対艦索敵用の「目標観測弾」とは:自衛隊の新兵器
12月23日に防衛省から来年度予算が発表されました。[PDF]我が国の防衛と予算-令和5年度予算の概要:防衛省
その中で暫く前から名前だけが知られていた「目標観測弾」に関して、新たに開発予算と用途の説明が記載されています。以前は「弾」とあるので火砲から発射する対地偵察用の機材かと思われていましたが、全く違いました。対地偵察用のみならず主に対艦索敵用でミサイルのような形状をしています。
防衛省の令和5年度予算の概要にある「今後のスタンド・オフ防衛能力の運用(イメージ)」では、島嶼に上がって来た敵地上部隊に対する目標情報の収集は衛星コンステレーションで行い、敵艦艇に対しては衛星コンステレーションでの探知と追尾に加えて無人機(UAV)と目標観測弾で索敵と観測を行う構想です。
イメージ絵にある無人機(UAV)はグライダーのような長い主翼を持つ長時間滞空型で、速度は遅く、平時の警戒監視には向いていますが、戦時において敵艦隊への索敵に使おうとすると接近すら出来ずに撃墜されてしまう可能性が高いでしょう。
そこで用意されるのが目標観測弾となります。イメージ絵のシルエットを見る限り高速を発揮できる巡航ミサイルのような形状で、強行偵察を可能とします。ただし索敵用の航続距離を確保するために超音速までは発揮できそうにない形状ですが、それでも長時間滞空型無人機に比べれば優に3倍は高速の機体になる筈です。
搭載するセンサーの記載はありませんでしたが、光学カメラやレーダーなどを搭載すると思われます。対地・対艦の兼用であること、夜間や悪天候での出撃も考慮すると複数種類のセンサーを搭載したほうが有利です。
目標観測弾は無人偵察機という説明ではないので、帰還を想定していない可能性があります。その場合は国産の長距離巡航ミサイルとなる予定で開発する12式地対艦誘導弾能力向上型をベースに偵察観測機材を搭載した派生型が考えられますが、現時点では使い捨て型なのか再利用型なのかは不明です。
参考例:無人機研究システム
この目標観測弾と近い発想の、滞空型ではない高速型の強行偵察用無人機では過去に自衛隊で研究していた「無人機研究システム」がありました。「多用途無人機(TACOM)」の研究を元に継続して研究していた機体ですが採用されてはいません。これは戦闘機から空中発進させて偵察を行い、戻って来て味方基地の滑走路に着陸帰還する構想でした。
[PDF]無人機の試験技術について:防衛省:防衛技術シンポジウム2012
※「目標観測弾」と技術的に直接的に関連があるかどうかは不明。現状で判明している限りでは、役割と性格がやや近いと推定できる程度。
参考例:他国の強行偵察用無人機
滞空型ではない高速型の強行偵察用無人機は他国に幾つか例がありますが、対艦索敵用を公式に銘打ったものはありません。そして戦略偵察用のものを除いた戦術偵察用のもので、代表的な例は以下のようなものがあります。
- ノリンコFX-500(FH-500)「鋭鷹」 中国製、輸出名称「Sky Saker」
- 無偵-8(无侦-8、WZ-8) 中国製 ※ロケット推進の超音速機
- テレダイン・ライアン「スカラベ」 アメリカ製、エジプト軍が採用
- BQM-145「ペレグリン」 アメリカ製 ※開発中止
- Air-Launched Fast Autonomous Reconnaissance System(AFARS: 空中発射高速自律偵察システム) アメリカ製、開発中
- Tu-141「ストリーシュ」 旧ソ連製
- Tu-143「レーイス」 旧ソ連製
※テレダイン・ライアン「スカラベ」無人偵察機。地上発進・パラシュート回収型。発進はRATO(ロケット補助推進離陸)を用いて燃焼終了後に投棄、本体のジェットエンジン噴射に移行して巡航する。主翼が短く高速発揮が可能。
12月26日追記:地対艦ミサイル部隊の目となる「目標観測弾」
※地上発射と確定、使い捨て運用の可能性が高い。