コロナ禍の先を目指す菓子店の「ステイホーム」提案!老舗も若き当主達の挑戦で前進
新型コロナウイルスが洋菓子店・和菓子店に及ぼす影響の違いとは?
新型コロナウイルス拡大を防ぐべく緊急事態宣言が出され、「人との接触8割減」を目指す日々が続く。「菓子店」のような商店は休業要請を受けていないが、理由として、持ち帰り業態であるため、接触時間が比較的少なくてすむこと。また、特に地元に密着した個人店は、従業員も近隣に住んでいることが多く、徒歩や自転車通勤が可能で、通勤電車の混雑リスクを避けやすいことなどが挙げられる。
そのため、多くの「町の菓子店」は、営業時間を短縮して開業しつつ、リスク軽減のため以下のような対策を取っている。
■従業員のマスク着用、検温、手洗い・消毒などの徹底
■来店者へのマスク着用、入店時のアルコール消毒等の呼びかけ
■店内が過密にならないよう必要に応じて入店制限、並ぶ際には前後と適切な距離を取るよう誘導
■滞在時間を短くするため、電話やメールによる事前の商品予約の推奨
■会話による飛沫防止のため、ショーケース上やレジ前にビニールシートを張る
■遠方の顧客に対しては通販利用の推奨
■喫茶営業の休業
各店からのヒアリングやSNSでの発信を通じて見ていると、外出自粛要請後も、客足が落ちていない菓子店は多い。立地にもよるが、平日も従来の土日程度の来客が続く店もある。
休校が続く子供達の息抜きにと、おやつを買っていく保護者の方も多いようだ。旅行や外食ができない分、せめてもと、近隣の菓子店を訪れるのを楽しみにする人も増えているのだろう。
しかし実は、同じ菓子店でも、「洋菓子店」と「和菓子店」とでは、影響の深刻さに差が出てきている。
それは何故か?「和菓子店」は「洋菓子店」と比べて、地域の商業施設や駅の売店、地元の旅館などに「お土産」として卸売りをしていたり、観光地に売店があったりする場合が多いため、観光客減少の打撃にも晒されているという問題がある。地元を代表するような有名店ともなれば、より深刻な影響を受けているのだ。
約200年の歴史を持つ山形の老舗菓子店、八代目の苦悩と速断
江戸時代の文政四年(1821年)創業の老舗、山形市の「乃し梅本舗 佐藤屋」も、そのような菓子店の一つだ。ご当地銘菓「のし梅」の元祖として、江戸期の薬に由来する「乃し梅(のしうめ)」を、昔ながらの製法で継承している。
八代目・佐藤慎太郎氏は、3月頃から様々なイベントが中止になり、販売予定だった菓子が行き場を失うなど、新型コロナウイルス流行に伴う経済的な逼迫をじわじわと感じ始めていた。しかし、本店を含めた各店舗で限定販売するとことにし、「LINE」の佐藤屋公式アカウントの“友だち”限定で情報を発信すると告知。「LINE」登録者を増やすなど、ピンチをチャンスに変える前向きな対応を続けてきた。
しかし、そんな佐藤氏がより大きな危機に直面したのは、首都圏・関西の7都府県に緊急事態宣言が出された2020年4月7日。該当地域の百貨店や商業施設、セレクトショップ等の多くが休業や短縮営業を選択したことで、既に出荷済みだった看板商品であり、売り上げの屋台骨となる「乃し梅」や「梅しぐれ」が、大量に返品されることになる。キャンセル分も含めて、その数は各2000袋ずつにも及んだ。
本店や直営店の営業は続けているものの、県内の観光地や駅売店などへの出荷も制限され、販売する場が限られてしまう。お菓子の実際の賞味期限は、早いものでも6月中旬以降まであるが、販売する際は1ヶ月以上の賞味期限が残っていなくてはいけないため、それまでに売れないと、泣く泣く廃棄処分せざるを得なくなってしまう。
佐藤氏は、すぐに動いた。SNSを中心に、通販で楽しめる「巣ごもりセット」を作って販売したらどうか?と投げかけたところ、多くの賛同の声を得たことに励まされつつ、緊急でオンラインショップを起ち上げたのだ。
それまで、店のホームページには、菓子の紹介はあっても、問合せフォームからのメールか、電話で注文するというアナログな方式で、本来的な「オンラインショップ」の仕組みは導入していなかった。
しかし今回、「乃し梅5枚入」と「梅しぐれ140g入」を各2袋ずつセットにした「巣ごもり応援【乃し梅・梅しぐれ】」の1商品のみに絞って、4月18日にオンラインショップをスタート。発送費用も「レターパック」で最小限に抑え、送料込特別価格での提供とした。
この日、店舗の公式アカウントから告知されたオンラインショップ開始のツイートは、のべ1000件以上リツイートされ、2時間で100件以上の注文があったという。翌4月19日には、注文数が200件になったとの店からのツイートも見られた。当初、支払い方法は振込のみだったが、21日にはクレジットカードにも対応できるようになった。
