日本人が起業したがらないワケ
先日、「日本人の起業意欲が世界的に見て異様に低い」という調査結果が話題となりました。具体的に言うと、「より多くの機会を得られるので起業したい」いう意見に対してグローバルでは18~24歳の63.8%が同意したものの、日本の若年層ではわずか28.3%が同意したにすぎなかったということです。
なぜ、日本人は起業したがらないのでしょうか。日本政府の支援が不十分だからか。それとも、よく言われるように「出る杭は打たれる」式の文化が原因でしょうか。そう言った側面も無きにしも非ずでしょうが、筆者はちょっと違った見方をしています。
「どこで働くか」で享受できる社会保障が変わってくる日本
日本は終身雇用制度をベースとする国であり、実際、先進国で最も正社員の解雇が厳しく制限されてもいます(2008 OECD Difficulty of dismissal)。これはつまり、失業給付や再就職訓練、生活保護といった現役世代向けの社会保障を、政府が民間企業に丸投げしていることを意味します。
と書くと「終身雇用なんてウチの会社にはないぞ」と思う人もいるでしょう。その通りです。終身雇用が文字通り実現できているのは一部の大企業正社員と公務員くらいで、全雇用労働者のせいぜい1~2割といったところでしょう。つまり、大企業の“終身雇用”という看板の下で、過半数の労働者は企業からも政府からも無視された上で放置されているようなものですね。
ちなみに筆者は以前、東京地裁主催の勉強会に呼ばれた際、判事さんにどういう基準で会社による解雇を認めるか聞いたところ「我々は体力のある大企業ほど厳しく判断しています」と胸を張って言われ驚いた経験があります。自分たちはそれで弱者を守っている正義の味方のつもりなのかもしれませんが、裏を返せば「いい大学出て大企業に入ったエリートは守るけどバカは容赦なく切り捨てる」って司法が宣言しているようなものですから。
さて、以上のような状況を踏まえた上で、冒頭の調査結果を見れば、ずいぶんと印象が変わるのではないでしょうか。それなりの規模の組織に入れば、年金支給まで雇用が保証されます。黒字の大企業なら仕事しなくても上司に反抗しても、クビになることはまずありません。
【参考リンク】日本IBM「クビにしたい会社vs残りたい社員」裁判?法廷の大バトルを完全再現
そして、最悪倒産しそうになったとしても、JALや東京電力のように国が救済してくれます。
かたや、自らで起業すれば、そうした“民営化社会保障”はどこにもありません。他国の若者に対しても「手厚い社会保障がセットでついてくる既存の組織に就職するのと、そういうのゼロでリスク取って起業するのはどっちがいい?」と聞けば、そんなに日本の若者と回答結果は変わらないような予感がするのは、筆者だけでしょうか?