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【ガザからの報告③】―住民の精神状態-

土井敏邦ジャーナリスト
キャンプ生活の中で精神的に住民は追い込まれていく(撮影・ガザ住民)

 イスラエル軍の1ヵ月を超える激しい攻撃によって、ガザ地区内の通信網も寸断された。インターネットがかろうじて使える地域も限定されている。北部のガザ市内、および最南部のラファ市では完全にインターネットは遮断され、かろうじて通信可能なのは、ガザ地区南部最大の街ハンユニス市内、中部の2つの難民キャンプなどだけである。

 ジャーナリストで作家の私の友人Mはそのガザ地区中部で暮らしている。

 今回のガザ攻撃が始まって2週間後あたりから、やっとMとSNSのメッセンジャーで通話ができるようになった。そのMからの報告を映像と音声で記録した。

Mはイスラエル軍の攻撃下の住民の厳しい状況を11月10日に映像で伝えてきた。以

【食料を求めて襲撃する住民】

 小麦粉がまったくありません。1キロの小麦粉も買えないんです。ガザ市のパン工場も閉鎖されました。多くのパン屋が住民に襲撃され、略奪されました。ガザで最も有名なあるパン屋も襲撃され、小麦粉などすべてが奪われました。

 住民には食糧がなく、1日に1食食べられれば幸運です。もしそうでなければ、2、3日、全く食べ物がない人もいます。

 水もペットボトル1、2本の水を確保するのもたいへんな状況です。しかもクリーンではない水を使っていて、それが多くの病気を引き起こしています。とりわけ子どもたちに、です。私の家の子どもたちも、清潔でない水のために病気になっています。灌漑用水はクリーンではないんです。水に関しては言えば、ほんとうに危機的な状況です。

 シャワーを浴びることができません。10月7日以来、一度もシャワーを浴びていないんです。身体を清潔に保てないために、これがまた病気を生み出しています。

 住民は雨季になり、雨が降るのを待ち望んでいます。一方、膨大な空爆や砲撃で、地表が火薬など爆薬で多くの化学物資で汚染され、それが地下水を汚染する可能性もあります。

 医薬品も薬局は空っぽです。在庫があったとしても、それは病院に優先的に回されます。

 中には機能している病院もありますが、ほとんどの病院は閉鎖されました。医療機器を動かく電気、それを発電するための、燃料がないのです。

食料を求めて店に群がる住民(撮影・ガザ住民)
食料を求めて店に群がる住民(撮影・ガザ住民)

【イスラエル軍への恐怖心】

 毎日、戦車などイスラエル軍の車両のエンジンの音が聞こえてきます。子どもたちは恐れ、戦車の音などを聞いて泣きます。

 イスラエル軍はガザで深く侵攻しています。多くはガザ北部に集中していて、中部のデイルバラや南部のハンユニス市やラファ市ではイスラエル地上軍の大きな作戦はまだ行われていませんが、この町でも、イスラエル軍の車両のエンジン音や銃撃の音は聞こえます。

 でもハマスのメディアは、イスラエル軍がガザ内部まで深く侵攻していることは伝えていません。「イスラエル軍はまだ国境にいて、そこから攻撃している」と伝えているのです。しかし住民は近くの道や家の近くまで戦車が迫っていることを知っています。窓から見えるんですから。私たちはイスラエル軍がすでにガザの重要な地点を占拠していることを知っています。彼らは海岸の通りまで達しています。シャファ病院の800メートルのところまで迫っているんです。議会などガザの重要な地点は戦車の砲火を浴びています。

(Q・ハマスはイスラエル軍と闘っているのだろうか?)

