「100日後に死ぬワニ」:共感とアンチ炎上とSNSの心理:電通に素朴さを壊された?
<人々は、「100日後に死ぬワニ」の作品だけでなく、作品をとりまく全体を、素朴で素敵な物語と感じ共感した。その思いが裏切られたと感じた!?>
■「100日後に死ぬワニ」大ヒット!
有名人でもない個人が、ツイッターで連載を始めた4コマ漫画。それが、まさかの大ヒット、大注目。
ネット上の盛り上がりは、最終回が近づくにつれてヒートアップ。さらに、いくつものテレビ番組でも紹介されました。
連載終了日の2020年3月20日には、ついにツイッターのトレンドで「世界1位」を獲得しました。
最終回も素敵でしたね。
<「100日後に死ぬワニ」最終回100日め:私たちの命は桜の木のように>
■「100日後に死ぬワニ」の共感が広がった理由:命の意味、素朴さの魅力
作品の最終的な大ヒットには、テレビメディアも大きく影響したとは思います。
ただ、それ以前からネット上で共感の輪が広がっていました(活発にリツイートされ、拡散されました)。
作品自体のテーマ性も良かったと思います。
<私たちはみな「100日後に死ぬワニ」:死を意識することで見える世界>
さらに、共感が広がった理由の一つとして、その「素朴さ」があったと思います。
画風も、ストーリーも、素朴です。有名人でもない個人によるSNS発信であるということも、庶民的で共感しやすかったのでしょう。
「100日後に死ぬワニ」の作品自体だけでなく、作者も、世間への発表も含めて、素朴でほのぼのとした感じが、共感を広げたと思います。
素朴というのは、人間世界の汚れた世界から離れ、ビュアで美しい世界です。
インターネット、特にSNSは、コマーシャルライズされすぎず、本音で、個人と個人が語り合っているような感じが、評価を高めます。テレビCMや、会社や行政の記者会見とは違います。
大企業の社長や県知事や市長も、まるで「普通の人」のように、歌ったり、みんなと踊ったり、本音で語ったりするところが、ウケるのです。企業の自虐ネタなども、ウケますね。
「100日後に死ぬワニ」は、作品の良さと、作者や発表の仕方などが一つの「物語」となり、その物語性がネットのSNSと親和性が高かった(ピッタリと合った)ことで、共感が広がったのだと思います。
■「100日後に死ぬワニ」への非難攻撃炎上が広がった理由
今も、もちろん「100日後に死ぬワニ」への高評価は続いています。感動も広がっています。
その一方で、書籍化、映画化が発表されると、いわゆるアンチも増えてしまいました。
<「100日後に死ぬワニ」最終回直後に“炎上” 突然のメディア展開発表あだに>
「100日後に死ぬワニ」への非難攻撃炎上が起きた理由は、世間が信じていた「素朴さ」が裏切られたと感じたからなのでしょう。
電通など大企業の名前が出て、矢継ぎ早に書籍化、映画化の話題が出ました。
作品自体の素朴さだけでなく、作者やSNSを含めた「素朴な物語性」が壊されたと感じたのでしょう。
人々は、そこに大企業の思惑を感じ、素朴の対極であるお金の匂いを感じてしまったのでしょう。
この作品が最初から大手の漫画誌に載っていれば、こんな批判が起きることはなかったでしょう。
でも、ネットユーザーは、自分たちの仲間の活動として共感し自発的にリツイートしていたと思っていたのに、その素朴さが裏切られたと感じました。自分たちが、大企業の金儲けの手のひらで踊らされていた、そう感じた人々は怒りが爆発しました。
「考えてみれば、ただの個人の素朴な活動が、こんなふうに大注目するわけがない。なぁんだ最初から、裏で電通が糸を引いていたのか」と感じ、落胆し、そして怒りを感じ、その怒りと、この「真実」を広げたい欲求に駆られた人も多かったのでしょう。
ただし、最初から大企業が企画したことではなく、個人の活動が大注目を集め、その結果、大企業が参入したのが真実でした。
<101日後に炎上したワニ 評論家が指摘する後味の悪さ:朝日新聞3/21>
この記事によれば、「『電通案件』否定、作者は涙の釈明」です。
もっとも、私が「最初から大企業が企画したことではなく」と言っても、「お前はだまされているのだ!」と考える方もいらっしゃるでしょうが。
■アンチと炎上の心理
とはいえ、ネットで炎上しているとはいえ、感動した読者がみんなアンチになって、炎上に加担したわけではないでしょう。もしそうなら、もう本も映画もだめですが、そんなことはないと思います。
ネット炎上に関する研究によれば、炎上に参加して発言している人はほんの少数で、その少数の人が繰り返し投稿していると言われてます。
そうして、何かの掲示板や記事のコメント投稿欄で、アンチの投稿ばかりが増えると、そうではない意見は投稿しにくくなりますが、世間の人がみんな賛同しているわけではありません。
持ち上げて、そして叩き落とす。世間では、よくあることです。それは週刊誌だけではありません。ネット上でもあることでしょう。持ち上げられ、評判が高まれば、快く思わない人も出てきます。
有名になって調べ上げられれば、批判のタネの一つも出てくるでしょう。有名な人、成功した人を攻撃したい人は、いるものです。
■「100日後に死ぬワニ」と死の物語
「100日後に死ぬワニ」を批判する人の中には、その思いが強すぎて、「『死』を金儲けに使うなんて」と怒る人まで出ています。これはちょっと、勢いが余ってしまったかなと思います。
死は、作品の中で多く扱われきました。「ロミオとジュリエット」もそうですし、現代の刑事ドラマも、病院ドラマも、難病ものの恋愛ドラマも、戦争映画も、みんな死を扱っています。
でも、だからと言って、その作品群が、死を金儲けに使っているわけでもなく、不謹慎でもなく、死を冒涜しているわけでもないでしょう。
ただし研究によれば、死をあまりにもドラマチチックに扱いすぎ、過剰演出することは、人々の死生観に悪影響を与えるという説もありますが。
「100日後に死ぬワニ」は、本来そうではない作品だと思います。
■SNSとお金、ビジネス
SNSは、本音の場。パーソナライズされた場。ユーザーはそう感じて、それを楽しんでいます。ある個人が、別の個人と話すときには、その通りです。
その雰囲気の中で、人助けが起こったり、感動的な出来事も起きたりします。
「100日後に死ぬワニ」も、その一つでした。
そして、ある作品がヒットすれば、大手がそれを活用してさらにビジネス化することは、当たり前のことでしょう。しかし、その当たり前を、SNSユーザーは、嫌ったのでしょう。
SNSユーザーは、あくまでも「素朴な個人の物語」を求めたのでしょう。
「 SNSは本音トークが求められますが、本音そのままでは、しばしば拒否されるのです」(SNSとネットコミュニケーションの心理学:現代を生き抜く必須知識:Y!ニュース個人有料)。
ただ、本当は、ビジネスやビッグになることと、SNSの素朴さや本音トークは、矛盾はないと思います。
当たり前のことですが、ビジネスをして大金を動かしている人も、優しく素朴な心を持っています。ただ、ネット上の発言や広告表現は要注意でしょう。そして、大企業には心がないと思い込んでいる人もいることは覚えておいた方が良いでしょう。
「100日後に死ぬワニ」。作者がテレビに出たり、作品に大企業が関われば、様々な問題も起こるでしょう。でも、それでも、良い作品だと感じたファンのみなさんが、応援し続けられるように、この作品が良い方向に発展していって欲しいと願っています。