心配していた
横田選手のユニホームを手にご覧になっていた方の中から、おふたりにお話を伺ったのでご紹介します。まず大阪から来られたという女性は「髪が伸びてクルクルして、可愛いですねえ」と、お母さんのような眼差し。「はい、お母さんです。息子が病気になったみたいな気がして…。毎朝起きては何か発表がないかとネットで探していました」。昨年2月に宜野座キャンプから戻った後、なかなか情報がなかったですもんね。
ファンになられたのは?「横田選手が初めて1軍キャンプに選ばれた時、2年目ですかね。宜野座でサインをしてもらったんです。半袖で汗をポタポタ落としながら一生懸命書いてくれて。それで、とりこになりました」。なるほど、目に浮かびます!わかりますわ~。こうやって戻ってきた横田選手に「ゆっくりでいいんです」とおっしゃいます。「ゆっくりでいい」と。その言葉が何よりです。
同じく大阪から来られた男性は「鳴尾浜で動き始めた時に見に行って、“安芸で待ってるから”と声をかけると、うなずいてくれたんですよ。そのために来ました」とのこと。「息子が高校生で、年も近いせいか重なってしまいますね。希望に満ちた青年が病になって…。何とか甲子園に戻ってきてほしい」。その日を一緒に待ちます。
この方も「鳴尾浜でサインをもらってから」とファンになられたきっかけはサインでした。サインタイムって人柄がにじみ出るんですね。そして同じように心配をされていたそうです。「何の情報もなくて、毎日ネットで調べていました。でもよかった!帰ってきてくれて」。じっと打撃練習を見守っておられる姿は、やはりお父さんです。
そうそう、最後に「あれはダメですよ。『栄光の架橋』は。歌詞がもう…」とおっしゃっていました。そうですよねえ。表現が変ですけど、なんかもうズルイという感じで。たまたま流れたとは考えにくいでしょう?絶対に誰かが意図的に選曲したはず。そう思って調べました。ニュースソースは明らかにできませんが…それは板山祐太郎選手だったのです。って、タイトルに名前がある時点でわかりましたね(笑)
演出家・板山祐太郎
板山選手を直撃。「え、なんで知ってるんですか?」。それは言えないけど、お客さんが泣いておられましたよ。「ほんとですか!」。はい。「あれは演出です。あれでヨコが打って、みんな感動してくれたらと思って。曲を差し替えたんです」。さすが。いつも個別練習などで自分が選んだ曲を流しているだけあってグッジョブです。すると「ヨコも泣きそうになったって言っていました」と板山選手。実はバッティングピッチャーを務めた手嶋トレーナーも「投げていて泣きそうになった」そうですよ。
ちなみに『栄光の架橋』のフルコーラスとエンディングが終わったところで、合わせたようにバッティング終了の声。時計を見たら、ちょうど20分間でした。もしかして完奏できるように曲のタイムと残り時間を計算してかけた?と聞いたら「そんなこと考えてないですよ!」という答え。そう、たまたまだったんですね。すごいなあと感心していたんだけど。
最後に、きょう26日も横田選手のランチ特打が先ほど終わり、64スイングで安打性の当たりは25本。柵越えはなかったもののフェンス直撃の惜しい打球がありました。そして、また流れたんですよ。ラストに『栄光の架橋』が。きょう初めて見に来られた方はきっと、いや前に遭遇されていても再び感動されたでしょう。
シートノックのために出てきた板山選手は横田選手と何か話していました。きょうも演出・板山祐太郎だったのか確認!すると「きょうは最初に、ヨコの登場曲(2016年『On Your Side』Superfly)」をかけました!」とニヤリ。あ~やっぱりそうだったんですね。「あれもいい曲でしょう?」。それで『栄光の架橋』は?「あれはヨコがかけてくださいって」。おお~本人のリクエストでしたか。終わったあと何を話していたの?「“グッドソング”って(笑)」。お客様も印象的だったと思います。でもどんどんハードルが上がりそうな…。頑張ってください!
<掲載写真は筆者撮影>