 イスラエル軍は大きな戦力で闘っています。武器も技術も優れています。住民はイスラエル軍はガザ市ではシャジャイーヤ地区など東部から攻めてくると考えていました。しかし今回はイスラエル軍は海側からも攻めてきました。だからハマスだけではなく、住民も驚いています。

 ほとんどインフラを破壊しています。周辺のハマスの軍事勢力を破壊している。だからハマスはとても狭い地域で闘わざるをえなくなっています。

【治安の乱れ】

 今ガザにセキュリティ(治安)がありません。ハマスのセキュリティ(治安警察)は隠れているから。戦争の他に、住民は“犯罪の蔓延”というもう一つの危機にさらされています。家の中のものを盗まれています。工場からもです。前回、UNRWAやWFP(世界食糧計画)から物資が略奪された話をしたが、それがガザ地区のどこでも起こっています。食糧のあるところはどこも襲撃され、略奪されています。

 いま、我々は飢餓に直面しています。道である人が私にパンの1片もくれと懇願しました。一昨日から全く食べていないというのです。そんなふうにひどい状況なのです。

(Q・あなた自身の生活はどうですか?)

 私は幸運にも、一日一食は食べられます。午後に、米やマカロニを食べています。小麦粉はまったくないために、パンは食べられません。子どもたち(5歳の息子と2歳半の双子の娘)に優先的に先に食べ物を与え、私たちは子どもの残り物を食べています。ビスケットは少しは残りがあります。しかし新たなに買うことができません。昨日、スーパーに行ったけど、まったく空です。だから子どもたちのために買うことができませんでした。

(Q・心理的な状況はどうですか?)

 私の家族もそしてガザの多くの住民は深刻なうつ状態(depresson)に苦しんでいます。このひどい状況のためです。水や食糧のなど生活必需品が枯渇し、電気も医薬品もない。だから人びとがどれほどうつ状態か想像できると思います。いつ砲撃されるかわからないという恐怖もあります。

 たとえば私の家族について言えば、私の親たちも妻も深刻なうつ状態です。この戦闘が終わったあとについて考えています。私の妻は、ガザから脱出したいと私に言い出しています。ガザにはもう“生活”はないからです。すべてが破壊されてしまった。ガザには生活のための基盤が失われたのです。だから人びとはガザからの脱出を考え始めています。私の妻を含めてです。

 寒くなっています。とりわけ夜はとても寒いです。子どもたちの冬服を買いに2日前、店に行きました。しかし何もなかった。品物がないんです。マーケットからすべてが消えてしまいました。ひどい状況です。そんなことが、さらに気分を落ち込ませます。台所へ行っても、食べ物は空。基本的な食べ物もないんです。そのため、さらにうつ状態になるし、怒りがこみ上げてくるんです。

 母はひどい糖尿病と高血圧を抱えています。しかし薬局に行ってもそのための薬もない。それがまた私を一層、うつ状態にします。

 「いつ殺されるかわからない」という不安、イスラエルの戦闘機の音、爆撃音を聞くと、「自分の家が攻撃されるのではないか、自分の隣人たちが、また近所が攻撃されるのではないか」という恐怖を抱きます。安全だと感じられない。家にいても安全だと感じられないのです。気分はとても暗くなります。

 子どもたちは泣き叫きます。十分な食べ物もいい水も与えられない。それはとても胸が痛むことです。子どもたちをみると、さらにうつ状態になってしまいます。

先の見えないテント生活が避難民を精神的にさらに追い込む(撮影・ガザ住民)
先の見えないテント生活が避難民を精神的にさらに追い込む(撮影・ガザ住民)

(Q・今、住民はハマスに対してどういう感情を持っています?)

 人びとは、いまはもう、ハマスに対する侮蔑し罵る言葉をカメラの前でも恐れず語るようになりました。SNSを観ると、多くの人々がハマスを侮蔑し罵っています。ハマスの政策のために悩まされ苦しんでいるからです。だからカメラの前で人びとは批判しているのです。今は人びとはハマスに対する恐怖心はまったくはありません。

(Q・「恐怖心がない」とはどういうことですか?)

 人びとはハマスを非難・攻撃し罵ることを恐れてはいないということです。カメラの前ででもハマスを攻撃する勇気があるということです。SNSでそういう映像が流れています。「私たちがこんなに苦しんでいるのに、ハマスの指導者たちはカタールでぜいたくなホテル暮らしをし、普通の生活をしている」というふうに。攻撃しています。

(Q・前回あなたは、ハマスについて2つの選択肢について報告してくれました。1つは「ハマスは殲滅される」。2つ目は「ハマスの政治部門を残し、ガザを統治させる」と。しかし今は、住民はもうまったくハマスの存在を望まないのではないですか?)

