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なぜ飲食店に空席があっても入店できないのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

レストランのレビューから炎上

ロケットニュース24で気になる記事を読みました。記事の3段落目にある以下の記述がほぼ全てを説明しています。

そう。この度、情報サイト『トリップアドバイザー』にて、あるレストランに「空席ばかりなのに入店拒否された!」と低評価レビューが寄せられた。すると店のオーナーが激怒。同サイト上で、状況の説明&反撃を行ったのだ。

出典:「空席ばかりなのに入店を断られた!」グルメサイトで客がレストランを酷評 → オーナー反論 / ネットの声「心無いレビューは誠実なビジネスを潰す」

「トリップアドバイザー」は旅行を中心としたレビューや価格比較のアメリカのサービスで、多くの言語に翻訳されていることから、日本でも知っている方人は少なくないと思います。

この「トリップアドバイザー」に掲載されているレストランのレビューで、あるレビュアーが「空席ばかりだったのに、予約がなかったため入店拒否をされた」と最低評価を付けたところ、店主が「80人もの予約が入っていた。すぐに入れなかったので、腹いせに怒りをぶつまけているだけ」と反論したということです。

この件はいくつかの示唆を含んでいるので、以下の点を考えてみます。

  • 空席なのに入店できない
  • レビューサイトで反論
  • 利用しないでレビュー

空席なのに入店できない

空席があれば、必ず入店できるかどうかという問いに対しては、否と答えるしかありません。今その瞬間は空いている席であっても、15分後か30分後、もしかすると1時間後に、事前に予約していた客が食事をすることになるからです。

ファインダイニングとまでいかなくとも、コース料理のオーダーが中心であるレストランであったり、滞在時間が長い飲食店であったりすれば、ランチでもディナーでも1回転させることしか考えていません。元の記事にあるレストランも同様でしょう。

従って、例えラストオーダーに近い時間に予約が入っていたとしても、それまでの間に客を入れることをあまり考えていません。

もしも、ウォークインの客(予約していない客)を入れたとして、オペレーションがスムーズに運ばなかったりするなどして、予約時間になってもまだウォークインの客が退店しなかったら大変なことになります。

わざわざ予約してくれた客を不愉快にさせてしまう可能性があるにも関わらず、ふらりと訪れた客を簡単に入れることは少ないでしょう。

ファストフードやファミリーレストランでない限り、空いている席が、実際には空いていないことがあることを理解しなければなりません。

レビューサイトで反論

飲食店のオーナーが、レビューに反論することはあるのでしょうか。

日本の場合を考えてみると、最大規模を誇る飲食店のレビューサイトは「食べログ」や「Retty」が挙げられます。

「Retty」は実名のユーザーがお勧めしていることもあり、飲食店に対する厳しいコメントはあまり見掛けられません。「食べログ」では、明確な点数による評価と、プロ顔負けのコメントによるレビューが特徴となっているので、飲食店に対する厳しい評価は決して少なくありません。

しかし、厳しい評価を行ったレビューがあったとしても、飲食店が反論するケースはとても稀です。それは、飲食店にあまり利益がないからです。

サービスを使用しているユーザーはほとんどが客の立場で閲覧しているだけに、飲食店が反駁したとしても、言い訳を述べたり、ごまかしたりしているように感じるでしょう。

そもそも、飲食店のオーナーはどちらかと言えば、ITに疎い方が多いですし、労働時間が長くてレビューをチェックする余裕もありません。

また、サービス運営側は、事実確認が難しく、かつ、小さからぬ風評被害を与える恐れのあるレビューに関しては、レビュアーに確認を促したり、レビューを非表示にしたり削除したりしています。従って、飲食店が反論する必要に迫られるレビューも多くないはずです。

レビューに対して反論するよりも、来店したことに対してお礼を述べる方がずっと多く見掛けられます。

利用しないでレビュー

飲食店を利用しないでレビューすることに関して、私は否定的に捉えています。何故ならば、それは基本的にレビューではないからです。

英メディア『Mail Online』によると「料理やスタッフについての建設的な批判は甘んじるが、店で食べてもいない顧客からの評価は別」「今回の出来事は、予約なしにホテルに泊まろうとした人が、宿泊せずにレビューを書いているようなもの」とも語っている。

出典:「空席ばかりなのに入店を断られた!」グルメサイトで客がレストランを酷評 → オーナー反論 / ネットの声「心無いレビューは誠実なビジネスを潰す」

元の記事にも掲載されているように、利用しないでレビューを書くことは、映画を結末まで観ずに劇場を後にしたり、ミステリー小説を伏線だらけの前半だけで放り投げたりするようなものでしょう。それではキャストの演技を評論したり、トリックに文句を述べたりすることはできません。

もしも、件のレビュアーが次回訪れた時に、今度は無事入店できたとしましょう。食事がおいしくて、サービスも気が利いており、居心地よく過ごせたなら、その時のレビューはもっと違ったものになっていたと思います。

飲食店の三大要素は、料理・空間・サービスです。入店時の対応は、その三大要素のうちのひとつであるサービスの中でも、ほんの一部分だけしか占めていません。これだけで、飲食店をレビューすることは意味がないでしょう。

飲食店で食事をして、空間で過ごし、サービスを受けなければ、飲食店をレビューする権利は生まれません。このどれかでも欠けていれば、その飲食店を体験していないことになります。

「食べログ」では、熱心なレビューが口コミ数を増やすために、食事をしていないのにレビューを書くケースもありますが、これは禁止されています。

総合的に俯瞰

私は以前、<飲食店で何も注文しなくてもよいのか? 考察するべき3つの点>で次のように述べました。飲食店の評価は本来、料理・空間・サービスから導き出されなければならないのに、皿の中だけしか評価せずに、コストパフォーマンスが高いと騒ぎ立てているのはどうか、ということです。

今回のように、入店対応のサービスだけしか評価していなければ、その飲食店を評価することはできません。何とかして入店して、料理を食し、サービスを受けた上で、入店時の対応を含めた評価をするべきだと考えています。

飲食店を総合的に俯瞰しようとすれば、さりげない心遣いに気が付いたり、手を抜いているところを見抜いたりできるでしょう。

入店時の対応が悪かったというだけでくじけず、多くの人に飲食店で料理・空間・サービスを体験してもらえたらと願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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