Jリーグ『夢の列車』がバンコクの街を駆けめぐる!〜 キーマンがJリーグのアジア戦略2020を語る 〜
『あっ! ティーラトン! イニエスタだ!!』
バンコクの街中をJリーグのイニエスタ選手などの画像を乗せた列車が走る。
友だちとサッカーをしていた少年も思わずプレイを止め、見入っていた。
それは、11月7日(土)の出来事だった。
タイの首都バンコクを走る主要交通機関である列車バンコク・スカイトレイン(BTS)。そこに「2020明治安田生命Jリーグ」のプロモーション仕様でのラッピング列車が運行を始めた。
2012年からJリーグはアジア戦略を積極的に進めていたが、近年では特にタイにおいてはJリーグの試合視聴者が急激に増加している。最近の関心度調査(Jリーグ調査)では、なんと関心度が49%まで上昇しており、タイ国内でおよそ2人に1人のタイ人がJリーグに関心や興味を持っているという。
さらに多くのタイの方々に2020明治安田生命Jリーグに興味を持ってもらい、試合視聴を楽しんでいただくために考えられたのがラッピング列車の運行であり、そういったJリーグ人気をさらにアップし定着するための施策でもある。間違いなく「2020明治安田生命Jリーグ」の試合視聴のさらなる機会創出になっていくだろうが、
何故このような施策が取られたのだろうか? Jリーグのキーマンに話を聞いてみた。
ちなみにラッピング列車の走行予定は以下となっている。
○ラッピング列車
運行期間: 2020年11月7日~12月20日
運行区間: バンコク・スカイトレイン(BTS)運行全区間
運行時間: 毎日5:30~22:30(タイの時間)
デザイン: 『Global Icons, Local Heroes, This is J.LEAGUE.』といったプロモーションコンセプトに沿って選出したJ1リーグ全18クラブの選手が描かれている
2012年からスタートしたJリーグのアジア戦略、次の段階へ
このラッピング列車の仕掛け人がいる。
小山 恵氏、株式会社Jリーグ・グローバルカンパニー部門に所属だ。
大学卒業後に商社に入社し、主に東アジア・東南アジアでのビジネスを経験。2012年に株式会社Jリーグメディアプロモーションに入社し、Jリーグのアジア戦略室立ち上げメンバーとして参画。黎明期から現在に渡ってJリーグの国際展開・アジア戦略を手掛けている。海外放映権の販売にも尽力し大きな成果を出しており、ビジネス誌などでも注目を浴びている(現在は2020年1月のJリーグ組織再編に伴い、以降は株式会社Jリーグ グローバルカンパニー部門に所属)。
小山氏に今回のサッカーの枠を越えて、日本とタイなど東南アジアの次世代の交流にもつながる“夢の列車”について、お話を伺った。
ー 今回のプランのそもそもの発案者はどなたなのでしょうか?
私から発案させていただきました。
アジア戦略を始めた2012年ころからバンコクにはよく通っており、タイではいまだに屋外広告が主要な媒体として位置づけられていることもあり、多くの欧州クラブ・選手の屋外広告・ラッピング電車をよく目にしていて、いつかはJリーグも・・・とずっと思っておりました。当然、当時のJリーグの認知度ではラッピング電車をやっ
ても効果は見込めずという状況でしたが。
ー 昨シーズンの最終節で優勝を決める大一番、横浜F・マリノスとFC東京の試合。私も日産スタジアムで観ていましたが、タイ人選手が優勝を決める先制点をあげるなど、ある意味、ここ数年のJリーグのアジア戦略が結実したような一戦となりました。
おっしゃる通りだと思います。
タイ人選手の加入・活躍、継続したプロモ施策の効果もあり、Jリーグのタイでの認知・関心は近年急上昇しています。2013年には19%だった関心度は、2019年には49%まで上昇し、クリスティアーノ・ロナウドのいるセリエA、ネイマールのいるリーグ・アンよりも人気が高い状況なんです。
そのような中で、タイはアジア戦略の最重要市場となっており、大規模なオンラインでのファン調査も実施しました。より効果的な施策を導き出すため、その調査から以下の二つの気付きや課題があったのです。
1Jリーグファンのデモグラは、30-40代男性が圧倒的に多く、10代の若者や女性にはなかなかリーチできていない
2今年からライツホルダーが変わったこともあり、そのライツホルダーがJリーグを放映している事実の認知がまだ低い
以上のような気づきから、
◯サッカーファンだけでなくマスにリーチできる媒体、インパクトのある施策でSNSでのバズも期待できる
◯放映告知もボディラッピングに入れることで周知
という狙いを持って、今回のトレインラッピング施策の実施に至ったのです。
トレインラッピング、想像以上の反響と現地からの声
ー実際の反響などはいかがでしょうか?
反響はとても良いです。タイ現地のメディアにも以下のように掲載されており、タイトルは『歴史的瞬間。タイのスカイトレインでJリーグ告知。』と報じられたんです。
また、フォロワー約60万人(日本語の約3倍)を誇るJリーグ公式タイ語Facebookでもポジティブな反応が見られました。
2026年ワールドカップ に東南アジア国の初出場! さらに沸騰するサッカー熱
ー この反響は凄いですね! 今回のプロモーションの舞台裏を教えていただけますでしょうか?
今回のプロモーションコンセプトは、以下のように定めました。
『Global Icons, Local Heroes, This is J.LEAGUE.』
タイ出身の国民的人気選手(Local Heroes)と世界的な名手(イニエスタ選手などのGlobal Icons)がともに集うアジア最高のリーグ、というブランディングでアプローチしています。デザイン・クリエイティブ・コピーについても、タイ・アメリカ在住の優秀なクリエイター達と試行錯誤しながら生み出しました。
Jリーグに興味を持つのはタイ人選手が入り口になりますが、リーグ・クラブそのものや他の選手にも関心を広げたいという思いから、全18クラブの選手を名前・チーム名と共にボディペイントしています。
ー今後はどのような展開を構築されていきますか?
個人的な思いも入りますが、こんなふうに展開できればと考えています。
まずタイでは、ラリーガ・ブンデスリーガの人気を抜いていく。圧倒的人気を誇るプレミアリーグ・タイリーグの次に位置づけたい。また、タイでの成功モデルを隣国のインドネシアやベトナムにも拡充していく。さらにワールドカップ出場枠が増え、東南アジアから初出場が生まれて大ブームが起こる可能性が高い2026年に、東南アジア代表選手の多くがJリーグでプレーしている世界を創っていく。
そんな夢を描きながら仕事をしています。
*バンコク・スカイトレイン(BTS)とは?
https://www.bts.co.th/eng/
タイの首都・バンコクの高架鉄道システム。運営会社である「Bangkok Mass Transit System Public Company Limited.(バンコク大衆輸送システム社)」の頭文字を取り、一般的にはBTSと呼ばれている。
(了)