「新・ガザからの報告」(11)(24年7月29日)ー高騰する衛生用品や交通費―
【拡大するイスラエル軍の侵攻】
(Q・最近の状況はどうですか?)
最近、イスラエルの地上軍の小規模の軍事攻撃があり、戦車や大砲の砲撃によってインターネットのケーブルが破壊されました。デイルバラ町の東部はインターネットが機能しない状態になりましたが、攻撃後に修理されました。しかしインターネットの接続状態はよくありません。
(Q・電気はどうですか?)
昨年10月7日以降の停電は続いています。10カ月間、電気はまったくない状態です。そのために太陽光発電に頼っています。しかしこのシステムはとても高価で何千ドルもかかるため、金持ちの家だけが持てます。私たちにはそれはありません。今それを持っている人は戦争前に買った人たちです。
(声がよく聞こえないのは、イスラエル軍の)ドローンのためです。私の家の横でテントを建てています。ラファからの避難者です。
ラファ市でこれまで地上侵攻されていなかった地域、北西部の住民に対してイスラエル軍は至急の避難を呼びかけています。この地区に地上侵攻するためです。
昨日はイスラエル軍がブレイジ難民キャンプの全ての住民に避難するように警告しました。ヌセイラート難民キャンプは東部の住民に対してです。イスラエル軍はこれらの地区に大きな攻撃を計画しています。だからデイルバラ町はいろいろな地域から避難する住民たちで、さらに人口が膨れ上がっています。
(Q・この10日間で何が起こったかを教えてください)
イスラエル軍は支配地域を拡大しています。ラファ市の北西部に侵攻し、ラファ全体を支配下に置くつもりです。さらにハンユニス市の東部にもです。そこからイスラエル南部、ネゲブ地域にたくさんのロケット弾が発射されたからです。そこに激しい攻撃を加えています。だから今はラファ、ハンユニス、そしてガザ地区中部、ブレイジとヌセイラートの両難民キャンプで地上軍が侵攻しています。
ガザ市内でも、4~5日前から、南部の近隣、ゼトゥーン地区、サブラ地区、タルハウワ地区など海岸近くの南部地区に攻撃を加えています。だからガザ地区のすべての行政区が攻撃されています。
またジャバリア難民キャンプなど北部の行政区でとても長いトンネルが発見されました。ベイトラヒヤ町の近くです。1キロの長さのトンネルで、イスラエル軍はそれを爆破し破壊しました。だからガザ全域で攻撃が続いています。これが現在のイスラエル軍の軍事作戦の実態です。
2日前にイスラエル軍がデイルバラ地区の学校、カディジャ学校に大規模な空爆を行いました。この学校に数発のミサイルを撃ち込まれたのです。その結果、41人が殺され、100人以上が負傷しました。
その攻撃の理由は、7人の指名手配のハマス戦闘員が住民の中に隠れていたからです。ハマスは住民を“人間の盾”にしたのです。だからイスラエル軍は7人のハマス戦闘員を殺害するために攻撃しました。最終的にこの7人は殺されましたが、不幸にも他に34人の無実の人が殺されました。女性や子どもなどまったく無実の人たちです。
【高騰する交通手段】
(Q・日常生活の変化はありますか?石鹸やシャンプーが不足しているということでしたが)
写真を送ったように、最近、他の地域から避難する住民たちは、新たな困難を抱えています。避難民たちは車や三輪車、ロバの荷馬車を手配しなければなりません。荷物や家族を運ぶために交通手段が必要です。何万人という人が避難していますが、ガザには燃料が不足しています。だから交通手段がとても高価になっています。
例えば今、ヌセイラートやブレイジの両難民キャンプからマワシ地区に避難しようとするとき、車を雇わなければなりませんが、そのためには500ドル(7万5千円)が必要です。ほんの10~12キロの距離で荷物や家族を運ぶためにです。燃料はブラックマーケットでは、1ℓのディーゼル油が120シェケル(4800円)です。フィラディルフィー回廊がイスラエル軍に侵攻される前には、エジプトからトンネルを通って運ばれていました。その燃料の高騰によって交通費用がとても高いのです。だから重い荷物を背負って歩くしかありません。避難を決めた人にとってとても深刻な問題です。交通費がとてつもなく高いからです。ロバの荷車でも1000シェケル(4万円)です。
私がよく知っているブレイジ難民キャンプの知人が昨夜電話をしてきて、「自分たちはブレイジを出ない。この家で死にたい」と言ってきました。「もしイスラエル軍が私たちに避難させたければ、車、トラックを準備すべきです。私にはロバの荷車のための金さえない。だから避難しないことに決めました。ここで死にます」と言うのです。
【衛生用品や食料の高騰】
(Q・石鹸やシャンプーはどうですか?)
