【獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」...冬の残酷さを知っていますか?
いまは、1年でいちばん寒いシーズンです。氷点下を大きく下回ったり、雪が降ったりしている極寒の地域も多くあります。
そんな中でも天気のよいときは、野良猫が、まったりと車の上で昼寝をしている風景を見ることがあります。野良猫は、のんびりしていていいなと思っていませんか。
しかし、実際は、野良猫は過酷な環境にいるのです。以前、「【臨床獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」過酷な現実を知っていますか?」という記事を書きました。今日は、さらに冬の野良猫の「生き残れる子は、ほんのわずか」という実態をみていきましょう。
・寝床の問題
猫は寝子と書くぐらい、よく寝ます。猫の睡眠時間は、12~16時間ぐらいといわれています。
猫にとって寝ることは、大切なのです。用事もないのに、ウロウロしているとエネルギーの無駄な消費です。そのためよく寝ています。
猫を室内飼いしている人は、理解できると思いますが、部屋の中でいちばん暖かいところを求めて移動しています。SNSでは、ストーブの前を陣取って、猫が寝ている写真や動画が多く投稿されていますね。猫は、暖かいフワフワしたところで、まったり寝たいのです。
一方、野良猫になると、暖かいところといえば、車の上や車のエンジンの近くになり、それで、車トントン(エンジンをかける前にバンパーを叩くと猫がエンジンの付近にいると出ていくため)などをしないと事故になるのです。野良猫は、風の吹き込まないところを探して寝るぐらいの環境です。
・水の問題
冬場だと、水が凍ってしまうことがあるのです。地域猫の保護活動をしている人は、水も置いてくれますが、地域によっては凍ってしまいます。それに、水が冷たいのですね。外に置いてある水が気温と同じぐらいになるのは、当然ですね。
それのなにが問題なの? と思われるかもしれませんが、野良猫は、以下のような病気を持っている子が多いです。
・いわゆる猫エイズ(FIV)
・猫白血球病ウイルス感染症(FeLV)
・猫カリシウイルス感染症(FCV)
などの猫の伝染病(人には感染しません。猫―猫同士だけです)を持っている子が多く、それらは口内炎などの症状があるのです。口腔内が痛いので、冷たい水だと沁みるので、飲むのをやめてしまい、水分不足になります。それで病気になりやいのです。どんな病気になりやすいかは、後に書きます。
・食事の問題
野良猫は、自分で食べるものを探すので、たいへんです。それで、餌をあげている人もいます。キャットフードには、様々な種類をあるのをご存じでしょうか?子猫用、成猫用、シニア用だけはないのです。腎臓用、肥満用、下部尿路疾患用など多岐にわたります。寒い時期、いちばん問題になる疾患は、下部尿路疾患です。
下部尿路疾患(FLUTD)とは?
・Feline Lower Urinary Tract Disease(猫の下部尿路疾患)の略称
・尿結石
・血尿
・頻繁で痛みを伴う排尿・尿道閉塞
・雄の方が多い
・飲水量不足でもなりやすい
この下部尿路疾患は、フードの問題が大きいです。
一般には、Mg(マグネシウム)の多い食事により、かかりやすくなるといわれています。安価なキャットフードは、このような栄養面を配慮していないことがあります。猫の喰いつきがいいから、といって選ぶとこのようなことになってしまうこともあります。もちろん、野良猫に、そんな高価かフードを与えられないということは、理解できます。
でも、人知れず公園の隅で命を落としている子がいるかもしれないのです。
【実話】猫が公園でうずくまっています
Aさんは「猫を飼ったことがないです。犬のマーチ(仮名)と散歩に行ったら、この子がうずくまっていました」といって野良猫を私の動物病院に連れてきました。
筆者が見たところ、まだ、若い猫でした。
触診をすると、腹部が大きく硬くなっていました。オシッコが出ていないのです。つまり下部尿路疾患になっていました。雄だったので、ペニスから管を入れて膀胱にあるオシッコと結石を排泄させました。数日は、真っ赤なオシッコが出ていました。外の子なので、下部尿路疾患用のキャットフードをもらっていた可能性が低いので、このような病気になりました。
Aさんに、見つけてもらい動物病院に連れてきてもらったので、この猫は、完治しました。治療をしないと尿毒症になり、数日で命が尽きていたかもしれません。
野良猫は、具合が悪いと人の目のつかないところに隠れてしまいます。そして、動けなくなり、命を落とす子が多くいるのです。
まとめ
何度も書いていますが、野良猫は人が作り出したものです。この寒空の下で、上記のような猫がひとりで生きていくのは残酷な環境なのです(寒い時期は、飼い猫でも下部尿路疾患になり、動物病院に来院します)。そのことを理解して猫は完全室内飼いをしてあげてくださいね。
野良猫は、のんきに日向ぼっこしているのではないのです。人目につかないところで、息を引き取っている子が数多くいる現実があります。