テオ獲得をめぐり「場外戦」過熱のマドリッド・ダービー 優勝・CLを争うジダンとシメオネの正念場
昨季のチャンピオンズリーグ(CL)決勝から、はや一年が過ぎようとしている。あのミラノのファイナルで激突した2チームが、舞台をスペインの首都に移して再び対峙する。
スペイン勢同士の対戦となった決勝で、欧州王者に輝いたのはレアル・マドリーだった。120分の激闘の末にPK戦にもつれ込んだ一戦は、アトレティコの4番手フアンフラン・トーレスの失敗後、マドリーの5番手クリスティアーノ・ロナウドがシュートを沈めて決着が着いた。
アトレティコを率いるディエゴ・シメオネ監督はショックに打ちひしがれた。「準優勝チームは記憶に残らない」「去就については迷っている」。試合後のアルゼンチン人指揮官の発言により、ロス・コルチョネロス(アトレティコファン)はやきもきしながら長い夏を過ごす羽目になった。
シメオネ監督は結局、アトレティコでの続投を決断した。シーズン序盤こそ指揮官の求心力が失われたかのように勝ち点を落としたアトレティコだが、8試合を残した時点でようやくリーガエスパニョーラ3位の座を確保するまでに立て直している。
■過熱する期待のホープの移籍報道と「紳士協定」
今回のダービーマッチを前に、スペインではある選手の移籍話で持ちきりだった。話題となったのは、現在アラベスでプレーするDFテオ・エルナンデスである。今季アラベスにレンタル加入しているテオだが、保有権を手にしているのはアトレティコだ。
事の発端は、マドリーがテオを狙っているとスペイン紙『マルカ』が一面で報じたことにある。マドリーは契約解除金2400万ユーロ(約28億円)を用意してテオ獲得に本腰を入れている、と伝えられた。
そもそも、マドリーとアトレティコの間には「紳士協定」が存在すると言われてきた。この協定により、マドリーとアトレティコを行き来する選手の移籍はこの数年実質的に禁じられている。
これは2009年に一人のカンテラーノがアトレティコからマドリーに移籍したことから、結ばれたものだという。翌年、これに不快感を示したミゲル・アンヘル・マリンCEOがフロレンティーノ・ペレス会長と話し合い、両者は“口頭合意”に至ったものとみられている。
だが今回、マドリーはいわば「紳士協定」を無視する形でテオ獲得の策略を立てたことになる。これをきっかけに、両者の「場外戦」が繰り広げられることになり、一時はアトレティコがアラベスMFマルコス・ジョレンテ(マドリーからレンタル中)獲得に動く、ダービー直前に催される両首脳陣の食事会がキャンセルされる、などさまざまな情報がメディアを通じて飛び交った。
■リーガ制覇とCL出場権獲得の行方
最終的にはアトレティコのエンリケ・セレソ会長が「食事会に行く」と明言し、かつテオの移籍について「ダービー前だから報道が出ただけ」と語り、事態は収拾に向かった。しかしながら、この一連の騒動でロヒブランコス(アトレティコの愛称)の中に渦巻くアンチ・マドリディスモ(反マドリー主義)の感情が膿のようにあぶり出されたのも確かだろう。
マドリーとアトレティコ。果たしてどちらが今回のダービー戦で勝ち点3を欲しているのか、と問われればその答えは難しい。ジネディーヌ・ジダン監督率いるマドリーは、1試合未消化で首位に立っているものの、2位バルセロナとは勝ち点2差。今月23日には、クラシコが控えている。アトレティコに敗れ、バルセロナにも敗れれば、リーガ制覇の可能性が一気に消滅してしまう。
対するアトレティコは、ようやくクラブが目標として掲げる3位以内でのフィニッシュ(CL本大会にストレートイン)が現実味を帯びてきたところだ。シーズンを通じてセビージャの奮闘により長く4位に甘んじていたアトレティコだが、シメオネ監督が言う「予期せずして得た3位というポジション」を死守するため、マドリー撃破を虎視眈々と狙っている。
ジダン監督、シメオネ監督双方にとって、残り試合が少ない中でのダービーは正念場となる。現地時間8日午後4時15分、マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウで、マドリッドに拠点を置く両雄が激突する。