 住民の中には、「ハマスは完全に殲滅される」と思う人もいます。もう一つは、「以前の戦争と同じように、ハマスは完全に排除されない。イスラエルは、ハマスの軍事部門は排除するが、政治部門は残す」と考えている人たちもいます。なぜなら、イスラエルはパレスチナの分割を望むからです。ヨルダン川西岸とガザを分割させたままにして、パレスチナが政治的に統一されることを望まないからです。

(Q・これだけの被害を受けた住民は、もうハマスの名前を聞くことさえ嫌悪するほど、ハマスを排除したいと願っていると想像するのですが、どうですか?)

 その通りです。いまは90%以上の人がハマスを嫌っていると思います。ハマスが消えてほしいと願っています。

 しかし私はそれとは違ったふうに観ています。それは「願望」「希望」とは違う「予想」です。私自身は「ハマスは終わってほしい」と願っています。しかし私の「予想」は、とても混乱しています。イスラエルがほんとうにハマスを殲滅しようとしているのかどうか私にはわらないのです。それは「政治」であり「ゲーム」です。だから「願望」と「予想」とは違います。「願望」ついて言えば、住民の90%はハマスに非難し消えてほしいと願っています。政治部門も、軍事部門も、です。

(Q・イスラエルの機密文書の暴露によって、イスラエル政府には「パレスチナ自治政府(PA)にガザ地区を統治させる」案や「全ガザ住民をシナイ半島に移住させる」計画があることが明らかになりました。どう思いますか?)

 その可能性はあるし、イスラエルにはそれを実行する力があります。

 PAがガザにやってきて統治する案について、アッバスはガザに戻ることは拒否すると思います。ガザは爆弾を抱えた風船のようなもので、いつでも爆発する。ガザにはたくさんの武器があり、超法規的な行動をする者もいます。だからアッバスはガザ地区を望まないと思います。ガザ住民がそれを望むかどうか私にはわかりません。またPAはとても脆弱です。ヨルダン川西岸での統治を見ても、市井の民衆を十分に統治する力もありません。そのPAがガザを統治する力があるとは思えません。

「イスラエル軍による破壊は、住民を元の場所に戻さず、外に追い出すためではないか」という住民もいる(撮影・ガザ住民)
「イスラエル軍による破壊は、住民を元の場所に戻さず、外に追い出すためではないか」という住民もいる(撮影・ガザ住民)

(Q・ガザの住民はアッバス(PA大統領)やPAをどう見ていますか?)

 アッバスは差別主義の人間です。彼はガザを「同じパレスチナ人」と観ていません。「真のパレスチナ人はヨルダン川西岸やイスラエル北部のパレスチナ人」という考えがあります。イスラエル北部は彼の故郷です。一方で、ガザのパレスチナ人をエジプト人、ベドウィンの部族と観ていて、真のパレスチナ人と見なしていません。だからアッバスの中に差別的な意識があります。。そこがアラファト議長とは違うところです。アラファトと1994年にガザへやってきて、ガザで暮らし1967年占領地のパレスチナを統合しました。

 私はアッバスがガザ統治を受け入れるとは思わないし、たとえ受け入れたとしても、ガザをコントロールできるとは思いません。彼はヨルダン川西岸の統治の“大失敗者”です。ガザは西岸よりはるかに統治すのが難しい。だからガザの統治に成功するとは思えません。

(Q・ガザの民衆はPAに対して、どういう感情を持っているのですか?)

 ほとんどの住民はPAがガザに戻ってくることを望んでいないと思います。歓迎しないと思います。なぜならガザ住民は、PAが腐敗していることを知っているからです。オスロ合意直後からです。PAの指導者たちが腐敗していることを知っています。

(Q・全ガザ住民をシナイ半島に追い出すというプランは現実的だと思いますか?)

 とても現実的で、可能性はあると思います。実際、100万人が北部から南部へ移動させられました。それが出来る力を持つイスラエルは、全住民をシナイ半島に移動させる力を持つ。もしイスラエルがそれをやろうとすれば、それを実行できるかもしれません。私たちがこのシナリオに直面する可能性があります。

 しかし国際社会やエジプトがどういう反応をするかわかりません。エジプは拒絶している。ガザ住民がエジプト国内に移動することをエジプトのシーシ大統領は拒否しています。

(Q・ガザ地区のパレスチナ人は、スムード(不動)という闘いはしないのだろうか?)

