カナフレックス・藤井宏政助監督(元阪神) 社会人野球10年目の決断と後輩たちへ託す思い
4月も下旬を迎え、桜からツツジへ、そして新緑へと移ろう季節。社会人野球はJABA大会をはじめ、7月の都市対抗野球に向けての1次予選やクラブ選手権の予選も始まり、これからますます盛り上がっていきます
2013年12月下旬に、この『新・小虎日記』で初めて出したのが、同年秋に阪神タイガースを戦力外となった選手たちの“旅立ち”についての記事。そこで取り上げた野原将志さん(35)、藤井宏政さん(32)、穴田真規さん(30)が、社会人野球の世界で現役を続行したため、私も阪神のファームだけでなく社会人野球を取材しにあちこち出かけるようになりました。
やがて、野原さん(三菱重工長崎)は2016年に、穴田さん(和歌山箕島球友会→現マツゲン箕島硬式野球部)は2017年に、それぞれ現役を退き、2人とも今は会社員となって働いています。
また彼らの翌年、2014年に阪神を退団してパナソニックに入った阪口哲也さん(30)は、選手引退後もコーチを務めていましたが、昨シーズン終了をもってユニホームを脱ぎ、ことしから社業に専念。同じく2014年から新日鐵住信鹿島→日本製鉄鹿島でプレーした玉置隆さん(36)は引退後も勤めていた鴻池運輸を退社し、ことし3月1日付で阪神に戻ってきました。事業本部振興部に配属されてタイガースアカデミーのコーチに就任、またタテジマを着ています。そのあたりはまたゆっくり聞いてみたいですねえ。
そして今回の記事は、カナフレックスの野球部創設時から選手として、さらにはコーチや助監督として支えてきた藤井宏政さんについてです。チームと自身が10年目のシーズンを迎えた今春、大きな決断をしました。4月15日をもってカナフレックスを退社し、地元に戻っています。
野球部の方は、退社前の3月に行われた第151回JABA京都府春季大会が最後でした。福間納監督も選手たちも、藤井助監督と一緒に戦う最後の大会ゆえ「優勝して胴上げする!」との思いで臨んだ3試合。もう1か月以上前のことですが、ここで改めて振り返ってみましょう。
①今季初公式戦に勝利
初戦は3月11日、同じ滋賀県のOBC高島との顔合わせ。両チームとも、これが今季初めての公式戦でした。カナフレックスは昨年で退部した選手が多く、ことしは新加入8人!かなり顔ぶれも変わっています。
第151回JABA京都府春季大会
◇2回戦 (3/11)
OBC高島-カナフレックス
高島 000 001 000 = 1
カナ 020 010 12X = 6
▼バッテリー
[高島] 加藤-山崎-上田 / 長岡
[カナ] 大石-中島-日高 / 房前-藤田
▼二塁打 カナ:新宅 高島:長岡
《試合経過》※敬称略
先発・大石は初回、2死球と1安打で1死満塁のピンチを招きますが併殺で無失点。以降は4回に2死から内野安打があっただけでした。その間、2回に3連打で無死満塁と攻めた打線が内野ゴロ2つで2点先取!5回には相手エラーにより1点を加え、リードを広げます。
6回に四球と味方エラーなどで1死一、三塁となり、4番・波多野のタイムリーで1点返されたところで大石が降板。リリーフした中島は追加点を与えず、7回は先頭にヒットを許したものの後は3連続三振!8回も1四球のみで追加点を与えません。
7回の攻撃は守屋の中前打などで1死一、三塁とし、9番・房前の右犠飛。8回にも2死から代打・澤田と守屋の中前打で一、三塁となって7番・新宅が右中間へ二塁打!2人を還します。
9回は日高が登板。簡単に2死を取ってから7番・長岡に左翼線二塁打を浴びるも、最後は三振を奪って試合終了。6対1で準決勝へ駒を進めました。
◆「いいチームになってきた」
今季初公式戦を振り返った福間監督は「オープン戦が20安打前後で10何点も取ったり、いい形で来ていたけど、やっぱりこれが公式戦。打っても点が入らないという。そこで、あと1本出るチームにしたいよね」と言います。
「でもヒットが出るようになったよ。去年より断然打つし、長打も出る。ホームランもオープン戦4試合で6本か7本!新加入の岡田(裕斗)の3打席連続もあったし。盗塁もね。いいチームになってきた。打てるようになったので、あとはいつものように守り。エラーのないチームに」
