「シャドーバン」「トランプ追放」Twitter文書の公開に、ドーシー元CEOが投げかけた課題とは?
イーロン・マスクCEOの号砲で始まった「ツイッター文書」公開キャンペーンでは、ドナルド・トランプ前大統領のアカウント永久停止の舞台裏などが、同社の内部文書によって相次いで明らかにされている。
なかでも目を引くのが、これまで繰り返し指摘されてきた「シャドーバン(影の禁止)」と呼ばれるユーザーへの制裁措置の実態だ。
公開された社内ツールのアカウント画像には、「トレンドブラックリスト」「検索ブラックリスト」といった物々しいラベルが貼られている。
だがこの「シャドーバン」には、今回の「ツイッター文書」公開によっても、なお残る疑問があるという。
そして今回の公開には、元CEOのジャック・ドーシー氏が、ある課題を指摘している。その課題とは?
●「表示のコントロール」
ジャーナリストのバリ・ワイス氏は12月8日の「ツイッター文書」第2弾の連続ツイートで、そう述べている。
ワイス氏は続けてこう指摘している。
ワイス氏はニューヨーク・タイムズのオピニオン編集部の編集者兼ライターだった2020年7月、「同僚のいじめ」「自由のない環境」を理由に辞任を公表したことで知られる。
ツイッターでは、有害コンテンツ投稿などの利用規約違反行為に対して、アカウント停止やツイート非表示といった目に見える強制措置がある。
ただ以前から、それに加えて、ユーザーに気付かれない形でアカウントやツイートを抑え込む秘密の制裁措置「シャドーバン」があるのではないか、と指摘されてきた。
そしてワイス氏は、ツイッターの当時の法務部門の責任者でマスク氏の買収後に解任されたヴィジャヤ・ガッデ氏らが、2018年に公式ブログで「シャドーバン」の存在を否定していたことも指摘している。
だがワイス氏は、ツイッターの内部資料をもとに、ユーザーの知らないところで、このような制裁措置が実在したのだと述べている。
ワイス氏は、制裁の対象になったアカウントについて、ツイッターの社内ツールの画像とともに、「表示フィルタリング」の具体的な内容を指摘する。
それぞれのアカウントには、「トレンドブラックリスト」「検索ブラックリスト」「拡散制限」などの制裁措置を示すタグがつけられている。いずれも、トレンド欄や検索結果への非表示、表示優先度の低下などを意味するようだ。
そしてワイス氏は、いずれも保守系のアカウントがその対象になっていた、としている。
●「次男のスキャンダル」「トランプ追放」の舞台裏
「ツイッター文書」は、CEOのイーロン・マスク氏の肝いりで、12月2日からツイッター上で公開が始まった同社の内部文書をめぐるキャンペーンだ。
第1弾で取り上げたのは、米大統領選最終盤の2020年10月、ニューヨーク・ポストによるジョー・バイデン現大統領の次男、ハンター氏のスキャンダル報道のツイートを、ツイッターが非表示にしたことをめぐる騒動(フェイスブックも表示を制限)だ。
元ローリング・ストーンの編集者でジャーナリストのマット・タイービ氏が、ツイッターの内部文書からその舞台裏をたどった。
※参照:Facebook、Twitterがメディアの「暴露ニュース」を制限する(10/16/2020 新聞紙学的)
第3弾から第5弾は、2021年1月6日の米連邦議会議事堂乱入事件をめぐるドナルド・トランプ前大統領のツイッターアカウント永久停止にいたる舞台裏だ。
そのトランプ氏のアカウントは2022年11月19日、680日ぶりにマスク氏が復活させた。
第3弾は2020年10月から議事堂乱入事件があった2021年1月6日までをタイービ氏、第4弾は7日の動きについて作家のマイケル・シェレンバーガー氏、第5弾は永久停止が実行された8日についてワイス氏が、それぞれ担当している。
※参照:Twitter、Facebookが大統領を黙らせ、ユーザーを不安にさせる理由(01/12/2021 新聞紙学的)
※参照:680日ぶりのトランプ氏Twitter復活、広告主・社員の離反で「イーロン・リスク」の行方は?(11/20/2022 新聞紙学的)
「ツイッター文書」のキャンペーンに共通するのは、マスク氏の買収前のツイッター社内のコンテンツ管理基準が「右派よりも左派」に寄っていた、との主張だ。
他のキャンペーンが、主にツイッター社内の議論をメール、ダイレクトメッセージ、スラックのやりとりなどからトレースしているのに対して、ワイス氏が担当した第2弾は、「シャドーバン」、すなわち「表示フィルタリング」という仕組みの実態を取り扱っている点に特徴がある。
●「シャドーバン」と「ツイッターの説明」
ツイッターが否定していた「シャドーバン」が存在する。ワイス氏はそう指摘している。
