学校での勤務時間改ざん、なぜ起こるのか、何が問題か
学校での出退勤管理は正確なのか
地震やワールドカップの影響であまり目立っていないかもしれないが、先日、次の事件が報じられた。
学校の働き方改革が叫ばれるなかで、こういうことが起きている。本件のように管理職が本人に断りもせず改ざんする例はごく一部かもしれないが、わたしのところには、教師数名から次のような声も寄せられている。
・うちも同じようなことがある。
・管理職から時間外100時間を超えないように書いてくださいと言われた、指示された。
・どこも同じですね。
本件のようなことは氷山の一角かもしれない。学校現場では、正確な出退勤管理がなされていない可能性が高い。
今回の福井市だけを批判したいわけではないが、自己申告制で、誰もが書き換えられるファイル・フォルダに保存してあった。市教委に提出された結果は次のとおりとのことだ。
つまり、月100時間超えが0.2~0.3%程度だというのだが、これは真実を伝えているのだろうか。
国の教員勤務実態調査(2016年実施)によると、週65時間以上勤務、つまり、時間外が月100時間以上と思われる教員は、小学校で約17%、中学校で約40%いる。福井市で業務改善等がよほど大幅に進んでいるとは考えにくいので、自己申告による出退勤管理のうち、相当過少申告が見られるのではないか、と疑うほうが自然だ。特に、土日の部活動などの時間外は申告されていない問題などがある可能性もある。
学校において勤務時間が過少申告されている問題は、今回が初めてではない。2016年3月10日の国会(参議院文教科学委員会)では、愛知県の岡崎市の例として、管理職から少な目に申告するように“指導”が入るケースもあったという話が出ている(こんなことまで、学校では”指導”という言葉を使うことがあるのだが、まったく勘違いな”指導”だ)。
http://blogos.com/article/166829/
学校での勤務時間の改ざんはなぜ起こるのか
どうしてこんなことが起きるのか。いくつか理由がある。
ひとつは、福井市や岡崎市の事件のように、管理職が改ざんしたり、過少申告を指示したりするケース。働き方改革の必要性が強調されているなかで、教育委員会としても目標を決めている例がある。たとえば、月残業80時間超えをゼロにします、といった例がある(東京都教委など)。こういう目標がなくても、残業が多い学校現場には教育委員会からの風当たりが強くなることが多い。
つまり、校長や教頭としては、月80時間や100時間超えの教職員が多いと、教育委員会から怒られる、指導される、自分の管理が不十分だと言われる、だから過少申告するという事情がある。
言い換えれば、学校では働き方改革が進んでいる格好だけをする、のである。まったく、これでは何のために出退勤管理や働き方の見直しをやっているのか分かったものではない。子どもたちにはウソをついてはいけません、とか言っておきながら。道徳教育を強化する前に、学校の管理職等に、何が本当に大事なことなのかを考えていただくことのほうが必要だと思う。
もうひとつは、教師自身が管理職からの指示がなくても過少申告するケース。公立学校の教員は残業代が出ない法制度(いわゆる給特法)となっているので、正確な申告や記録をするメリットを感じにくい。ちなみに、同じ理由で過大申告するケースもほぼない。
なおかつ、たとえば、月100時間以上残業となると、産業医等の面談が義務づけられるケースや病院に行けと言われるケースもある。しかし、それも面倒くさいし、子どもたちを自習にさせたり、同僚に迷惑をかけるのは申し訳ない。だから、80時間や100時間を超えないように自分で修正して提出する。
こんな自発的な過少申告もけっこう多い。なお、福井市のように自己申告制ならよけい過少申告が起きやすいが、文科省や中教審が求めているタイムカードやICカード等の客観的な記録であっても、万能ではない。ICカードがなければ入退館できないという学校は非常に少ないので、タイムカードやICカードをかざしたあと残業するということも起きてしまうからだ。つまり、どの方法をとっても過少申告や過少記録の可能性はある。
改ざんや過少申告をなくすには何が必要か
では、どうしていけばよいだろうか。
そもそも、なぜ出退勤管理が必要、重要なのか。この点について教育委員会も、学校の管理職も、教職員も、もっと考えて、浸透させていく必要がある。時間を記録、提出すること自体が目的ではないはずだ。
これは言うまでもなく、健康管理のためである。非常に多くの先生が、子どもたちのためならばと一生懸命働いている。過労死ラインを超えてしまっている人が大半である。
※詳細は、拙著『「先生が忙しすぎる」をあきらめない―半径3mからの本気の学校改善』にて解説している。
知らず知らずのうちに健康を害する人もいる。だから、しっかり時間を記録してモニタリングしていきましょうという趣旨だ。校長や教頭としては、忙しすぎる人は感覚的には分かっているとは思うが、時間というデータも見ながら、業務量の調整をしたり、業務や健康の相談にのったりするように動くために、出退勤管理はある。決して教育委員会から出せと言われたからやっているのではない。
わたしは、校長向けの講演や教職員研修のとき、タイムカード等は体重計のようなものだと言っている。ダイエットしたい人で体重計にのらない人はいない。これと同じ理屈で、正確なモニタリングは必要だ。ただし、体重計にのっただけではダイエットにならないのと同様、業務や行事の見直しなど、学校の仕事を減量させていく努力も同時に必要だ。
もうひとつ大事なことがある。日本中の教師に言いたい。万一、過労死や精神疾患などの病気となったとき、正確な記録がないと、あなたの家族や恋人がもっと悲しむことになる、という事実だ。実際、過労死の疑いがあり、裁判で10年前後争っているケースもある。なぜ揉めるのかといえば、学校には正確な出退勤記録がないために、本当に働き過ぎのせいだったのか立証が難しいからだ。万が一のときの公務災害認定や労災認定のためにも、自己申告だろうがタイムカード等だろうが、正確な記録は必須である(客観性の高いタイムカード等のほうが望ましいが)。
もう一度言う。出退勤管理は、働き方改革や業務改善に向けた初歩中の初歩だ。体重計にのるというだけだ。この体重計すらくるっていたら、どうしようもない。
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