ピッチャーについても聞きました。「大石は立ち上がりさえ乗り切ったら5回までいける。で、5回までいったら今度は6回が悪いんだけど、そこをうまく調整していけば。でも1失点で6回投げてくれた!そのイニングで最少失点に抑える、非常にいい形が出てきた。成長していると思うよ」
「中島は去年、京セラドームの日本選手権で投げたのが大きい。147キロ出していたからね。自信を持っているし。それと新加入の日高。きょうは145キロやけど150キロは出るよ」と楽しみなコメントです。
◆新戦力にも期待大
次に藤井助監督。オープン戦は好調だったそうですね。「まあ相手が大学生ですから、それはまだちょっとわからないですけど…。ただ、そこらへんは“結果が出て当たり前”って言えるぐらいのレベルまで来ていると思うので」
盗塁も増えたのでは?「オープン戦から、アウトになっても積極的にと言ってきて、それを大会でも同じように出し切ろうと話しました。どんどん走ってくれて得点圏に行って、まあ1本は出なかったですけど、ずっとそういう展開を作れていたのでよかったと思います」
最後にようやくタイムリーが。「ずっと単打ばっかりですからね(笑)。苦しい気持ちが続く中、最終的に打ち勝てた。大会はやっぱり力んだり、いろいろあるし。次はことし初めて企業と当たるけど、あと2試合、全員でやっていきます。人数が足りないので」
それから「守屋が好調ですね、ことしはずっと」とのこと。のちほどご紹介します。また「岡田はちょっと強引にいくとこあるかな。右手が強くて、全部かいちゃうんです。大会になると打ちたい、打ちたいとなるんで。白石がいい守備しますね。田中慧樹の穴を補ってくれているかと」と藤井助監督は続けました。
「石森(亨)が出塁するので、そのあとに誰が入るかになってきますね。クリーンナップは安定してきているので、古和田(仁)とかも。1、2番どちらかが出塁できるっていうのが今、点に絡んでいっていますし。キーマンは2番ですね」と、準決勝に向けてコメントしています。
◆1年目の悔しさをバネに
守屋俊介選手に、オープン戦から好調だという藤井助監督の言葉を伝えると「はい、いい感じにきています」と答えたものの…声がちっちゃい(笑)。去年よりいい?「冬にやってきたことが出てきているかなと」。どんな取り組みを?「ウエートをやって、体を作って。去年は悔しい思いをしたので、ことしはやってやるぞ!という気持ちでいます」
「変えたところといえば、力を抜いて軽く振るっていうイメージですかね」。去年は力が入っていた?「そうですね、力んでいました。去年は」。期待の新戦力だったから。「何というんですかね。やっぱり打たなきゃいけないっていう気持ちの面で、ことしはちょっと楽にいけているかなと」
また「与えられた打順で、しっかり役割を果たしていければ」と言い、盗塁についても「去年は全然できなかったので、ことしはスタートを結構、練習しています」とのこと。そして「藤井さんが最後って、すごく寂しいですね。絶対に優勝したいです!」と力を込めました。
◆最速154キロの直球を武器に
日高拓海投手は新加入の24歳。ルートインBCリーグの神奈川フューチャードリームスから移籍してきました。最速は「おととし、ヤクルト2軍との試合(戸田)で」計測した154キロだそうです。
今季、オープン戦で右手にボールが当たったこともあり、投げたのは2試合にとどまっていて、これが公式戦初登板でした。
「先発をやりたいという気持ちはありますけど、先発よりは後ろの方が得意かも。プロに行くためにはどの部分でもいけるようにしたい。チームが有名になれば嬉しいですね。その力になれるよう頑張ります!」
◆「真っすぐが来たからポンと」
8回にタイムリー二塁打を放った新宅優悟選手。2回の中前打は「反応でした。そこまで速いピッチャーじゃなかったので変化球待ちで。変化球待ちのストレートという感じで、真っすぐが来たからポンって」と振り返っています。
「真っすぐ押しのピッチャーやったので、真っすぐのタイミングで振ったら…あ、フォークや、みたいな。ちょうどヘッドがポンと返ったので。真っすぐと思って打ちました。真っすぐと思って振ったらフォークやったという。ランナーいることも考えていませんでした」
相変わらずの新宅語録です。ヘッドを返した、ではなく“ちょうど返った”というのも(笑)。ところで、これが藤井助監督にとって最後の大会です。どんな思いですか?「優勝して送ってあげたいですね。去年は日本新薬に負けて準優勝でしたから」
②逆転サヨナラで決勝進出!
