ロシアのウクライナ占領の意図を侵攻予想ルートから推定
2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻の一週間前の2月17日に、イギリス国防省の公式Twitterアカウントはロシア軍侵攻ルートの予想図を投稿しました。
これはアメリカが中心となって得た諜報や偵察衛星などの情報を分析しイギリスと共有したもので、その予想は非常に正確であり、実際にロシア軍はほぼこの通りの侵攻方向で攻め込んできました。
しかしウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、ロシア軍の侵攻は途中で頓挫しています。
侵攻予想ルート(2月17日)と現在の状況(5月12日)
- 東部侵攻ルート・・・ドンバス地方の完全占領を目指す。 ※現在の主戦場。2014年から続くドンバス戦争で既にウクライナ軍の強固な防御線が構築されており、容易には進撃できない。
- 東部侵攻ルート(沿岸)・・・西進しクリミアと陸路の連結を目指す。 ※マリウポリの地下要塞と化していたアゾフスターリ製鉄所に立て籠もったウクライナ軍が頑強に抵抗を続け、未だに制圧できていない。
- 北東部侵攻ルート・・・第二都市ハルキウ攻略を目指す。 ※大戦力を用意して侵攻するもハルキウ攻略に失敗。大損害を受けてしまい戦線を支えきれず、この方面からの撤退を開始。
- 南部侵攻ルート(東進)・・・クリミアとロシア本土の連結を目指す。 ※ほぼ完了。ただし東部の友軍がマリウポリ攻略に手間取り連結はまだ出来ていない。
- 南部侵攻ルート(北進)・・・東部の友軍と合流し北上を目指す。 ※友軍の東部方面の侵攻が滞り大規模な戦力を合流させられず、北上する余裕が無くなりザポリージャ市街地の占領もできず。唯一の成果は合流前に行ったザポリージャ原発の確保。
- 南部侵攻ルート(西進)・・・オデーサ攻略を目指す。 ※ヘルソン→ミコライウ→オデーサへと西進する予定だったが、ミコライウを攻略できず。またオデーサ攻略の助攻として黒海艦隊の揚陸作戦が予想されていたが、ウクライナ軍の地対艦ミサイルによる黒海艦隊旗艦モスクワの撃沈で実施は困難に。現状の成果はヘルソンの占領と北クリミア運河の取水口の確保。
- 西部侵攻ルート・・・首都キーウ攻略を目指す。 ※首都近郊のホストメル空港を空挺軍のヘリボーン作戦で確保して大型輸送機で増援を送り込み、ベラルーシから南下した地上軍の主力と連動し短期間での占領を目指すも、ウクライナ軍の激しい抵抗の前に頓挫。この方面からは全面撤退済み。
- 中央部侵攻ルート・・・ウクライナ国土の中央を西進し打通を目指す。 ※東部、北東部、南部から進撃した各方面軍がドニプロ市を攻略して合流して渡河し、ウクライナ中央を西進し全土を打通すると予想されていたが、各方面の進撃の目途が立たず合流は不可能になりつつあり、また西部の首都キーウ攻略に失敗した時点で中央部侵攻は非現実的に。
この2月17日にイギリス国防省が投稿したロシア軍侵攻予想ルートが正しいとした場合、ロシアは開戦時にウクライナ占領を企図しないと言いながらも、全土制圧を狙っていたことが分かります。占領する企図は無いというのは、ウクライナ現政権を転覆し傀儡政権の樹立後は必要な領域のみ確保して撤退するという意味だったのでしょう。
おそらくロシアはクリミア半島とロシア本土を陸路で連結したら、この部分を必要な領域として永久占領して併合するつもりでしょう。またヘルソン州も、水不足に悩むクリミア半島の為の北クリミア運河の水源の安全を確保する目的で併合しようとするでしょう。
当初のロシアの目論見としては北東部のハルキウや南西部のオデーサも併合する予定だったのかもしれませんが、現在の戦況ではどちらも困難な情勢です。ハルキウ攻防戦はロシア軍の敗北に終わりつつあります。オデーサは脅かせてもいません。ましてやオデーサの更に奥にある沿ドニエストル(トランスニストリア)と連結するなど、今のところは到底無理でしょう。
なお昨年の2021年11月21日に、この時に初めてロシアのウクライナ侵攻の兆候が報道され、アメリカの軍事誌ミリタリータイムスに掲載されています。アメリカがウクライナに提供した情報が了承の元にメディアに意図的にリークされた形です。この時にも侵攻ルートの予想図が掲載されています。
翌年の2022年2月24日の開戦時のロシア軍の兵力は19万人と推定されているので、昨年の2021年11月21日の時点ではまだ兵力は9万2千人と半分ほどが集まった段階です。侵攻ルート予想図(2021年11月21日)と侵攻ルート予想図(2022年2月17日)を比べると、侵攻方向の大部分が同じままでした。
ただし大きく違うのは、侵攻ルート予想図(2021年11月21日)ではウクライナ中央部を西進して打通するルートは無かった点です。これは当時の予想ではそこまで可能な大兵力は投入しないと見ていたのかもしれません。