今井総理秘書官こそ「疑惑の張本人」と思わせた柳瀬喚問
フーテン老人世直し録(369)
皐月某日
初の米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで開催されることが決まった。いよいよアジアの冷戦が終わりに向けた第一歩を踏み出す。交渉がスムーズにいくかどうかは分からないが、ゴールは朝鮮戦争の終結と半島の非核化である。
「平和」と「核廃絶」をお経のように唱える日本人は認めたくないだろうが、米朝首脳会談を実現させた最大の要因は北朝鮮の核開発が米本土を射程に入れたことである。北朝鮮の核が65年間続いた朝鮮戦争の休戦状態を終わらせ平和条約締結への道を歩み出させるのである。その現実を我々は直視すべきである。
世界最強国家である米国に奴隷のごとく付き従う日本もあれば、世界を敵に回し最大規模の制裁を受けながら、しかし貧者の武器を手中にすることで平和と安定を手に入れようとする北朝鮮の生き方もある。これから始まる交渉は象と蟻との戦いだが、その行方にフーテンは並々ならぬ関心を持っている。
さて昨日10日に行われた柳瀬唯夫元総理秘書官の国会喚問を見て、「疑惑の張本人」は安倍総理の政務秘書官で政権のシナリオライターである今井尚哉氏であるとの従来からのフーテンの見方をさらに強めた。
「森友・加計疑惑」が特異なのは、安倍総理が「完全否定」を貫くため、支える立場の官僚たちが「嘘」の上に「嘘」を重ねざるを得なくなり、「嘘」の積み重ねがさらに疑惑を拡げる構造にある。
安倍総理は「森友問題」で「私も妻も事務所も関係ない。関係していたら総理も国会議員も辞める」とこれ以上ない否定の仕方で開き直り、「加計問題」では腹心の友の獣医学部新設計画を「(2017年)1月に初めて知った」と国会で答弁した。いずれも常識を超える答弁で国民に対し挑発的である。
「森友問題」では安倍総理夫人が問題の小学校の名誉校長を務め、「加計問題」では学校経営者が安倍総理の長年にわたる友人である。その両方が国から優遇されれば疑惑の目を向けられるのは当然で、普通なら国民に丁寧に説明することで疑惑を晴らそうとする。
ところが安倍総理の対応は真逆で頭から「完全否定」を繰り返す。周囲にはもしそれを否定する証拠が出てきたらどうするのかと思わせ、安倍政権が「背水の陣」を敷いたと思わせる。それは直属の部下に強い心理的圧迫を与え、支える立場の者に「嘘」を押し付ける効果を生む。
これはリスクを伴う手法である。安倍総理ただ一人の意思によるとは思えない。リスクを伴う手法は後ろ盾なしにできるものではないからだ。「森友疑惑」で国会が揺れている去年3月、フーテンは「ことごとく裏目に出た安倍官邸シナリオライターのなぜ」というブログを書いて今井総理秘書官の強気の作戦が安倍政権の墓穴を掘っているとの見方を示した。
リスクを伴う手法は「森友問題」で財務省の決裁文書「改竄」を招き今年になって職員の中から自殺者が出た。国会で虚偽答弁を繰り返し「改竄」を主導したとみられる佐川前理財局長は処分された。
「加計問題」では安倍総理が去年7月の閉会中審査で加計学園の獣医学部新設を「(2017年)1月に初めて知った」と答弁し、柳瀬唯夫元総理秘書官は愛媛県や今治市の職員と2015年に官邸で面会しているにもかかわらず国会に喚問されても「記憶にない」を繰り返した。
ところが今年になると愛媛県や農水省、文科省から面会を裏付ける資料が出てくる。そのため野党は柳瀬氏の証人喚問を求めて審議拒否に入り、国会の空転で安倍政権の「働き方改革法案」の成立に黄信号が灯った。国会を再開させるため与党は柳瀬氏の参考人招致を受け入れ国会は正常化されることになった。
10日の喚問でフーテンが注目したのは国民民主党の川合孝典参議院議員の質問に対し、柳瀬氏が「去年喚問される前に今井秘書官には2015年の4月に官邸で加計学園関係者と面会していた事実を伝えていた」と答えた一言である。やはり「加計問題」の対応を一手に取り仕切っているのは今井秘書官なのだ。
その一言から考えられるのは、去年7月の閉会中審査で安倍総理に「(2017年)1月に初めて加計学園の獣医学部新設を知った」と答弁させたのも今井秘書官ということだ。そうしないと度々加計孝太郎氏とゴルフや飲食を共にする安倍総理が「業者からの接待や供応を禁ずる大臣規範」に触れる恐れがある。
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