雨で延期になったこともあり、次の試合(準決勝)は10日後の21日。相手はニチダイでした。カナフレックスにとって、これが今季初の企業チームとの対戦です。
第151回JABA京都府春季大会
◇準決勝 (3/21)
ニチダイ-カナフレックス
ニチ 000 200 000 = 2
カナ 000 001 002x = 3
▼バッテリー
[ニチ] 戌亥-一文字-竹本 / 井上幹-菱田
[カナ] 中島-伊藤-日高 / 房前-藤田
▼二塁打 ニチ:高橋 カナ:古和田、森田
《試合経過》※敬称略
先発の中島は2回の先頭打者まで4連続三振の立ち上がり!2回は内野安打1本、3回も三者凡退でした。4回は2死後にヒットと四球のあと6番・高橋に左中間へのタイムリー二塁打を浴び2点を失うも、5回は三者凡退、6回も1四球のみで抑えた中島。
それに打線が応え、5回まで散発3安打だったのですが、6回に2番・白石と守屋の連打で1死一、三塁。さらに守屋の盗塁で二、三塁として4番・古和田の三ゴロで1点返しました。
7回は伊藤が登板し、味方エラーと自身の暴投などで2死三塁となり日高がリリーフ。このピンチをしぎ9回も2三振のあとヒットを許しますが、最後はサード・古和田がフェンス際まで追いかけてファウルフライをキャッチ。そして1点差のまま9回裏を迎え、ベンチ前で円陣を組みます。
まず先頭の5番・森田が右中間への二塁打を放ち、次の新宅は2球目でセーフティー!これがサード内野安打となり、続いてバントの構えを見せた米倉への初球が暴投、森田が還って2対2。なおも1死三塁で8番・澤田の放った打球はライトの頭上を越え、新宅を迎え入れてサヨナラ勝ち!
ちょうど、この日はWBCの準決勝が行われていて、試合後のコメントを聞いている時も選手たちはスマホを手に大騒ぎでしたね。カナフレックスも逆転サヨナラで決勝進出となったわけで、余計に盛り上がったのは言うまでもありません。
◆あえて攻撃的な野球をした
「勝因はバッテリーでしょう!」と振り返った藤井助監督。「企業チームとはことし初対戦で、やっぱりレベルが上がると簡単に打てないのはわかっていた中、ピッチャーがちゃんと抑えたから。中島、よかったですね。ことし7イニングなんて投げていないんですよ。でも気持ちが強い」
「ただ相手の球が速かった。ああいう速いピッチャーはあまり打てない。うちのバッターは力んでしまって…。だから代わってくれたのが一番大きいですねえ」
「きょうの試合の8回とか(先頭が四球を選び無死一塁の場面)、うちはいつもバントをしているチームで、それがセオリーなので。でも送らずに打つというのを試してみました。都市対抗予選に合わせるため、チャレンジしようという大会。都市対抗予選ならバントしていますけど、攻撃的な野球をしたんです」
ちなみに、新宅選手のセーフティは本人の判断。米倉選手のバントはサインだそうです。「最後は気持ち!みんなの気持ちをここで合わせてくれたけど、本当は都市対抗予選に合わせていかないといけませんね。勝ってよかったです」
◆サヨナラの立役者たち
なお、この日のセーフティが“年一”のバントだと他の選手に言われた新宅選手。送りバントもない?「ないです。初めてではないですけど、それくらいの価値があるってことです」。それ自分で言うのね(笑)
自分の考えで?「はい、僕の判断です。当たった瞬間にラッキー、みたいな」。それでサヨナラのホームを踏んだわけですね。「あの場面はノーアウト二塁で送ることがメインだったので、まあ自分もセーフになればラッキーかな、というバントでした」
米倉凌平選手にも尋ねたら「僕のバントはサインです。余裕でした」と。あの構えで暴投を誘ったわけですもんね。「勝てればいいんです。勝たないと!」
