Yahoo!ニュース

英国発・八幡浜市で開催。「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」の魅力とは?

平岩理緒スイーツジャーナリスト
第4回日本大会はプロ・アマチュア合計で過去最多1641作品が集まった(筆者撮影)

イギリス湖水地方生まれのマーマレードコンテストが日本開催に至った経緯

「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」は、愛媛県八幡浜市の招致により2019年にスタートし、2025年まであと3回の開催が決定している(筆者撮影)
「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」は、愛媛県八幡浜市の招致により2019年にスタートし、2025年まであと3回の開催が決定している(筆者撮影)

2022年4月4-5日にかけて、愛媛県八幡浜市で、第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」の最終審査が行われた。もともと、イギリスで始まったこのコンテストは、2019年に初の日本大会が開催され、私は第1回より審査員を務めている。

2020年の第2回は、作品募集まで進んでいたものの、コロナ禍により中止を余儀なくされ、残念ながら応募作品の返却に至ったが、2021年には第3回を開催。実質は3回目の審査となる4回目の今年は、プロの部391作品、アマチュアの部1250作品の合計1641作品と、過去最多の応募があった。

「ダルメイン」は、イギリス・湖水地方にある歴史ある屋敷の名称で、1675年より代々、ヘーゼル家が受け継ぎ守ってきた。その庭の美しさでも知られ、日本でもNHKのドキュメンタリー番組で特集されるなど、英国式のガーデニングに携わるファンの間では有名な憧れの地でもある。

そんな由緒ある屋敷で、マーマレードのコンテストが行われるようになったのは何故か?

イギリス人にとってマーマレード作りは、年に1度の儀式のようなものだが、寒冷地であるイギリスでは、柑橘はほとんど栽培されていない。彼らは、「セヴィルオレンジ」と呼ばれるスペイン・セビリア地方産のオレンジが市場に出回る1月に、マーマレード作りに精を出す。

「世界マーマレードアワード&フェスティバル」創設者・英国大会主催者のジェーン・ヘーゼル・マコッシュ氏。第4回日本大会の前夜祭レセプションには、ダルメイン現地からリモートで参加(筆者撮影)
「世界マーマレードアワード&フェスティバル」創設者・英国大会主催者のジェーン・ヘーゼル・マコッシュ氏。第4回日本大会の前夜祭レセプションには、ダルメイン現地からリモートで参加(筆者撮影)

そんなマーマレード作りの伝統を見直してほしいと、2006年2月に始まったのが、マーマレードのコンテスト「世界マーマレードアワード&フェスティバル」だ。これを創設し、現在も英国大会の主催者を務めるのは、「ダルメイン」12代目当主の妻であるジェーン・ヘーゼル・マコッシュ氏。第1回には、ほんの数10瓶だったという応募数は、現在では世界40カ国から3000を超えるまでになり、イギリスで大勢のファンが「ダルメイン」屋敷を訪れる人気イベントへと成長した。

このコンテストに、日本から作品を応募するマーマレードの作り手が次第に増えていき、柚子や橙など日本独特の柑橘を使った作品が審査員達を魅了し、入賞するようになった。当時、在英日本国大使館特命全権大使を務めていた鶴岡公二氏によると、マコッシュ氏より、日本からの参加受賞者のために、表彰式でプレゼンターを務めてほしいという依頼があり、初めて屋敷を訪れたという。

さらに、愛媛県八幡浜市から応募していた参加者がいたことが縁を結ぶきっかけとなり、日本でも開催できないかと考えていたというマコッシュ氏の思いと合致。2018年、八幡浜市長の大城一郎氏らが3月に開催された表彰式を視察訪問するに至る。その場で2019年に開催される日本大会についてのプレゼンテーションも行われ、2019年5月、ついに愛媛県八幡浜市で第1回日本大会が開催されるに至った。

「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」の歩み

第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」プロの部への応募作品の一部(筆者撮影)
第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」プロの部への応募作品の一部(筆者撮影)

第1回日本大会には、プロ・アマチュア合計で1600を超える応募があった。

プロの部は3部門「①かんきつ1種のマーマレード ②複数かんきつのマーマレード ③ミックス・マーマレード(かんきつとその他の食材を使用)」に分かれる。英国大会での審査方法にのっとり、審査員は2人1組となって20点満点で様々なチェック項目ごとに審査を行う。絶対評価の点数に応じて金・銀・銅の各賞が決まり、各カテゴリーの金賞の中から1品、英国大会では「ダブルゴールド」と称されるものに相当する「ベストカテゴリー賞」が決定する。受賞者は、受賞作品を商品として販売する際に、各賞のロゴマークを3年間使用することができる。

