政権の中枢を「真空」にして責任逃れをする「美しくない国」
フーテン老人世直し録(370)
皐月某日
先週行われた柳瀬唯夫元総理秘書官の参考人質疑を受けて行われた14日の集中審議は、その日朝に新潟の女子小学生殺害事件の容疑者が警察に確保され、夜になって逮捕の発表があったことからすっかり目立たないニュースになった。
警察は事件が発生した翌8日には容疑者をマークしていたというから、逮捕のタイミングは偶然かもしれないが政府与党にとって誠に好都合だったと言える。集中審議はそれほどにひどい内容だったがそれが目立たなくなった。
何がひどいかと言えば、我が国の総理は部下である秘書官から情報を与えられないただの飾りではないかと疑われる内容であったからだ。今井尚哉首席総理秘書官と他の秘書官との間では情報のやり取りがあるが総理は「蚊帳の外」なのである。
10日に行われた柳瀬元秘書官の参考人質疑でフーテンが最も注目したのは、柳瀬氏が昨年7月に国会に喚問される前に今井首席秘書官から2015年の加計学園関係者との面会について事情を聞かれたと発言したことである。
昨年7月の柳瀬喚問は、今治市の職員が総理官邸で柳瀬秘書官と面会した事実が明らかになり、その事実を解明するために行われたが、その直前に今井氏が柳瀬氏に事情を聞いた理由は、喚問で「どう答えるか」を調整するためで、そこで加計学園関係者との面会は伏せ、今治市職員は「記憶にない」で押し通す打ち合わせが行われたと推測される。
世間から批判されるのを承知の上で柳瀬氏はそれを押し通した。ところが今年になって面会の資料が愛媛県など各方面から出てきた。すると柳瀬氏の知らないところで調整が行われ、「加計学園関係者との面会は認める」と報道され再喚問が実現した。
そのことが柳瀬氏は不満だったらしく、昨年の喚問の前に今井氏には事情を説明していた事実を明らかにしたのである。その一方で安倍総理に対しては面会の事実を全く報告していないことを繰り返し強調した。歴代内閣では常識としてあり得ない話だが、安倍内閣ではそれがまかり通るのである。
これを受けて14日に行われた集中審議では、柳瀬氏から今井秘書官への事情説明を今井秘書官から安倍総理が聞かされたのは今月のゴールデン・ウイーク中だったという発言が飛び出した。なぜ1年近く聞かされていなかったかを安倍総理は「口裏を合わせることはあってはならないので、やりとりは私に伝えない方がいいという判断だったのだろう」と述べた。
それが事実だとすれば、今井総理秘書官の判断でしか安倍総理は情報を得られていないことになる。これが安倍総理と今井秘書官の関係である。以前から指摘しているようにシナリオライターの今井秘書官にすれば、安倍総理という役者が勝手な演技をしないようにシナリオはタイミングを見計らってでしか教えないようだ。
そしてその他の秘書官も今井秘書官と情報のやり取りはするが知り得た情報をいちいち総理に報告しない。つまり安倍総理は日頃から「蚊帳の外」に置かれ、政権の中枢は「真空」なのである。秘書官たちがその時々その場に合った振り付けを安倍総理に施し、安倍総理は考えることなくそれに従って演技する。
14日の集中審議はフーテンにそうしたことを思わせた。そう考えると他の政権ではありえないことだが、安倍総理は何かをやっても国民から評価された時にのみ自分がやったという自覚が生まれ、国民に不評な時には自分がやったという自覚が芽生えない。そうした心理構造になっているのではないか。
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