最後に決めた澤田裕基選手は「やっと、という感じですね。嬉しかったです!本当に」とまだ興奮冷めやらずといった様子。森田選手の二塁打から、新宅選手のセーフティでチャンス拡大。あれは自分の判断だったらしいですよ。「え、そうなんや!すごい、珍しい!」
さらに暴投と犠打で1死三塁。どんな気持ちだった?「この回で負けはないから、もうどんなんでもいってやろうと思って。どの球でも当てたら、内野が前に来ていたのでヒットになるだろうと。ただ楽しんでいましたね」
打った瞬間を「外野を越えたかな?捕られても犠牲フライは十分だな、ああオッケーと思って。1アウトやったのですごく楽に打てました」と回顧。大きな当たりだけど記録は単打なんですね。「あははは!そうですね、そうですね。でも本当によかった。勝ててよかったです」
奥さんも観戦されていたとか?「本当はきょう2打席ダメだったら代えるぞと言われていたので、やばいなと思っていたんですけど…福間さんのおかげで」。そして「藤井助監督を胴上げするために次も絶対勝ちます!」と大きな声で宣言してくれました。
◆力を振り絞って投げました!
締めは中島(洸希)投手です。立ち上がりの4連続三振も含め、ナイスピッチング!「久しぶりの先発だったんで“入り”を大事にしたくて、初回から全力でいこうと思っていました。それがいい結果になってくれたと思います」
7イニングは今季最長?「はい。ことしのオープン戦は4回がMAXでした」。いけるところまでと?「そうですね」と答えてから、ちょっと苦笑いして「4回ぐらいにちょっとへばっていたんですけど(笑)、まあ何とか」
そのあと無難に抑えていましたよ。「そうですね。大学の時は先発をしていたので、それを思い出しながら」。勝因はバッテリーだと藤井助監督が言っています。「ほんとですか! 一気に2点取られたけど最少失点でいけたのと、あとのピッチャーがゼロでいってくれたので。それが最後につながったのかなと思います」
4回2死からの失点に関しては「前半ずっとカットボールをメインで組み立てたのが、点を取られた回あたりで狙われて打たれたかなと。そこから、ちょっと修正して右バッターが多かったのでカットボールを生かすために、インコースの真っすぐを多くしたという感じですね」と振り返っています。
2失点のあと、よく踏ん張った!「藤井さんとできるのが、きょうで最後なので…。力を振り絞って投げました。決勝でもう1試合やりたいと思っていたら、最後に逆転してくれたのでよかったです!」
③2年連続の準優勝
準決勝から約3時間後に始まった決勝は、昨年と同じ日本新薬が相手です。昨年はいったん逆転しながら9回に追いつかれて延長戦へ突入し、10回表に4点を失って8対4で敗戦。何とかリベンジを果たしたいところでしたが…。
第151回JABA京都府春季大会
◇決勝 (3/21)
カナフレックス-日本新薬
新薬 200 023 1 = 8
カナ 000 010 1 = 2
※7回終了降雨コールド
▼バッテリー
[新薬] 岩本 / 大橋
[カナ] 東郷-大西-伊藤-日高‐大石 / 藤田-房前
▼本塁打 新薬:大石(大西)
▼二塁打 カナ:森田、奥野、守屋
《試合経過》※敬称略
先発の東郷は初回に2本のタイムリーで2点を失い、その後は4回途中に交代するまでノーヒット、追加点は与えなかったものの合計9四球。ついで登板した大西が5回に7番・大石の2ランを浴び、3人目の伊藤は6回に2四球と内野安打で無死満塁として降板しました。
代わった日高が犠飛とタイムリー、さらに味方のエラーでこの回3点を追加されました。7回は大石が味方エラーに続いて連打を許し、もう1点。これで8失点です。
打線は1回から4回まで毎回ランナーを出しながら、あと1本が出ず。ようやく5回2死から3番・古和田が四球を選んで、岡田の中前打で一、二塁。続く5番・奥野の左中間フェンス直撃の二塁打で1点を返します!