今は石鹸、シャンプーなど衛生のための物資がマーケットにほとんどありません。だから自分の身体や家を掃除することもできません。子どもを石鹸で洗ってやることもできない。それが子どもたちの皮膚に影響を及ぼし、皮膚病に悩まされています。石鹸はとても希少で、それを買うためにたくさんのお金が必要です。最も安い石鹸が10ドル(1500円)もする。時には15~20ドルもする。小さな石鹸がです。3人の子どもたちさえその石鹸で洗い終えることができません。
それでも家の中で暮らす私たちは幸運です。テントで暮らしている人たちは、石鹸の不足のためにもっと深刻で複雑な問題を抱えています。子どもたちが皮膚の感染症に苦しんでいます。
(Q・食料はどうですか?)
状況は以前と同じです。ガザ地区北部ではほんとうに飢餓状態です。ガザ市に食料が届かないのです。イスラエル軍が食料のトラックが入ることを許可しません。人びとは家の中に保管していた缶詰の食料に頼っています。保管していた米、レンテル(豆)などに頼っています。また野草に依存しています。農地や木々の傍に生えている野草です。それを集めてサラダにして食べます。ガザは地中海気候で、夏には野草が生い茂ります。それでビタミンやミネラルを摂取できて健康にいいんです。いろいろな種類の野草が育ちます。ガザの家族はこの野草を摘みます。それを料理するか、サラダとして食べます。
ガザ地区中部やハンユニスなどでは食料はあります。しかしとても高いです。家族が普通のサイズの料理を食べるためには、100シェケル(4000円)がかかります。すべてが高いのです。
この10日間でとても問題なっているのは野菜の値段です。この1週間で野菜の値段が高騰しました。トマト、玉ねぎなど、すべてが高くなっています。
ガザ市での実話ですが、玉ねぎ1個が50シェケル(2000円)です。1キロではありません、1個です。ナスは25シェケル(1000円)です。ガザに住む友人が子どもの食事のために1個の玉ねぎを50シェケルで買ったんです。2個のナスもまた50シェケルで買いました。1個のナスが25シェケルです。1つの小さな胡椒は10シェケル(400円)します。
(Q・環境の問題はどうですか?)
2、3日前にマワシ地区のテントで暮らすある家族の1人が長い蛇に殺されました。3メートルほどの
蛇で色は黄色だということです。毒を持っていて、とても危険な蛇です。マワシ地区では、たくさんの子どもたちが噛まれました。最終的にはその蛇は殺されましたが、SNSでも紹介されました。
そして住民は声を上げ始めました。
「こんな状況に、もう耐えられない。野犬からも襲われる。また危険な害虫らが住民を襲う。これが子どもたちの皮膚病の感染症を招いている」と。
だから蛇にかまれて人びとが死んだ事件が住民に大きなインパクトを与えました。この蛇は、たくさんの蛇や野生の動物がいて危険であることを象徴しています。
マワシ地区のザワイダ村では、両親がテントの外で料理の火を起こすのに忙しい時に、野犬がテントの中に入り、生後3~4か月の赤ん坊を口にくわえ、テントの外に引きずり出しました。幸い、隣人たちが見つけて赤ん坊を取り上げて、その子の命は救われました。そうでなければ、殺され、食べられていたことでしょう。
(Q・この黄色の蛇で何人が殺されましたか?)