第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」プロの部でベストカテゴリー賞を受賞した3作品。柑橘は「紅あまなつ」「柚子」「ぽんかん」「伊予柑」が使われた(筆者撮影)
第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」プロの部でベストカテゴリー賞を受賞した3作品。柑橘は「紅あまなつ」「柚子」「ぽんかん」「伊予柑」が使われた(筆者撮影)

このコンテストの審査の大きな特徴の1つは、プロ・アマチュア共に、点数と審査員からの講評を記載した審査結果が、全ての応募者にフィードバックされるというものだ。実は、そのようなコンテストというのは珍しく、これまで、「丁寧なアドバイスが返ってきて嬉しい」といった応募者からの声を、度々耳にしてきた。

これは、そもそものコンテスト発祥の経緯が、順位を競い合うことよりも、自分自身の技術の向上や、マーマレード作りを楽しむことを主眼としていたことからだと言えるだろう。

もう1つ、英国大会とは異なる日本大会ならではの特徴として、日本各地で栽培される多彩な柑橘を使ったマーマレードが数多く出品され、ご当地色が強いということが言える。これは、英国大会主催者のマコッシュ氏らから見ても、日本独自の大きな魅力であるという。

第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」審査の様子。プロのパティシエや料理人、フルーツや食文化の専門家など多彩なジャンルの顔ぶれで取り組む(筆者撮影)
第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」審査の様子。プロのパティシエや料理人、フルーツや食文化の専門家など多彩なジャンルの顔ぶれで取り組む(筆者撮影)

大会ホームページでは、これまでの金・銀・銅の受賞作品一覧を見ることができる。今年のリストを見ただけでも、ブラッドオレンジやライム、グレープフルーツやベルガモットといった柑橘類が、輸入品ではなく国産で手に入ることに驚く方もいるのではないだろうか。さらに、「じゃばら」「璃の香(りのか)」「花良治(けらじ)」など、おそらく耳慣れない柑橘の名も数多く目にするだろう。私もこれまで、愛媛県に限らず、各地の柑橘農家や果樹の研究機関を訪問してきたが、審査をしながら、「これは初めて知った」という品種やブランド名、地域独自の呼び名を学ぶことも多い。このコンテストが、日本各地の柑橘やその加工品をより多くの人に知ってもらうきっかけとなり、それが生産農家の励みになればと願う。

第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」アマチュアの部への応募作品の一部(筆者撮影)
第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」アマチュアの部への応募作品の一部(筆者撮影)

一方、アマチュアの部については、カテゴリーが非常に多いというのが特徴的である。第4回日本大会では、プロと同様の「①かんきつ1種のマーマレード ②複数柑橘のマーマレード ③ミックス・マーマレード(かんきつとその他の食材を使用)」に加え、「④子供のマーマレード(中学生以下) ⑤高校生のマーマレード ⑥学生のマーマレード(大学生・高等専門学校生など) ⑦シニアのマーマレード(75歳以上) ⑧ファミリーのマーマレード(家族で作ったもの) ⑨自家製のマーマレード(自身の畑や庭で採れた柑橘を使用) ⑩愛媛県産のマーマレード ⑪黒いマーマレード ⑫料理に合うマーマレード(魚料理)」の各部門が設けられた。概ね英国大会にのっとった形だが、⑩の「愛媛県産の柑橘を使ったもの」や、⑫の料理の中でも「魚料理に合うもの」と指定する内容は、日本独自のルールである。⑪の「色の黒い(濃い)マーマレード」というのは、八幡浜市の温泉から珍しい「黒湯(モール泉)」が沸いたことから、商店街が「黒」をテーマに町おこしに取り組んできたことに因む。

第1回日本大会のアマチュアの部で最優秀賞受賞、「フォートナム&メイソン」より発売された「ゆず&山椒マーマレード」(画像提供:「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル」実行委員会)
第1回日本大会のアマチュアの部で最優秀賞受賞、「フォートナム&メイソン」より発売された「ゆず&山椒マーマレード」(画像提供:「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル」実行委員会)

アマチュアの部の最優秀賞作品は、英国の「フォートナム&メイソン」で商品化されることになっていて、ロンドンのピカデリー本店や日本国内の店舗で購入できる予定だ。第1回日本大会のアマチュア部門最優秀賞を受賞した「ゆず&山椒マーマレード」は、2019年秋に販売された。2021年の最優秀賞作品の商品化は、コロナ禍により少し時間がかかっているが、日本の「フォートナム&メイソン」を展開する「株式会社ユーハイム」によると、2022年中には発売予定だそうだ。

第4回日本大会のアマチュアの部「⑨自家製のマーマレード」部門でベストカテゴリー賞を受賞した男性は、庭で自家栽培した柚子を使用。神奈川県から表彰式に参加したという(筆者撮影)
第4回日本大会のアマチュアの部「⑨自家製のマーマレード」部門でベストカテゴリー賞を受賞した男性は、庭で自家栽培した柚子を使用。神奈川県から表彰式に参加したという(筆者撮影)