照明がついた7回には、先頭の1番・守屋が左越え二塁打、次の石森の二ゴロで1死三塁となり、古和田の左犠飛で2点目が入りますが、もう何度も砂を入れて整備されていたグラウンドの状態も踏まえて、ここで降雨コールドゲームが告げられました。
◆「日本新薬に勝てない…」
福間監督は先発の東郷太亮投手をはじめ投手陣に「あれだけフォアボールを与えて、よく2点に抑えていたよね。考えてみれば日本新薬もうちも、そんなに差がないということで。あとの2ランで流れが変わったけど、あそこは誰がいっても打たれる。それはもう仕方がない」と話しています。
「ただ、フォアボールを出すと守備に重点を置くので攻撃のリズムがなくなる。今まで打っていた選手も、守りの方に気持ちがいってしまうから。そこだと思うよ。フォアボールを出しながらよく抑えたというものの、やっぱり6回、7回にひずみが来るね」
そして「あと、苦手意識もあるのかなあ。新薬に勝てないんや~!」と嘆く福間監督。そういえば去年のこの大会も、決勝で日本新薬に敗れての準優勝でしたね。「ほんと勝てない。練習試合でも1対1とか1対0とか、なのに勝てないんや~」
「都市対抗予選の前に、JABAの京都大会があるからね。決勝(トーナメント)に進みたいねえ、まず。でも日本新薬がまたおるねん」。その言葉通りというか…組み合わせが発表された時に思わず声が出ました。「またいる」どころか同じグループで、しかも初戦の相手が日本新薬です。
◆最後のミーティング
特別に許可をいただき、試合後のミーティングでの声を聞かせていただきました。
福間監督
「こういう試合もある。この経験を今度は生かしてほしい。また同じ繰り返しをするのはなしにしよう。いくらでも練習で克服できる。これから京都大会、東北大会、それに都市対抗や日本選手権の予選もある。人数は少ないけど、いい形でいけるようにみんなで力を合わせて頑張っていこう!」
「最後に藤井助監督の胴上げができなかった、ってのは悔しいな。この悔しさを忘れたらあかんで。ま、あとで胴上げするから。外で。本当に藤井助監督には9年間、お世話になりました!ありがとうございました。これからの人生を、皆さんも応援してあげてください」
藤井助監督
「お疲れ様です。試合のことは監督が言ってくれたので」
「きょうで最後になるんですけど、丸9年野球部に携わってきて、いいことも悪いこともありましたが、このカナフレックス野球部というのは非常に入れ替わりの多いチームなんですね。毎年思うのが、シーズンの始まる前は楽しみがあって、1年ごとにチームカラーもかなり変わる」
「そのチームカラーっていうのは、春にはまだ出てこないと思います。だんだん試合を重ねていくうち、夏ぐらいになって完成していくのがカナフレックスというチーム。1年かけて作っていくんやけど、これからいろいろ経験して、やっとチームになっていくので、まだまだどうなるか楽しみなチーム。これから頑張ってもらいたいです」
「自分がこうやって指導者をやらせてもらって、指導者っていうのは選手がいないと始まらないもの。選手がカナフレックスを選んで入ってきてくれたことは本当に感謝しています。その中で、こっちが指示をしたりしたこともあり、それも踏まえて感謝しています」
「これからは一(いち)OBとしてカナフレックスを応援していくので、都市対抗予選やJABA大会とかありますけど、日程が合えば応援に来たいと思います。本当にありがとうございました」
◆自分ももっと成長しないと
では、藤井さんについてのコメントをご紹介します。まだJABAの大会で優勝していないカナフレックス。最高が、このJABA京都府春季大会の準優勝です。藤井さんにとって最後、ぜひ優勝して胴上げで送りたい!とチームが一丸となっていました。話を聞いたのが初戦を突破した直後だったので「藤井助監督のために優勝する」という言葉がたくさんあったのですが、それもそのまま書いています。
