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シャビは「救世主」にあらず。後任監督決定前に、バルサの戦術を紐解いて。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶファティ(写真:ロイター/アフロ)

それは、栄光の日々だった。

「ペップ・チーム」は、世界を席巻していた。ペップ・グアルディオラ監督が指揮を執り、リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスが主力として活躍していたバルセロナに、もはや刺客は見当たらなかった。

4年間で14個のタイトルを獲得して、ペップは2012年にバルセロナを去った。しかしながら、ティト・ビラノバ、タタ・マルティーノ、ルイス・エンリケ、エルネスト・バルベルデ、キケ・セティエン、ロナルド・クーマンと、以降バルセロナを率いた指揮官はペップの幻影に苦しむことになった。

グアルディオラ監督とシャビ
グアルディオラ監督とシャビ写真:なかしまだいすけ/アフロ

ヨハン・クライフが提唱したフットボールを、ペップが「完成」の域にまで引き上げた。

【4−3−3】のシステム、ポゼッション、ポジショナルプレー…。そのすべてをミックスさせ、なおかつ“ファルソ・ヌエべ”という戦術的な発明でメッシの得点能力を開花させた。

「クライフは、クライフ信者だというだけで納得する人ではなかった」

作家のセルジ・パミエスはそのように語る。

近年のバルセロナは、まさにクライフ的なものに翻弄されてきた。クライフイズム。クライフ信者。【4−4−2】を使用したバルベルデが「4−3−3問題」に苛まれ、クライフ信奉者として就任したセティエンは欧州の舞台でバイエルン・ミュンヘンに2−8と大敗して実質上解任された。“ドリームチーム”の英雄として迎え入れられたクーマンは最後までジョアン・ラポルタ会長とバルセロニスタの信頼を勝ち取れずに別れを告げられている。

■配置の問題

バルセロナの後任指揮官候補として、アル・サッドを率いるシャビ監督の名前が挙がっている。

ただ、その前に、「そもそも論」として現在のバルセロナの力を計り直しておくべきだろう。クーマン前監督の最後の数試合、セルジ・バルフアン暫定監督の初陣(アラベス戦)から、現状を紐解き、かつ今後の道を探っていく。

(クラシコとアラベス戦のスタメン)

クーマン・バルサは配置のところで問題があった。

例えば、先のクラシコではファティとデパイが頻繁にポジションを入れ替えていた。前線の選手がポジションチェンジしながら相手のマークを撹乱するという発想自体は悪くない。

だが、ここに、サイドバックの選手やインサイドハーフの選手を交えながら、戦っていかないと厳しい。「横」の揺さぶりだけではなく、「縦」の揺さぶりをかけなければ、現代フットボールにおいてハイレベルの相手を崩すのは困難である。

クラシコではファティとデパイが頻繁にポジションチェンジを行った
クラシコではファティとデパイが頻繁にポジションチェンジを行った

また、メッシがいなくなり、確かに右ウィングの選定は難しかった。しかしデストを置くまで非常に時間を要した。デストをそこに置いてからも、右のサイドバックにセルジ・ロベルトではなくミンゲサを置くという形を度々使っていた。

これはバルフアンにも通じるところであるが、この2人(デストとミンゲサ)を縦に並べるというのは攻撃面で機能しない。

ワイドにデストが張って、その内側をインナーラップしてくるサイドバックという意味では、ミンゲサよりセルジ・ロベルトの方が断然良い。

ポジティブな変化にフォーカスすれば、トップの中央にアグエロを置いて、左にメンフィスを置き、右をデストにするという形は良かった。中央に留まるCFタイプのアグエロがいることで、全体バランスは向上した。

(全2403文字)

■起用法の再考

だが、まだ、足りない。

最終ラインではラングレの使い方を再考する必要があるだろう。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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