リズムの“新たな波”を予感させるクリヤ・マコト“リズマトリックス”@目黒ブルース・アレイ・ジャパン
ザワついた客席がクリヤ・マコトのピアノで「スッ」と静まりかえる。
クリヤ・マコトの“新生”リズマトリックスは、あまりにも抒情的なオーヴァーチュアで幕を開けた。
“新生”・・・。
そうだ、リズマトリックスは、クリヤ・マコトと安井源之新、そしてコモさん(コモブチキイチロウ)による、最小限にして南米大陸よりも広くラテンなサウンドを醸し出すユニットだった。
それが久しぶりのライヴ開催ということで、クリヤ・マコトの“ホーム”とも言える目黒のブルース・アレイ・ジャパンに足を運ぶと、なんだかようすが違う。
開演前にトイレに行こうとすると、すれ違った人の顔に見覚えがあるなと思ったら、納浩一ではないか……。
あれ?
クリヤ・マコトと納浩一なら、“アコースティック・ウェザー・リポート”なんじゃないの?
と頭が混乱しているうちに、ステージの幕が開いた──というところで本文の冒頭に戻る。
2曲目は、ブラジル出身でシルク・ドゥ・ソレイユの音楽監督も務めたダニエル・バエデールが加わり、オープナーとはまた違ったグルーヴを混ぜ込んで、観客の体温を0.5度ほど上げてくれる。
3曲目で迎えたのは、ヴォーカルのSHIHO。歌い出したのが井上陽水のカヴァー「リバーサイドホテル」だったから、会場の盛り上がりはますます尋常ではなくなる。
ひとしきりトークでも盛り上がると、一転してバラードの「ソフィスティケイティッド・レディ」を、ピアノ伴奏のみで歌い上げる。見事なコントラストだ。
ファースト・セットのラストは、クリヤが「放し飼いの時間がやってまいりました!」と場内の笑いを誘う紹介をしたあと、その“放し飼い”の対象者である安井のパンデイロ・ソロが始まる。ループ・マシンも駆使しての、錯綜したリズムの世界を楽しませてくれて、休憩へ──。
セカンドセット、まずはピアノ・トリオが登場。クリヤはエレピで雰囲気をガラリと変える。
抽象的でいながら、メロディーの片鱗をちりばめながらテーマに近づいていくようすは、やっぱりジャズだと感心せざるをえない。
点を繋ぐと図形が浮かび上がるパズルのように、脈絡がないような音符をひとつずつ追っていくと、「あ、“甘い水”が始まるんじゃないかな……」と思わせる瞬間が訪れる。そんな楽しさを、ぜひジャズ・ファンになって我が物にしてほしいと思う瞬間でもある。
続いては、ハード・フュージョンにアレンジされた「ビリンバウ」。
クリヤ・マコトは根っからのフュージョン世代、すなわち“混ぜる”ことを普通だと思って育ってきた世代だ。ということは、ブラジル・ミュージックを取り上げるにしても、ブラジルを突き詰めるというようなベクトルをもとうとしない。
それが丁と出るか半と出るかは、天に任せなければならないのかもしれないけれど、少なくとも“出たとこ勝負”というような無責任な音を、本番で出すようなことはないというのが、クリヤ・マコトだと思っている。
再びSHIHOを呼び込んで、「バラード、いいですか?」と、その曲のエピソードを語り始めたのが、カーラブレイのインスト曲にSHANTIが歌詞をつけた「Lawns」。
次のSHIHOオリジナル「ハッピー・ソング」は、ドラムがセカンドラインを叩き出してのスタート。このリズム、なんで心がウキウキするんだろう?
それにしてもこのメンバーは、ブラジリアンのユニットなんだからと自分を縛るようなフリをしながら、なんでもやってしまう“恐ろしい奴ら”である。
そしてラストは「トンボ・ミストラーダ」だ。7拍子の、ちょっとノリにくい前半をじっくり聴いてから、サビの2拍子サンバで解き放されるというこの曲のナマ演奏を浴びて、ジッとしていろというほうが酷というものだろう。
エンディングでは客席総立ちのダンスフロアと化して、そのままアンコールに突入。
クリヤ・マコトのアルバム『アート・フォー・ライフ』でもSHIHOをフューチャーしていた「クロスオーヴァー」で締め括り、ステージは幕を閉じた 。
リズマトリックスは、制作期間3年を費やしたアルバム『RHYTHMATRIX』を2009年にリリース。2015年にはブラジル・ツアー、2017年にはインド・ツアー、2018年にはインドネシア・ツアーを敢行し、世界的にその“Ritmo Novo(新しいリズム)”なサウンドが認められたスーパー・ユニットだ。
メンバーも新たに、これから彼らの“混沌を踊りに変えるリズム・マジック”がどんな新局面を見せてくれるのか──期待値の高まったお披露目ライヴとなった。