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新型コロナウイルスで品薄騒動のトイレットペーパー、普段どれだけ必要?

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
店頭から姿を消したトイレットペーパー(写真:アフロ)

わからないことが多いと人は不安になる

厚生労働省の発表では、3月2日12:00の時点で、新型コロナウイルスの患者は232例、無症状病原体保有者22例となっています。この新型コロナウイルスそのものに効く抗ウイルス薬はまだ確立していません。診断方法としてPCR検査があるものの、大勢の方が検査を受けられるほどの体制を確保できていませんし、そもそもこの検査の感度は高くなく、陰性であっても感染を否定できないようです。また、症状が軽い状態で診断を求めて病院に行ってしまうことで院内感染のリスクを高めてしまうことが危惧されます。

このように、わからないことが多く、しかも見えない敵は、私たちを不安にします。

たとえば、厚生労働省は、予防のためにマスクを着用することについて、「混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所では一つの感染予防策と考えられますが、屋外などでは、相当混み合っていない限り、マスクを着用することによる予防効果はあまり認められていません」としています。(咳やくしゃみによる飛沫および、それらに含まれる病原体の飛散を防ぐ上では高い効果を持ちます。)

そうはいっても心理的不安を少しでも軽減するため、マスクをしようとしてしまう気持ちもわかります。混みあった場所に行かざるを得ない人であればなおさらです。その結果、店頭からマスクが姿を消しました。この状態に対して、国内メーカーではマスクを必死に生産しており、厚生労働省は、2月中には毎週1億枚を超える供給が確保される見込み、としています。

とはいうものの店頭に並ぶ気配は一向にないので、さらに不安が募ります。

トイレットペーパーの供給は通常通り

前置きが長くなってしまいましたが、そんな中、なぜか店頭からトイレットペーパーも姿を消してしまいました。これはSNS等でトイレットペーパーが不足しているという情報が流れたからのようです。マスクと原料が同じだと誤解されたのでしょうか?もしくは中国などのアジアに依存しているため輸入できなくなると思われたのでしょうか?

このような状況に対して、2月28日、日本家庭紙工業会や経済産業省からは、トイレットペーパーは通常通りの生産・供給が行われており、原材料調達についても中国に依存しておらず、製品在庫も十分にある、という発表がされました。

さらに続いて、「個人差はありますが、一般的なトイレットペーパーの平均的な利用量は、過去のデータを見ると、一週間程度で1ロールを利用しています。これをもとに計算すると、1か月では4ロール程度を利用しており、4人家族の場合には、1か月で16ロール程度を利用しているのが実態です」と具体的な数値目安が発表されました。

日本家庭紙工業会 資料PDF

経済産業省 資料

このように具体的な数値目安を示すことはとても大切だと思います。

ただ、ちょっと気になることがあります。

この計算だと、1ロールが60mだとすると1か月で240mなので、1日あたり8mになります。

トイレットペーパーの使用量を測ってみた

以前に日本トイレ研究所はトイレットペーパーの調査をしたことがあります。

どんな調査かというと、1回あたりのトイレットペーパー使用量を実際に測る調査です。この調査に協力してくれたのは42名(男性23名、女性19名)でした。トイレに入ったとき、まずはいつもの調子でトイレットペーパーを必要なだけ手に取ってみて、それを使う前にもう一度伸ばして測ったのです。

その結果は、以下の通りです。サンプル数が少ないので、これが平均値とは言えないのですが、参考になると思います。

画像

これをもとに4人家族(男性2人、女性2人)の1か月のトイレットペーパーの使用量を計算してみたいと思います。

かなり乱暴ではありますが、うんちのとき1回あたり1m、おしっこのとき1回あたり80cm、さらには1日のトイレに行く回数を7回と仮定します。一人ひとりトイレに行く回数は異なりますので、日頃のトイレの回数もぜひ数えてみてください。

ここでは、トイレに行く回数「7回」に関しては、以下のように考えました。

1日全体の尿量は1200~1500mlと言われており、1回の蓄尿が200~300ml程度なので、仮に7回としました。ちなみに、日本泌尿器科学会の資料には「一般的には、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます」とあります。一方で、排便に関しては、大腸肛門病学会の資料には「便の回数は個人差があり1日3回から3日に1回までは正常とみてもいい」とありましたので、わかりやすく1日1回としました。

日本泌尿器科学会 資料

大腸肛門病学会 資料

試算では4人家族で1か月8ロール?

男性はうんちのときしか使用しないので、1日に使用する量は1人1mです。

 計算式:1m×1回=1m

女性が1日に使用する量は1人6.6mです。

 計算式:(1m×1回)+(80cm×7回)=6.6m

4人家族では、1日あたり15.2mとなります。

よって、1か月だと456mなので、4人家族(男性2人、女性2人)で1か月8ロールあれば足りることになります。とはいえ、これはあくまで参考値です。ご自身の数値をあてはめて計算することが必要です。

日本家庭紙工業会の数値は、おそらく年間生産量と輸入量から算出していると思いますので、商業施設や公共施設などすべての消費を含むため、一人当たりの消費量が多くなってしまうと考えられます。

大切なのは実際に測ってみることです。自分が安心できる量がどのくらいなのかを知ることが必要です。そうすることで必要量が見えてくるので、過度な不安は軽減できると思います。ぜひご自身のトイレの回数と1回あたりのトイレットペーパーの必要量を測って、1か月間に必要な量を計算してみてください。もしかしたら、あわてて買わなくても大丈夫かもしれませんよ。

流通備蓄の落とし穴

災害時には流通備蓄を活用するという考え方があります。流通備蓄とは、流通段階にある商品を、災害時に備蓄品として活用することです。ですが、今回のような状況を目の当たりにすると、ちょっと心配ですよね。

トイレットペーパーに限らず、私たちの社会は流通網の発達や、在庫管理の技術の進歩などにより最適化が進んでいます。必要なときに、必要な量を、必要な場所に届ける仕組みになっているのです。

ということは、いざというときに余剰がないとも言えます。もしくは、余剰が多少あったとしても素早く届けられない可能性大です。道路事情に異常がない現時点でこのような状態ですから、自然災害のときは言わずもがなですね。

だからこそ、私たちは自宅での備えや地域での備えが必要なのです。水や食料はもちろんのこと、災害時に真っ先に困るのは、トイレです。この話はまた別の機会に書きたいと思います。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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