選手時代から一緒に戦ってきた大西健太投手兼任コーチに、寂しい?と尋ねたら「…そうですねぇ。まあでも、ことし始まってすぐに話を聞いていたので、ある程度は覚悟を決めていたのかなと。いい形で送り出すしかないですね」という答え。
試合や練習で、2人で話す場面は多かったですね。「いろいろアドバイスはもらっていました。選手としても。特にバッター目線の投球に関しては、よく聞いていて参考にしていたから。そういうアドバイスをもらえる人がいなくなるのは悲しい。もっと成長しないと、って感じですね」
それから「藤井さんも、迫もいなくなる。藤井さんも痛いですけど、迫も痛いなあ」と続けた大西投手。そう、とても頼りにされている迫勇飛投手が退社したと、私もこの日に知ったばかりで。ことしの戦力として選手プロフィールも出ていただけに驚きましたが、海外へ挑戦するためだそうです。
「痛いですけど、でも次へ進む勇気に応えてあげないと。海外でやるっていうのはなかなか決断できないことで、すごいなあと思います。去年頑張ったのが本人の自信になっていると思うし、それが一番でしょう。自信を持ってやってくれたら、どこでも活躍するんじゃないですかね」と最後はコーチの顔でした。
◆しっかり引き継いでいきたい
藤井さんに対するコメントに戻ります。次は、ことしから専任となった武田勇樹コーチです。武田がいるから安心だと藤井さんが言っていましたよ。「あー、ありがたいですね。その言葉を胸に刻んでしっかりと引き継いでいきたいと思います」
同じ加古川北高出身、直属の後輩でもありますから。武田選手が入部した時は、まだ現役でしたよね?「はい。藤井さんの現役を知っているのは、もう大西さんと僕くらいです」。それだけに思うところがあるのでは?「そうですね。いっぱいあります。感慨深いですよ」
「本当に一番、選手思いというか選手の目線に立って、すべてプラスに持っていくよう指導をされていたので、そのへんはしっかり勉強してやっていきたい。選手に対して愛情のある方でしたね。なかなか気づきにくいですけど、そこがまたいいと思うんですよね」
優勝しないと。「そうです。選手間でも出ているんですけど、藤井さんの最後の大会になるので、優勝して胴上げという花道を!と練習に励んできました。やっぱり今のカナフレックスの中で一番の功労者というか、カナフレを支え続けてきた人なので。いい形で送り出せるように。それが恩返しですね」
その後はお願いしますよ。「しっかり責任を持って、安心してもらえるように。藤井さんにもそう言ってもらっているので、自分なりに一生懸命やっていこうと思います」
◆僕らで花道を、有終の美を
続いて、今季も主将を務める森田皓介選手です。藤井さんの退社については「キャプテンなので少し早めに聞いてた」とのことでした。
「カナフレックスを長年支えてきてくれた人なので、みんなショックを受けていましたし、自分もそうやったんですけど、やっぱりこの京都府大会で優勝して、有終の美を僕らで飾れたらいいなとは思います」
できることは優勝?「そうです。まずは結果で。去年はなかなかヒットが出なかったけど、ことしはヒットが出ているので、そこに足を絡めていけば得点力も上がってくると思います」
また米倉凌平選手は「2月末に聞きました。ビックリですよね、正直…」と、今なお戸惑っている様子でした。恩返しをしないと。「そうですね。森田も言っていたんですけど、この大会は優勝して、藤井さんの花道を作ってあげて終わろう!と話しているので。頑張ります」
この大会には迫投手や、昨年で退部した山崎壱成さん、喜来友貴さんらも駆けつけました。みんな藤井さんへの思いは同じだったのでしょう。優勝してグラウンドで、という願いはかなわなかったけれど、すっかり暗くなってしまった球場の外で藤井さんを胴上げして締めくくったことは伝えておきます。
◆10年目のチームへ贈るエール
では、最後に藤井宏政助さんの話をご紹介しましょう。退社を決めたのは「1月くらい」だそうです。チームのみんなにはいつ伝えましたか?「言ったのは2月末です。その前に漏れていたとは思いますけど」