何人かわかりません。しかしその家族の話では、この蛇はいろいろな場所で見かけられ、たくさんの人がこの蛇にかまれたそうです。いずれにしろ蛇はとても危険で、多くの家族が恐れています。実際、たくさんの人が蛇にかまれています。
【停戦案を拒否するハマスへの怒り】
(Q・人びとの心情についてもっと教えてください?)
人びとはとても神経質になっていて、とても怒っています。ハマスに対してです。ガザの外にいる指導者たちはとてもひどい、愚かな決定や声明を出しています。人びとは今の状況に対して、イスラエル以上にハマスに責任があると言っています。
今イスラエル人は休暇のためにギリシャへ飛行機で渡航し、ギリシャの島々で妻や子ども、または恋人を連れて、海岸でバケーションを楽しんでいます。彼らは食料の不足に悩むこともない、飢餓もない、危険な蛇もいない、石鹸が不足することもない、ハマスもいない。彼らは人生を楽しんでいます。
しかし一方、別の場所ではテント暮らしの人びとが死んでいっているのです。
避難民のすべてにテントがあるわけではありません。多くの人が野外で暮らしています。夜も昼もです。海岸で、野原で。テントさえないのですから。だから彼らはハマスに対してとても怒っています。ハマスにとって、バイデンの提案を受け入れることはゴールデン・チャンス(絶好の機会)だったのです。バイデンの提案はパレスチナ人にとっていい提案でした。しかしどうしてかハマスは受け入れない。しかもトランプが次のアメリカ大統領になることを予感し、不安がっています。
(Q・住民はトランプが大統領になることを恐れていますか?)
もちろんです。パレスチナ人はトランプが大統領であった時代を経験しています。エルサレムをイスラエル人の街にし、その街でのパレスチナ人の主権を認めなかった。またアメリカ大使館をエルサレムへ移しました。「パレスチナ・イスラエル問題の解決」に対する彼のビジョンもわかっています。それはまったくネタニヤフ首相のビジョンと同じです。パレスチナ国家は認めず、1967年境界(第三次中東戦争後の境界)内にパレスチナ人の主権を認めようともしません。だからパレスチナ人にとってトランプはアメリカ史上、最悪の大統領でした。
【武器が中国製に】
(Q・他に伝えたいことはありますか?)
小さなことですが、イスラエル・メディアでとても重要な報道を見ました。時々、中国の役割についてに言及しています。
ガザから収集した多くの武器を分析した結果、イスラエル軍が驚いたのはほとんどの武器がロシア製ではなく、中国製でした。今回の戦争の前は、イスラエルはガザの武器の多くはロシア製だと思っていました。しかし、収集した武器の大半は中国製だったのです。どうやって中国製の武器がガザに持ち込まれたのか。通常の武器ではなく、中にはハイテクの武器も含まれていました。とりわけ対戦車砲です。
2、3年前の中国とイランの合意で、イランは中国製のミサイルや他の武器をシナイ半島からトンネルを使って密輸し、ハマスの手に渡しています。だからその「ガザ戦争における中国の役割」について、イスラエル・メディアは言及し始めています。中国がこれらの近代的な武器を持ち込んでいると、中国を非難しています。
(Q・イスラエルのメディアで報道されているのですね?)
そうです。最初はアメリカ海軍の元将軍の情報です。中国はとても近代的な対戦車砲をガザに送っていて、それはイスラエルの戦車に対してとても効果的だというのです。
(Q・戦争前はほとんどの武器はロシア製だったが、戦争後には中国製に変わったということですか?戦争後に中国がイランを通して多くの武器をガザに送ったということですか?)
中東では伝統的に武器は旧ソ連、ロシアの武器です。クルドもシリアもイエメンでもそうです。パレスチナでは10年前までは旧ソ連、ロシアの武器に依存していました。しかしこの戦争の2~3年前からハマスは中国製の武器に依存するようになった。その武器が送られたのは、戦争中ではなく、戦争の前からです。イスラエル軍は大半の武器はロシア製の武器だと思っていたが、しかし驚いたことに、収集した武器は中国製だったのです。(続く)