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菅総理、今こそ政治家としてのメッセージの発信を!

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
菅総理からの本音のメッセージはいつ聞けるのか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 民主主義は、「民意(政治的要請)」と「複数の専門性」(注1)のバランスを取りながら運営していく政治的仕組みだ。

 そして平時においては、実務的に淡々とした対応をとることが重要だ。その意味では、政治の側からのメッセージも、どちらかといえば国民・市民・有権者よりも、政策や政治に直接かかわる側(主に官僚など)へのメッセージが重要だといえる。その場合、実際的な指示や実務的な内容が重要であり、ある意味地味で平板でも構わないといえる。

 他方、有事や危機的状況においては、特に前者、国民・市民・有権者へのメッセージが重要になる。私たち(国民・市民・有権者ら)は、常時政治や政策を考えているわけではないし、その分野の専門家ではない。さらに近年政策課題は錯綜し、その専門的知見なしでは的確に理解できないことが多い。その意味では、このような場合において、政治の側からは、単なる事実やデータの説明や指示を超えたメッセージが必要だ。

 また有事・危機的状況においては、社会的な不安や閉塞感が高まるので、それがたとえ正しくても、単に事実だけを語られても、私たちの心に響くことも、届くこともない。政治の側のより発信者自身の思いの籠もった言葉や語りが必要だ(注2)。

 そもそも、政策に関して、事実や内容を単に「説明する」だけなら、政治家は不要で、官僚が対応すれば済むはずだ。政治家の役割は、単なる事実の説明を超えた言葉(もちろん間違った情報はダメであるが)を通じて、私たちに政策や社会的な方向性について語ることだろう。その意味において、政治家にとって、言葉における、「感情・情」の部分は、本質的というか必要不可欠のもの、つまり「政治家の命」ともいうべきではないだろうか。

海外では政治のトップリーダーが明確なメッセージを発している
海外では政治のトップリーダーが明確なメッセージを発している写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 さらに、政治家は、ある意味で役割を演じることが求められる仕事というか「生き方」であると思う。その意味では、総理には総理、官房長官には官房長官、大臣には大臣、議員には議員等の果たすべき役割がある。

 そしてまた、例えば総理と官房長官などは、ある意味の組み合わせ・コンビで役割を演じる必要があるといえる。その意味で、中曽根康弘総理と後藤田正晴官房長官、大平正芳総理と伊東正義官房長官、小泉純一郎総理と福田康夫官房長官、そして安倍晋三総理と菅義偉官房長官などは、政権運営という面からみるといい組み合わせであったといえる。しかし、その組み合わせの時にはうまく回っても、立場が替わり、組み合わせが変われば、うまくいくとは限らない。

小泉総理は在任時明確なメッセージを発し、国民から高い支持を得た
小泉総理は在任時明確なメッセージを発し、国民から高い支持を得た写真:ロイター/アフロ

 上述の組み合わせでは、名官房長官といわれ総理就任を打診されたにもかかわらず自身の適格性の観点からそれを断固拒否した者がいることと、逆に総理に就任した何人かの方は政権運用において苦労・難渋しているという事実は、政治史的にも考えても、貴重な教訓といえるだろう。

国会本会議での菅総理の演説
国会本会議での菅総理の演説写真:つのだよしお/アフロ

 以上のようなことを踏まえて考えると、現在の菅総理のパフォーマンスやメッセージの出し方に関しては非常に厳しい評価をせざるを得ない。

 菅さんは、コロナ禍のなかで総理になられた。特に日本は今、そのコロナ禍がさらに深刻化し、有事・危機的状況にあるといえる。その意味から、菅総理には、官房長官時の成功体験を一度完全に忘れていただきたい。またご本人のキャラ的には実務的志向が強いのだと思うが、ぜひ情の籠った政治家としてのメッセージを発信していただきたいと思う。もちろん、無理にパフォーマンスしろとか、派手にたち回ってほしいということではない。菅総理には、菅さんなりの持ち味やキャラを活かした言葉や語り口でいいので、その対応をよろしくお願いしたいところだ。流暢でなくても、淡々でもいいが、政治家菅義偉自身の心からの本音のメッセージを是非とも、そして今こそお願いしたい。

 日本国内の経済状況はさらに悪化するなか、生活に喘ぐ国民や市民も生まれてきているという。そんななか、深刻化するコロナ禍において、国民は、菅総理の政治家としての本音の言葉を、心から切望している。

(注1)これには、政策などを扱う官僚やその他の政策専門家などが含まれる。

(注2)そのようなメッセージが時として、プロパガンダになり、国民らが扇動され、社会に混乱や問題が起きることもあることを、私たちは歴史の教訓として、思い出すべき必要はある。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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