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目標の「W杯ベスト8」へ、森保ジャパンに何が足りないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 森保一監督が率いる日本代表は、順風満帆である。

 10月3日、2026年W杯アジア最終予選、サウジアラビア(10日)、オーストラリア(15日)と戦うメンバーが発表されたが、久保建英(レアル・ソシエダ)、南野拓実(モナコ)、三笘薫(ブライトン)など欧州のトップリーグでプレーする選手が名を連ねている。MF、FWは全員が欧州組で戦力は充実。選手層の分厚さは史上最強だ。

 2026年W杯アジア最終予選では、12得点無失点で2連勝スタート。3-4-2-1という攻撃重視のシステムを採用し、圧倒的な展開を見せる。4-3-3,4-2-3-1だけでなく、システムのバリエーションを作れるのは、有力選手のおかげだ。

 では、森保ジャパンは目標に掲げる「W杯ベスト8」を達成できるのか?

3-4-2-1で世界の強豪と戦えるか

 まず、アジア最終予選で採用してめどがついた3-4-2-1だが、W杯ではオプションにしかならないかもしれない。

 このシステムは、前輪駆動型である。前線に人数をかけ、敵陣で長くプレーし、何度もゴールに迫る。「アジア」という実力差、二つ三つカテゴリーの違いがあるような相手に対しては、力を発揮している。

 しかし、世界の強豪相手には苦しい展開になるだろう。スペイン、ブラジル、アルゼンチン、フランスのような相手は、確実な攻め手を持っている。もし三笘薫がディフェンスラインまで下がらざるを得なかったら、それは騎兵に馬から降りることを命ずるようなもので、本末転倒だ。

 ウィングハーフ(三笘、堂安律が担当する)はアジアでは暴れ回れる。しかし、世界のトップレベルの相手には持ち味は消されるだろう。受けに回った場合、二人は弱点を晒す。背後を狙われ、対人プレーに引きずり込まれた時、守備では穴になり得る。

 もちろん、シャビ・アロンソ監督が率いるレバークーゼンのように圧倒的に攻め続けられたら、十分に機能する。むしろ、日本人のキャラクターや長所を加味した最適の戦術かもしれない。個人的には、浪漫も感じる。

 しかしそこまで戦術を高められるのは、日々トレーニングができるクラブだけではないか。

 過去の代表を振り返っても、世界的名将アリゴ・サッキでさえイタリア代表でACミランのような戦術は浸透させられず、結局はロベルト・バッジョの奇跡とフランコ・バレージの感覚に頼らざるを得なかった。代表チーム同士の戦いは多くの場合、選手個人の超人的なプレー、機転の良さ、そして勝負への執念のようなもので決している。

 2018年のロシアW杯で西野ジャパンがほとんどぶっつけ本番にもかかわらず、すばらしい戦いを見せたのは驚きではないのだ。

左サイドバックの人材難

 断っておくが、3-4-2-1が悪いわけではない。有力なオプションである。アジアでは有効だし、世界でも中堅国だったら十分に通用するはずで、日本人の特徴とも付合しているが…。

 一本化するべきではない。

 そもそも、このシステムは苦肉の策だ。

「高いレベルの左サイドバックがいない」

 その実状がある。長友佑都がもはや世界のトップレベルではないことは明白だが、メンバーに選ばざるを得ない。人材難は明らかで、控え目に言って危機的。左サイドバックは、森保ジャパンのアキレス腱だ。

 伊藤洋輝が本来、(ケガから復帰後は)左サイドバックの最有力候補と言えるだろう。たしかにクラブチームでのパフォーマンスはそれに値する。しかし、代表ではノッキングが続く。カタールW杯のような致命的な守りのミスはなくなってきたが、パス出しのところは相変わらず周囲と合っていない。監督の使い方やコンセプトの違いか、どこか窮屈そうに映る。

 個人的には、冨安健洋が万全であれば左サイドバックでの起用を推奨する。彼は相手のエースを封殺できるが、守ることだけにとどまらない。攻撃に打って出て、コンビネーションを作れる選手だ。

遠藤の代役

 森保ジャパンが攻撃路線に向かうのは筆者も賛同したいが、その中でもう一つ懸念材料がある。

 ボランチで攻守の舵を取る、遠藤航のバックアップ不在だ。

 W杯でベスト8まで勝ち抜くには5試合を戦う。遠藤に連戦を強いることは、チームのパワーダウンを意味する。過去の大会も、遠藤の酷使がチームの限界点だった。

 遠藤の屈強さと気の利いた攻守は、唯一無二だろう。ポジションを保全することで守りに厚みを与え、受けに回ったときの高さ、強さは頼もしい。簡潔にプレーできる先見性があり、攻撃にも打って出られる。

 守田は遠藤のパートナーとしては最適だし、近い仕事もできる。しかし、高さや強さでやや不安が残る。そもそも彼にはポジションがあり、遠藤の代役ではない。

 今回、メンバー入りした藤田譲瑠チマは有力候補るだろう。パリ五輪予選での存在感は傑出。代表に呼ばれるだけのステップは踏んできたし、体格に恵まれてポテンシャルの高さもある。

 しかし、遠藤には遠く及ばない。昨シーズンはベルギーでも中位でしかないシントトロイデンで定位置をつかみきれなかった。タイプは違うが、田中碧や旗手怜央の方が現状の序列は上だ。

 その点、推奨したいのが橋本拳人である。橋本は遠藤の仕事をそのまま請け負える。実際、遠藤が代表でポジションを奪い取るまで、定位置を守っていた。

 今シーズン、橋本は1部復帰を目指すエイバルのMFとしてプレーしている。開幕後の入団のせいでデビューは遅れていたが、先日のアルメリア戦でピッチに立った。昨シーズンも同じ2部のウエスカでレギュラーとしてプレーし、持ち味の守りと攻撃のバランスを取れる能力は健在。チームのシーズンベストゴールも決めた。ちなみにスペイン2部は家長昭博、香川真司、井手口陽介など日本代表勢も苦戦し、ベルギーやスコットランドの1部以上の競争力だ。

 森保ジャパンは当面、アジアでの戦いを強いられる。しかし、大差で勝利しても、W杯本大会ではまったく違う戦いが待つ。「ベスト8」に向けては、システムの最適解、左サイドバック運用、遠藤の代役など解決することは山積みだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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