カナフレックスでの9年間を振り返ってください。「知人の紹介で選手として入って、社会人野球がどんなものかもわからなかったですけど、徐々に社会人の仕組みもわかってきました。日本選手権と都市対抗、都市対抗は補強選手ですけど出られて、そのへんで自分の目標が、選手としての目標がちょっと切れたのかなと」
あら、そうだったんですか。それは気づきませんでした。
「次はやっぱりチーム。チームが都市対抗に出られるように、あと1年頑張ろうと思ってやって。で、まあケガとかあったので、そこで区切りをつけて本当はもうそこで辞めようと思っていたんですけど、コーチを依頼されたんです。阪神を戦力外になって、カナフレックスが拾ってくれたというのもあるので、その恩を形にしたいと思って」
なるほど。そしてコーチとなったわけですね。
「選手の時から、こうしたいというのもありましたし、それで指導者になってコーチをして、助監督をして、いろいろありましたけど。ミーティングでも言ったように、選手がカナフレックスを選んで入ってきてくれた、そこで頑張ってくれて。やりがいがあったなと思います。チームを作っていくうえで」
「最後、優勝とか都市対抗出場とかないまま終わってしまったのは悔いが残りますけど、その分また福間さんや武田、大西も含めて何とか。ことしがチーム10年目なので、その区切りというところで出てほしいなと思いますね。もう応援しかできないですけど。一(いち)OBとして」
そう区切りの10年目ですね。一番の思い出は何でしょう。日本選手権とか?「うーん、選手としてより、スタッフになってから出た方が印象深いかも。自分自身はやってないんで。選手だったら無我夢中でやるだけなんですけど、スタッフになって出た時は、間違いなくしっかりやってきたなっていう思いがありますね。都市対抗は出られなかったですけど」
◆心配でもあり、楽しみでもあり
会社は4月15日まででしたが「野球部はきょうで終わりです。もうわかさスタジアムに来ないかもしれませんね」と笑う藤井さん。いやいや、応援に来ましょうよ。
そのあと「でも心配ですよ。これからまだまだやること多いですからね。まだ3月なんで。去年も春先によく打って、後半は守備のチームになった。もともと守備のチームで、打つ方は期待していなかったのが、たまたま春に打ったという。チームカラーが出てくるのは夏ですね。それが出た時は日本選手権の予選で勢いづく。出ない時は弱い…」と続けた藤井さん。
そういえば3年前、日本選手権最終予選で快進撃がありました。「勝ち上がっていって、そのあと負けていった、あれはチームカラーが出ていないんですよ。あの時は。去年みたいに、ちゃんと勝てる相手に勝つというか。強豪を倒すとかじゃなく、モノにする試合で勝ったというのが強いチームですね」
ところで、今後のチームのことを考えると心配?かなり後ろ髪を引かれる?「そうですね(笑)。でも楽しみですよね!その分。どうなるか」。ちなみに野球部の練習は、大会後も何度か見に行ったそうです。
この日、笑顔も見せながら答えてくれた藤井さん。4月15日の退社前、選手たちからはプレゼントをもらい、福間監督には送別会をしてもらったとか。そして10年間暮らした滋賀県から兵庫県に帰って、今は地元の会社に勤めています。野球との縁は、まだつながっているような感じでしたよ。いつか改めて聞いてみたいですね。
カナフレックスは今月25日から『JABA京都大会』に臨みます。ここで優勝すれば秋の日本選手権大会への出場が決定。とはいえ強豪揃いなので、藤井さんの言うように“勝てる試合をモノにして”進んでいってほしいですね。初戦は日本新薬、ぜひリベンジを!
5月9日からは仙台で『JABA東北大会』があり、そして都市対抗の近畿2次予選は5月22日開幕です。そこでどんなチームになっているのか、ことしのカナフレックスはどんなカラーなのか。藤井さんとともに、期待を込めて応援したいと思います。
その前にいったん締めくくりということで、阪神時代をの15年間、本当にありがとうございました。
<掲載写真はチーム提供、※のみ筆者撮影>