NVIDIA、ようやく中国向け新AI半導体サンプル出荷、対中規制との攻防
米エヌビディア(NVIDIA)が、中国市場向けの、2つの新しいAI(人工知能)向け半導体のサンプル出荷を開始した。米国の輸出規制によって中国市場における支配的地位が脅かされる中、早期に輸出を再開し懸念を払拭したい考えだ。
ファンCEO「顧客の反応を楽しみにしている」
2月21日の四半期決算発表(図1)後、同社のジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)が英ロイター通信とのインタビューで「現在、顧客にサンプルを提供している」と明かした。「いずれの半導体も、(米国の)規制を順守している。顧客からのフィードバックを楽しみにしている」と自信を示した。
ただし、ファン氏は中国向け製品の詳細や顧客名には言及しなかった。エヌビディアの広報担当者も情報提供の要請に応じなかった。
2回目の規制回避製品
エヌビディアは米政府の対中輸出規制を受け、技術基準を下回る半導体を開発してきた。米商務省は2022年10月、AI向け先端半導体を中国などの「懸念国」に輸出することを原則禁じた。
これにより、生成AIなどのAIシステムで業界標準となっている同社製GPU(画像処理半導体)「A100」と「H100」の中国への輸出ができなくなった。そこで同社は、規制基準を下回る性能のGPU「A800」と「H800」を開発し、中国などで販売を再開した。
しかし、バイデン米政権は1年後の2023年10月に規制強化を発表。中国などに対する米国製先端半導体・装置の輸出規制対象を拡大した。これにより、A800とH800も輸出できなくなった。
エヌビディアはこの状況を受け、米政府が新たに定めた性能基準を下回る3種のGPUを開発した。半導体市場調査会社の米セミアナリシス(SemiAnalysis)によると、3種とは「HGX H20」「L20 PCIe」「L2 PCIe」である。これらのGPUは、AI向け最新機能の多くを搭載しているが、新規制に準拠するため、一部のコンピューティング能力に制限がある。
ロイター通信は2024年2月1日、エヌビディアが3種のGPUの中で最も性能の高いHGX H20の事前注文を受け付け始めたと報じた。販売代理店はその価格を、中国・華為技術(ファーウェイ)の競合製品と同等に設定したという。
HGX H20は当初、2023年11月に出荷を開始する予定だったが、サーバーメーカーが半導体の統合に問題を抱えていたため、発売が延期されたとロイター通信は報じていた。
ただ、こうしたエヌビディアの動きを米政府は批判している。米フォーチュンなどは2023年12月、ジーナ・レモンド米商務長官が、エヌビディアを名指しして批判したと報じた。
米政府が先端半導体の輸出規制措置を取っているにもかかわらず、エヌビディアは相次ぎ中国市場向けの特別な半導体を開発し、規制を回避している。イタチごっこのような駆け引きに、レモンド氏はうんざりしているという。
対中規制の影響、業績結果に
前述した通り、エヌビディアはこのほど、2024会計年度第4四半期(23年11月〜24年1月期)決算を発表したが、対中規制が同四半期の業績に影響を及ぼした。コレット・クレスCFO(最高財務責任者)は決算説明会で、中国向けAI半導体の販売が著しく減少したと述べた。
同氏によると、AI向け半導体を含むデータセンター部門売上高における中国の比率は「1桁台半ば」にとどまった。この比率は前四半期までおおむね20〜25%で推移していた。このとき、ファンCEOは米政府の新規制を受け、中国での事業活動を一時停止していたと明かした。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、エヌビディアは2025会計年度第1四半期(2024年2月〜4月期)における中国の比率も同水準で推移すると予想している。
だが、その次の四半期以降は競争環境が整うとみている。ファン氏は「(中国での)競争に参加できるようになると期待している。最善を尽くして結果がどうなるか見ていきたい」と意気込みを示した。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年2月28日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)