 だれもガザ地区を去ろうとは思いません。しかしそうせざるをえないのです。それが今起こっていることです。今は100万万人以上が北部から南部への移動を強いられました。彼らは自分で選択して移動したわけではありません。イスラエル軍の前例のない激しい空爆や砲撃によって、住民は強いられたのです。家から逃れざるをえなかったのです。そして南部に逃れました。イスラエル軍は同じことを住民に強いることができる。しかし実際にどうなるのかわからない。エジプトの態度次第です。

(Q・あなた自身、ガザを脱出すること考えていると私に言いましたが、今もそうですか?)

 もちろんです。住民のほとんどはガザから脱出しいと願っています。危険を冒してもでもです。この戦闘が終わったら、実際、脱出しようとするでしょう。ガザは住むのにいい場所ではなくなりました。家が破壊され、多くの住民はホームレスになり、犯罪率は増加しています。これから自殺率はさらに増えるでしょう。状況は最悪です。

(Q・この攻撃が終わったら、住民はもうハマスを受け入れない?)

 ネタニヤフがガザの将来について何を考えているか私には想像できません。住民の中には、ネタニヤフはハマスを殲滅するだろうと言う者もいれば、ハマスを残すという者もいます。もしハマスが残ることになれば、大半の住民はガザから逃れるでしょう。なぜなら住民はもうハマスを受け入れないだろうからです。

(Q・たとえハマスが殲滅されても、占領が続く限り、新たな武装闘争グループが生まれるだろうと私は思いますが、あなたはどう思いますか?)

 もちろんそうです。占領が続く限り、抵抗運動、武装闘争は存在します。それは1948年から現在まで続いてきたことです。

 しかし新しい武装組織はハマスと違ったものになるでしょう。ハマスは「武装抵抗勢力」ではありません。ハマスは「抵抗の武装闘争」ではないのです。率直に言って、ハマスがイスラエル市民にやったことは民間人に対する犯罪です。人道法に反する犯罪です。“テロ”です。 “レジスタンス(抵抗)”ではありません。(続く)

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ガザがイスラエルの空爆と完全封鎖、さらに地上侵攻で瀕死の状態にあります。

ガザ住民の犠牲者は1万人を超え、100万人以上の住民が住居を失いました。

一方、食料、水、燃料、医療品など、生存に不可欠な物資の搬入もイスラエルによって封鎖され、220万のガザ住民はその文字通り生存そのものが危機にさらされています。

 この現状のなか、長く"パレスチナ"に関わってきたジャーナリストとパレスチナ問題の専門家がガザの歴史、現状、そして将来について緊急報告をします。

緊急報告会

「ガザはどうなるのか?」

【内容】

1)最新ドキュメンタリー映画「破壊のあとで」(67分)(初公開)

  2014年ガザ攻撃の破壊のあとで、ガザ住民に何が起きたのかを2015年から2019年まで3回の取材で追ったドキュメンタリー。これは今回のガザ攻撃のあとに何が起きるかを暗示している。

2) 「ガザ状況」報告と分析(12月初旬でのガザ情勢から)

・川上泰徳氏(中東ジャーナリスト/元「朝日新聞」中東総局長)

・鈴木啓之氏(東京大学特任准教授/パレスチナ問題専門家)

・土井敏邦(ジャーナリスト/映画監督)

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【日時】 12月17日(日) 午後1時半~午後4時半(休憩あり)

                (開場:午後1時15分)

【場所】 東京都・日比谷図書館/コンベンションホール(地下)

【参加費】 1000円 (学割800円)

*種々の「配慮割引」もあります。予約時にご相談ください。

【予約申し込み先】 doitoshikuni@mail.goo.ne.jp

(定員200名に達した時点で締め切らせていただきます)

参加を希望される方は

必ず連絡先(メールアドレスと電話番号)をご記入ください。

【主催】 土井敏邦 パレスチナ・記録の会

【問い合わせ先】 doitoshikuni@mail.goo.ne.jp

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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