ノーヒッター達成のヤクルト小川泰弘は「バンダミーア」にどこまで迫れるか?
8月15日の横浜DeNAベイスターズ戦(横浜)でプロ野球史上82人目のノーヒットノーランを達成した、東京ヤクルトスワローズの小川泰弘(30歳)。彼は現在、日米のプロ野球でもただ1人、次回の登板でジョニー・バンダミーアの大記録に挑戦する資格を持っている。
MLB史上唯一の「2試合連続ノーヒッター」
バンダミーアとは誰か? 彼は1930年代から50年代にかけてシンシナティ・レッズなどで通算119勝を挙げた元メジャーリーガーである。1941年から3年連続でナ・リーグの奪三振王に輝き、オールスターに4回選出される一方で、リーグ最多与四球も2度記録するなど「荒れ球」でも知られたこのサウスポーが球史に名を残しているのは、今から82年前に誰も成し遂げた者のいない“離れ業”をやってのけたからにほかならない。
それが2試合連続ノーヒットノーランだ。1937年にレッズでメジャーデビューしたバンダミーアは、翌1938年6月11日に本拠地のクロスリー・フィールドで行われたボストン・ビーズ(現アトランタ・ブレーブス)戦で、まずは最初のノーヒットノーランを達成する。当時23歳。奪った三振こそ4つ止まりだったが、与えた四球(※)は3つだけで、ボールを低めに集めてゴロの山を築いた。
「あと2人」から3連続四球も…
続いて先発マウンドに上がったのは、中3日を置いた6月15日のブルックリン(現ロサンゼルス)・ドジャース戦。この試合は、当時のドジャースの本拠地エベッツ・フィールドで初めて開催されたナイトゲーム。試合前にはさまざまなアトラクションが行われ、球審がプレーボールをコールする頃には午後9時を優に回っていた。
8回まで奪三振7、与四球5と、バンダミーアは前回とは打って変わって”持ち味”を発揮しつつも、1本の安打も許さずに9回を迎える。ところがそのドジャース最後の攻撃で、1死から3者連続フォアボールを与え、あっという間に満塁のピンチとなった。
だが、次打者をサードゴロに打ち取って本塁封殺でツーアウトにこぎつけると、最後はのちに監督として殿堂入りするレオ・ドローチャーをセンターフライに抑えてゲームセット。その瞬間に、史上初の2試合連続ノーヒットノーランが達成された。
ブラックウェルは「2試合連続」まであと2人
続く6月19日のビーズ戦でも4回1死までノーヒットピッチングを続けるが、そこでヒットを打たれ、3試合連続の偉業とはならなかった。しかし、6月5日のニューヨーク(現サンフランシスコ)・ジャイアンツ戦の9回2死から数えて21回2/3連続無安打は、ナ・リーグ記録として今も残っている。
バンダミーアはその後、第2次世界大戦への従軍を経て1946年にレッズに復帰。すると、翌1947年にはチームメイトのユーウェル・ブラックウェル(当時24歳)が彼の記録に迫る。6月18日のボストン(現アトランタ)・ブレーブス戦でノーヒットノーランを達成し、中3日で先発したドジャース戦でも9回1死まで無安打無得点を続けるが、そこからセンター前にヒットを許し、あと2人というところで史上2人目の大記録を逃した。
なお、厳密にいえばメジャーリーグに「ノーヒットノーラン」という記録はない。公式記録として残るのはあくまでも「ノーヒッター」であり、9イニング以上投げて最後まで1本の安打も許さなかった試合を指す。したがって、失策などによる失点があったとしても、ヒットを打たれなければノーヒッターとみなされる。
昨年達成の千賀は、次戦も5回1死までノーヒット
メジャーリーグでは通算7回のノーラン・ライアン(元エンゼルスほか)を筆頭に、ノーヒッターを2回以上達成している投手が35人いるが(ポストシーズンを含む)、2試合連続はバンダミーアしかいない。ライアンの5714奪三振、サイ・ヤング(レッドソックスほか)の511勝といった通算記録とともに、バンダミーアの偉業も並ぶことすら不可能な「アンタッチャブル・レコード」と言われるのもうなずける。
一方、NPBの公式記録にあるのは「無安打無得点試合(ノーヒットノーラン)」であり、安打を打たれなくとも失点があればこれには該当しない。1人の走者も許さない「完全試合」を含め、ノーヒットノーランを複数回達成したのは、各3回の沢村栄治(巨人)、外木場義郎(広島)などこれまでに9人いるが、2試合連続はもちろん皆無で、1シーズンに2回という投手もいない。
昨年9月6日に達成した福岡ソフトバンクホークスの千賀滉大は、中5日で先発した9月12日の埼玉西武ライオンズ戦(メットライフ)でも5回1死まで無安打を継続。千賀に次いで9月14日にこれを成し遂げた中日ドラゴンズの大野雄大は、続く9月23日広島東洋カープ戦(マツダ)では、1回2死から初安打となる二塁打を許している。
メジャーリーグとは舞台が違うとはいえ、小川はどこまで「アンタッチャブル・レコード」に迫ることができるか──。次の登板を楽しみにしたい。
(※)公開時は「死球」となっておりましたが、正しくは「四球」ですので修正しました。