Yahoo!ニュース

CLではネイマールとも対戦。Jリーグ初のイスラエル人選手、ネタ・ラヴィがガンバ大阪を変えそうだ

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
重心の低いプレーで攻守に存在感。Jリーグデビューが楽しみだ(筆者撮影)

 2022年はJ1リーグの最終節でかろうじて、J1の舞台に踏みとどまったガンバ大阪が近年例のない豪華補強に踏み切った。ワールドカップのカタール大会にも出場したチュニジア代表FWのイッサム・ジェバリに加えて、新たに加わった外国人助っ人がイスラエル代表MFのネタ・ラヴィ。全体合流2日目となった2月15日の公開練習で、ラヴィは「本物」の香りを随所で漂わせていた。

30周年を迎えたJリーグで初のイスラエル人助っ人。ネタ・ラヴィは何故、ガンバ大阪でのプレーを選んだのか。

 30周年の節目を迎えたJリーグでは、これまで数々のビッグネームや世界各国からの助っ人がその歴史に彩りを加えてきた。そんなJリーグで初めてのイスラエル人助っ人となるのがラヴィである。

 2月10日に来日し、まだ時差ぼけが残ると明かしたラヴィだったが15日の紅白戦ではサブ組でアンカーのポジションに入り、早くもその片鱗の一部を披露する。

 フィジカルコンタクトに長けたブラジル人MFのダワンとのコンタクトにもビクともせず、重心の低いプレーでボールを受けた際にスムーズにターン。イスラエルの名門マッカビ・ハイファでキャプテンも務めた逸材は昨年の欧州CLでパリ・サン=ジェルマンとも対戦し、ネイマールらと渡り合った経験も持っている。

 26歳のイスラエル代表は欧州クラブからのオファーもあった中、何故、ガンバ大阪でのプレーを決断したのかーー。15日に行われた初の取材対応で聞いてみた。

 「クラブが僕を必要としている熱意というを感じたし、やはりそれが一番重要だった。国、クラブ、文化に対してのプレゼンテーションもクラブから頂いたし、非常に興味深いプロジェクトだと感じたので、その時点で僕はガンバでプレーしたかったんだ」(ラヴィ)。

 そしてJリーグ初のイスラエル人選手ということについても「初のイスラエル人Jリーガーということでその責任というのも感じるが、ただそのプレッシャーはもちろんいい意味で捉えているし、それをしっかりと自分の力に変えたい」と過度に意気込むことなく、言葉を紡いだ。

 ラヴィをイスラエル時代から知る指揮官が語る最大のストロングポイントとは

 今季就任したスペイン人指揮官、ダニエル・ポヤトス監督が構築するサッカーにおいてアンカーの適任者であることを感じさせるプレーを短い紅白戦で見せたラヴィについて宇佐美貴史の印象はこうだ。

「潰せるタイプであることは分かっていたけど、ボールを持つことも出来るし、ワンタッチでさばいてというよりは相手を外して持ち運ぶことも出来るタイプなのかなと今日、感じた」

 選手としての能力に疑いの余地はないラヴィだが、ダニエル・ポヤトス監督が見る最大のストロングポイントは、イスラエル人MFが持つ気質にあるという。

 奇しくもポヤトス監督はラヴィが所属したマッカビ・ハイファのライバル、マッカビ・テルアビブでかつてアシスタントコーチを務めた経歴を持っている。

「彼のストロングポイントで言うと自分自身もイスラエルにいた経験があるので彼のことを知っているが、本当にメンタリティのところが凄く強いモノを持っているなと言う印象を持っている。リーダーシップのところや強い気持ちがあったりとか、両チームが難しい状況の時に彼の気質が一番現れてくる印象を持っている」(ポヤトス監督)。

 紅白戦でも積極的にボールを要求し、闘争心に満ちた雰囲気を醸し出したラヴィだが、その本質はやはりチームプレーヤーなのだろう。

 ポヤトス監督はアンカーとインサイドハーフ(指揮官はスペイン語でインテリオールと呼ぶ)の中盤3人の役割を「彼らが上手く機能しないとチャンスもなかなか作れてなくなってくる。私が中盤の選手に求めるのは常にプレーを先読みしていくこと」(ポヤトス監督)。

キャッチコピーは「勝利に導く羅針盤」。チームの勝利を最優先に

 自身のスタイルを考えると、アンカーが最適な役割か?――。ラヴィに問うと返ってきた答えは、こうだった。

「僕のキャリアでは大半はディフェンシブミッドフィルダーがメインだったけど、それはもちろん監督の要求によって変わっていく。もし監督が違うところで起用したいのならば準備していくし、チームがやっぱり勝つことが一番重要なので上手く対応していくつもりでいる」、

 あえて懸念材料を挙げるとすれば、1月末までイスラエルリーグで稼働しての来日に加え、欧州ではありえない日本の蒸し暑い夏に行われる環境に適応できるか(タフなはずのダワンでさえ昨夏はややバテ気味だった)。そして、強度の高い守備を見せるが故に、Jリーグのジャッジの基準に馴染めるか、だがラヴィはスムーズにフィットするのではないだろうか。

 ガンバ大阪が全選手につけるキャッチコピーがあるがラヴィに関しても、絶妙のフレーズが決定した。

 「勝利に導く羅針盤」

 再起を期す大阪の名門が波に飲まれそうな時、目指す方向性を見失いかけた時、イスラエル生まれの闘将が、きっとその存在理由を示すだろう。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

下薗昌記の最近の記事