安倍自民の勝利でブラック企業が大喜び、過労死頻発―衆院選で争点化しなかった「働き方改革」の危険性
日本の政治報道の問題は、どこの党にどの議員が入った抜けた、その背景は、というような政局についての報道があまりに多く、それに比して政策を分析するような報道が少ない、ということだろう。選挙直前の報道各社の票読みでも、自民党が優勢と報じられているが、今回の選挙の隠れた争点として、安倍政権が推進しようとする「働き方改革」の是非がある。この「働き方改革」によって、さらに過労死・過労自殺が頻発することになりかねないのだ。
〇裁量労働制で過労死・過労自殺が頻発する
働き方改革とは、労働基準法の改正(改悪)を軸とする一連の政策で、自民党や一部のメディアは、「長時間労働を是正」「賃金などの待遇について、職務内容によって公正に評価される仕組みを導入」「同一労働同一賃金」を実現する等としている。一見良いことのように思えるが、労働問題に詳しい河添誠さん(都留文科大学非常勤講師)は「安倍政権の主張の垂れ流しで、働き方改革の危うさがほとんど報じられていません。働き方改革は、過労死推進、ブラック企業応援とも言える酷い改悪です」と指摘する。
「高度プロフェッショナル制度、いわゆる残業代ゼロ法案の問題は、これまで論議されてきましたが、安倍政権の働き方改革の本丸は、むしろ、『裁量労働制の拡大』でしょう。これは、実際の労働時間の長い短いに関係なく、何時間働いても一定時間だけしか働いたと見なさないものとするというものです。例えば、あらかじめ決めた労働時間が『8時間』とされていた場合、実際の労働時間が10時間になろうが、12時間になろうが、8時間分の賃金しか支払われず、残業代は出ません。この裁量労働制は、現在は、専門業務と企画業務に限って認められていますが、安倍政権の働き方改革では、これを営業職などにも拡大していこうとしているのです。その結果、長時間労働をますます蔓延らせ、過労死や過労自殺がさらに増えることになるでしょう」(河添さん)。
裁量労働制については、『効率的に働けば、長時間労働を是正』との主張もある。ただ、実際の事例から観ると、過大なノルマを押し付けられ、結果として長時間労働になることが多々あるようだ。
「厚労省の統計によれば、一部の企業で既に行われている裁量労働制で、2012年から2015年の間に13人の過労死が労災として認定されています。しかも、原則『年収1,075万円以上の高収入の専門職を対象とする』としている高度プロフェッショナル制度と異なり、裁量労働制は年収の多い少ないも関係ありません。正にブラック企業が大喜びするような内容なのです。安倍政権としては、高度プロフェッショナル制度より、むしろ裁量労働制の拡大を推進したいというのが、本音でしょう。今後の展開としては、連合に対し、高度プロフェッショナル制度を取り下げるかわりに、裁量労働制の拡大を飲め、と迫ることは十分あり得ます」(河添さん)。
〇社会問題化したのに、選挙の争点にならず
電通社員だった高橋まつりさんの過労自殺事件など、長時間労働による健康被害や過労死・過労自殺が社会問題化したにもかかわらず、今回の選挙報道では、労働問題がメディア上で論議されることは少なかった。選挙絡みの報道の大半は希望の党をめぐるドタバタ劇に費やされたが、それによって漁夫の利を得たのが自民党だ。選挙において、何を争点として優先順位をつけるべきなのか、日本のメディア関係者は考え直す必要があるのではないだろうか。
(了)