1979年生まれの佐藤氏は、全国各地の老舗和菓子店を継承した現役当主の中でも若手世代であり、ツイッターやFacebookを使いこなし、ネットを介したファンとのコミュニケーション能力に長けている。
伝統的な看板商品を守りつつ、職人としての創作意欲も常に燃やし、最近では、宇宙を思わせる煌めきが美しい創作錦玉羹や、ツイッターでトレンドとなった妖怪「アマビエ」を模った上生菓子がクチコミで評判を呼んだ。これらの品も、店に行列が出来ないよう、滞在時間が短くてすむようにと、事前予約を受けて販売している。
「地方都市は、ショッピングモールや郊外型の大型店舗が強いが、その中でも、地道に作ったものや、目利きで選んだものを揃えて頑張っている『専門店』に、もっと光が当たってほしい。」と考える佐藤氏。
今回の「巣ごもりセット」を無事に売り切ったとしても、作った物を売る場が制限される厳しい状況は続く。しかし、必要に迫られてオンラインショップを始め、クレジットカードにも対応するようになったことは、同店の200年の歴史の中で、新たな一幕の始まりとなるだろう。
菓子店にとって、信頼関係に支えられた卸売りが出来ることの意義は大きいが、より広いニーズをリアルにつかみ、直販できる手段を強化しておくことも、将来に向けた強みとなる。キャッシュレス利用を求める声も間違いなく増えている。
今の状況を、時代の変化に対応していくためのきっかけと捉え、柔軟に前進していけるかどうか。それがこの先の明暗を分けることになるだろう。
各地の和菓子店が手を取り合って生まれた「旅する和菓子」とは?
広島県呉市に昭和26年(1951年)に創業した和菓子店「蜜屋本舗」を継承した明神宜之(みょうじんのりゆき)氏も、今回のコロナ禍に直面し、動いた若手店主の1人だ。
「観光地で営業しているお店、茶席菓子を主としているお店、交通の拠点に出店しているお店、各々状況は違いますが、大変厳しい状況です。そこで全国の和菓子仲間に声掛けして、各地方の和菓子を集めた特別な詰め合わせ『旅する和菓子』を企画しました。」という内容は以下のとおり。
第1回目は、石川県金沢市「豆半」の胡桃菓子「凸凸(とつとつ)」、栃木県足利市「香雲堂本店」の「古印煎餅」、広島市で明神氏自身が起ち上げたブランド「旬月 神楽」の「広島まんまるチーズ」に、埼玉県川越市「元町珈琲店ちもと」の和菓子に合うブレンドコーヒー「小江戸川越ブランドロイヤル珈琲」を詰め合わせた。
第2回目は、岩手県奥州市「高千代」の「ガーデンハックルベリーどら焼き」、神奈川県鎌倉市「茶の子」のサブレ最中「鎌倉さんぽ道」、滋賀県高島市「NANASAN(とも栄菓舗)」の白あんクッキー「HAKU」と、「旬月 神楽」の「広島まんまるチーズ」を詰め合せた。
参加各店が互いに必要な分だけ商品を買い取り、それぞれで詰め合わせ、各店で販売するやり方。完売のタイミングも店によって異なるが、各店の負担を減らし、ロスも出さずにすむようにと配慮した。
「蜜屋本舗」では、電話予約を受けて店舗販売もするが、明神氏が「旬月 神楽」や個人アカウントからFacebookで告知した反響も大きく、オンラインショップからの購入が9割を占めるそうだ。
日持ちする菓子を選び、色々な種類を少しずつ楽しめるようにしたので、自宅で過ごす時間に楽しんでほしいという。
参加各店の情報を検索すると、ホームページはあってもオンラインショップの機能は無く、配送の注文はお電話で、という店も少なくない。中にはホームページを作っていない店もある。かと言って、今からの制作では、時間も費用もかかってしまう。
だからこそ、地域を超えて協力し合い、少しでも販売の機会を増やすことの出来る、このような取り組みの意義は大きい。購入する顧客側にとっても、それまで知らなかった菓子店との出会いのきっかけとなり、楽しみが広がる。
今年のゴールデンウィークは「ステイホーム週間」となり、旅行も望めないが、「そのような状況ではない今こそ、皆さんには各地の銘品を知ってもらい、またお家で美味しく召し上がっていただき、心に栄養をつけ免疫力をアップしていただきたいです。」という明神氏。「旅する和菓子」という名称には、そんな各地の和菓子店の店主達の思いが込められている。今後も、「蜜屋本舗」のホームページでシリーズの続編を告知していくそうだ。
新型コロナウイルス感染拡大の状況は、今しばらく、厳しい局面が続くに違いない。しかし、菓子店はもちろん、あらゆる個人も企業も、柔軟な発想と広い視野をもって、これまでしたことがなかった新しい取り組みに挑戦するチャンスとも考えられる。力を合わせて、そして、熱い思いを抱く職人達が作ったお菓子に時々心を癒されながら、この危機を乗り越えていきたい。