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ツイッターの拡散力、もっと「ひき逃げ捜査」に生かすべき 池袋で女性はねた自転車は今も逃走中

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
被害者を救護せずに逃走する「ひき逃げ」は極めて卑劣な行為だ(写真:イメージマート)

■リツイート26万件超、5日後にひき逃げ犯逮捕

 昨日(4月17日)、下記のニュースが報じられました。

<トラックで高校生をひき逃げの疑い 運転手を逮捕 ツイッターで話題(毎日新聞) - Yahoo!ニュース>

 4月12日の朝、男子高校生が大型トラックにはねられ、大けがを負っていた事故で、現場から逃走していた会社員の男(58)が自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)と道交法違反(救護義務違反など)の疑いで逮捕されたというのです。

 上記「毎日新聞」記事にはこう記されています。一部抜粋します。

『この事故を巡っては、高校生の親とみられるツイッターアカウントで情報提供が呼びかけられており、容疑者が逮捕される17日までにリツイート(拡散)件数が26万を超えていた。同署は「ツイートは把握している」としつつ、ツイッター経由で容疑者特定の手がかりになる情報が得られたかどうかは明らかにしていない。』

 実は、私のもとにも事故当日、交通事故被害者や遺族から、本件事故を報じるニュース記事と下記の文面が記されたツイートが相次いで寄せられていました。

<Twitterの使い方もよく分かりませんが、SNSの力を借りたいと思って投稿します。トラックが高1息子をひき逃げしました。今現在、息子は緊急手術中です。どなたかのドラレコに録画してある事を願うばかりです。些細な事でも目撃した方がいたら情報提供をしていただきたいです。よろしくお願い致します。>

 息子さんが緊急手術中という厳しい状況の中、懸命に発信されているそのメッセージを見て、私自身も少しでも協力できれば……、という思いで、TwitterやFacebookでシェアさせていただきました。それだけに、5日目に犯人逮捕というニュースを目にしたときは、本当に安堵しました。

 容疑者は「事故を起こしたことには気づかなかった」と容疑を否認しているそうですが、それが事実か否かは今後の捜査で明らかにされるでしょう。いずれにせよ、ひき逃げ犯が捕まらなければ何も始まらないのです。

写真はイメージです
写真はイメージです写真:イメージマート

■一刻も早く目撃情報を募り、証拠を押さえる

 今回の犯人逮捕に、保護者の方が拡散したSNSによる情報提供が役立ったのかどうか……、それについて警察は明らかにしていません。しかし、この素早い拡散は今のネット社会においてはとても大切で、絶対に必要なアクションだと言えるでしょう。

 ドライブレコーダーや防犯カメラの中には時間の経過とともに上書きされるものもあります。いち早く事故の情報を伝えることで重要な証拠が残されることにつながるのです。

 また、ひき逃げ犯の周囲にいる人々も、こうした情報をキャッチすることで、いつもと異なる不自然な行動に気づくことがあるかもしれません。

 引き逃げは、助かる命をも見殺しにする、大変悪質な犯罪です。万一、こうした被害に遭った場合は、被害者の家族や知人がいち早く情報発信することが不可欠です。

対向車や後続車のドライブレコーダーも有力な証拠となる
対向車や後続車のドライブレコーダーも有力な証拠となる写真:イメージマート

■池袋ひき逃げ事件から半年、いまだ有力情報なし

 一方、懸命に発信しても、なかなか犯人検挙につながらないひき逃げ事件もあります。私の記事でも繰り返し発信してきた、池袋で起こった「自転車による歩行者ひき逃げ事件」もそのひとつです。

 実は、本日(2023年4月18日)で、事故発生からちょうど半年になります。 

 まずは、防犯カメラがとらえた事故の瞬間映像をご覧ください。

 2022年10月18日、午後3時半頃、南池袋3丁目の横断歩道を女性が渡り始めたそのとき、信号無視の自転車が衝突し、二人とも路上に転倒。拡大しているため画像が荒れていますが、女性は道路に激しく身体を打ち付けられ、転倒しているのがわかります。しかし、自転車の若い男は、起き上がれずにいる被害女性を救護しようともせず、そのまま逃走したのです。

 女性は通りかかった歩行者に介抱され、すぐに救急車で搬送されました。奇跡的に骨折はなく全治1か月以上と診断されましたが、もし頭を強打していたら、重篤な状態になっていたかもしれません。

 この映像を掲載した記事はSNS等で広く拡散され、その後、多くのテレビ局も繰り返し報じました。しかし、いまだに犯人につながる有力な手掛かりはないままです。

*本件事故の詳細については以下の記事をご参照ください。

【ひき逃げ】瞬間映像公開 自転車が歩行者に衝突「やべぇ」男は現在も逃走中

(2022.12.9)

目白警察署によって池袋の事故現場に立てられた看板(被害者提供)
目白警察署によって池袋の事故現場に立てられた看板(被害者提供)

■警察だけに頼らず、一刻も早くSNSで拡散を

『ひき逃げの瞬間がこれほど鮮明に記録された映像がありながら、なぜ、犯人逮捕に至らないのか……』

 きっと不思議に思われる方も多いことでしょう。

 実は、この映像を初めて記事で公開したのは、事故から2か月近くたってからのことでした。

 被害者の女性は、現場前のビルの防犯カメラに瞬間映像が残っていることを警察から聞かされていましたが、それを公開して捜査に生かす様子が全く見られなかったのです。

 そこで、「こうなったら自分で動くしかない」と決心した女性は、事故から約1か月半後の2022年12月6日、自らビルの管理会社に依頼して独自に入手し、私に送ってこられました。

 もし、警察が事故直後からこの映像を公開、もしくは被害者に渡していれば、もっと早くSNS等で拡散され、有力な情報提供につながったかもしれません。

 ひき逃げ事件の場合は、一刻も早く情報を募るという姿勢が大切です。今回、冒頭で紹介した群馬県でのひき逃げ犯逮捕のニュースを見て、改めてそう感じました。

 とはいえ、ひき逃げの時効は7年なので、あと6年半残されています。引き続き情報提供を求めていますので、お心当たりのある方はぜひ、目白警察署までご一報ください。

<池袋ひき逃げ事件の詳細と犯人の特徴>

●発生日時/2022年10月18日午後3時27分頃

●事故現場/東京・南池袋3丁目の横断歩道

●犯人のルート/池袋駅方面から目白方面へ走行中に事故。そのまま目白方向へ。その後、路地へ入って逃走

●犯人の特徴/20歳くらいの男性

●自転車/赤色のスポーツタイプの自転車

●着衣/黒い上着

●連絡先/目白警察署 交通捜査係 03‐3987‐0110(内線4252)

事故現場の横断歩道(被害者提供)
事故現場の横断歩道(被害者提供)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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