ただ、ツイッターは2018年に「シャドーバン」を否定した際、持って回った言い方をしている。
「シャドーバン」を「あるコンテンツを、投稿者が知らないうちに、その人以外には見られないように仕組むこと」と定義した上で、それについては「行っていない」としていた。
それに続いて、「私たちはツイートや検索結果のランク付けは行う」とも述べている。
つまり、投稿者本人以外にまったく見えなくすることはしないが、タイムラインや検索結果での表示を制限することについては、「行う」としていたのだ。
また遅くともこの2018年当時から、ツイッターのヘルプページの「強制的対応の適用レベルと適用範囲」の規定に、「ツイート表示の制限」として、こう説明している。
ユーザーには極めてわかりにくい説明ではあった。
だが、ワイス氏が指摘した「シャドーバン」、すなわち「表示フィルタリング」は、以前からツイッターによって曲がりなりにも公表はされていたことになる。
また、ワイス氏が画像つきで明らかにしたツイッター社内ツールのアカウント画面操作や、「トレンドブラックリスト」「検索ブラックリスト」などの表示制限タグの存在も、すでに過去の報道で明らかになっていた。
テックメディア「マザーボード」は2020年7月、ツイッターアカウントの大規模乗っ取り事件に絡んで、この社内ツールと、表示制限タグの画像を公開している。
※参照:Twitter大規模ハック、17歳はなぜたった2週間で逮捕されたのか?(08/02/2020 新聞紙学的)
つまり「シャドーバン」の実態公表は、目新しい事実に欠けるのだ。
そして新事実が乏しいという点は、このキャンペーン全体を通して、各メディアが指摘している。
●「ウィキリークス型での公開を望む」
2021年11月末にツイッターCEOを辞任したジャック・ドーシー氏は、「ツイッター文書」のキャンペーンを受けた2022年12月13日に自身のブログを更新。在任時の舵取りについて反省しつつ、こう述べている。
告発サイト「ウィキリークス」は、サイト上で流出資料そのものを公開するスタイルで知られる。
さらにドーシー氏は、「右派よりも左派」に寄っていた、とのキャンペーンの主張を念頭に、「悪意や隠された意図はなく、誰もが当時わかっていた最良の情報にもとづいて行動したと今も信じている」とも釈明している。
今回の「ツイッター文書」は、ワイス氏らキャンペーンに携わる限られたジャーナリストのみに限定され、メディアには非公開だという。
ワイス氏が明らかにしているところでは、担当ジャーナリストたちに示された「ツイッター文書」へのアクセスの条件は、その結果を最初にツイッターに投稿する、というものだったという。
今回のキャンペーンが、大手メディアに広がりを見せていないことがCNNなどで指摘されている。大きな理由として挙げられているのが、目新しい事実に欠けることに加えて、「ツイッター文書」そのものがメディアに非公開になっている点だ。
「表示フィルタリング」について、ワイス氏は保守系のアカウントの事例は取り上げたが、リベラル系のアカウントが対象となっているかどうかについては触れていない。
保守系の「FOXニュース」も、「この抑圧の程度や、左派系アカウントが同様の制限を受けたかどうかについては、疑問が残る。ツイッターが “表示フィルタリング”と呼ぶ手法の対象となったアカウントの数は、現在のところ不明だ」としている。
全体像が見えてこないのだ。
ツイッターのコンテンツ管理の政治的バイアスについては2021年10月に、同社の社内調査が公表されている。
それによると、同社の表示優先度を決めるアルゴリズムが、保守系政治家のツイートをリベラル系政治家のツイートよりも多くのユーザーに表示する傾向があったことが明らかになっている。
ツイッターのアルゴリズムには、むしろ「保守バイアス」が確認されているということだ。
※参照:TwitterのAIに「右派推し」のバイアス その対策とは?(10/25/2021 新聞紙学的)
全体像を明らかにするには、ドーシー氏が提言するような「ツイッター文書」の全面公開が早道だろう。
スタンフォード大学インターネット観測所所長で、元フェイスブックの最高セキュリティ責任者(CSO)のアレックス・ステイモス氏は12月8日、マスク氏に直接、「検証のために外部グループに開示しては」とツイートしている。
同観測所は、ツイッターやメタとも連携し、フェイクニュースや情報工作の実態調査を続けてきた。
だがマスク氏は、「あなたはプロパガンダのプラットフォームを運営しているだろう」と真意不明な返答をしている。
開示には前向きではなさそうだ。
(※2022年12月16日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)