また、アマチュアは、1品につき出品料1500円を支払って参加するが、この出品料は、英国大会に倣い、全額が慈善団体に寄付される仕組みとなっている。第1回日本大会では、西日本各地を襲った「平成30年7月豪雨」の復旧事業支援金として、計1,909,500円が、被災した愛媛県内の各自治体に寄付された。第3回日本大会では、計1,602,136円を障がい者就労支援施設に寄付している。

「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」、今後の課題

第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」表彰式は、大分県との航路の発着地、八幡浜港に隣接する道の駅・みなとオアシス「八幡浜みなっと」屋外特設ステージで開催された(筆者撮影)
第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」表彰式は、大分県との航路の発着地、八幡浜港に隣接する道の駅・みなとオアシス「八幡浜みなっと」屋外特設ステージで開催された(筆者撮影)

表彰式には、プロ・アマチュア共に、金賞以上の受賞者が招待されるが、会場までの交通費や宿泊費は自己負担となる。これまで3回の表彰式を見てきたが、県外から参加し、飛行機や電車、車を乗り継いで八幡浜市の会場までわざわざ足を運ぶ受賞者も数多い。その中には、「初めて八幡浜市に来た」という声も少なからず聞かれ、八幡浜市は、このコンテストを通じて全国での知名度を上げ、訪問のきっかけを提供していると言えるだろう。

今後、「柑橘の町」としてよりアピールしていくには、この機会に遠方から訪問してくれた参加者達に対して、市内の柑橘農家見学や、生産者・流通バイヤーとの交流の機会を設けるなど、さらなる積極的な施策が望まれる。

「フェスティバル」の部分では、地元を拠点に活動し、大会運営にボランティア参加している料理研究家の方々などの協力もあり、イベント期間中、マーマレードを添えたアフタヌーンティーなどを提供するカフェを運営し、地元の高校生が接客をするといった産学連携の試み、親子で参加できるマーマレード作り体験教室なども行われている。このように、子ども達が地元を知り、体験できる場を設けることも、今後ますます必要である。

第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」表彰式会場では、プロの部受賞作品のいち早い販売も行われた(筆者撮影)
第4回「ダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会」表彰式会場では、プロの部受賞作品のいち早い販売も行われた(筆者撮影)

また、プロの部の受賞作品は、表彰式などのイベント会場で販売が行われる他、過去には東京の百貨店での英国展でも販売された。しかし、まだまだ知名度を上げる余地があるだろう。

通常、受賞作品を一度に入手するということは難しい。しかし、食べ比べすることでわかるマーマレードの様々な個性は、異なるブランドのセット販売や試食の機会があると、より明確になる。

コロナ禍によって、試食を伴うイベントの開催が難しくなったという事情はあるが、マーマレードは、常温で日持ちすることが強みでもあり、委託販売もしやすい。複数の受賞作品を仕入れてまとめ、セット販売する事業者があったならば、日本の柑橘の多彩さを感じてもらうことが出来るだろう。

自治体によっては、地元産の柑橘を使ったマーマレードを、「ふるさと納税」返礼品などにも組み込めないだろうか。

八幡浜市では、英国側との契約で予定していた計3回の開催を無事に終え、この先は、2025年までの3年間、あと3回の開催が新たに決まっている。

次なるフェーズとして、このイベントを通じた他の柑橘産地同士との交流、農家同士の情報交換の機会などにも繋げていくことが出来たら、この大会を日本に招致した意義も大きく、イギリスでは実現出来ない日本ならではの展開だと言えるだろう。

今はまだ、日本大会に出品する海外からの参加者は、台湾など、日本と近しい関係のアジアの国に限定されている。海外との行き来には未だ制限もあり、世界情勢を鑑みながらの慎重さも求められるが、再び海外から日本へ、そして八幡浜市へと来てもらおうとするならば、「日本でしか味わえない農産物」の収穫や加工の体験など、物を売ることよりも、体験してもらうことがカギになると思われる。

イギリスから見ても、「日本大会に参加してみたい」と思ってもらえるようなコンテストと、それを取りまく様々な魅力あるコンテンツを提供していけたならば、地方活性化の大きな成功事例として、国内外の注目を集めるだろう。

スイーツジャーナリスト

マーケティング会社勤務を経て、製菓学校で菓子の基礎を学び、スイーツジャーナリストとして独立。月200種類以上の和洋菓子を食べ歩き、各種媒体で発信。商品開発コンサルティング、イベント企画や司会、製菓学校講師、コンテスト審査、スイーツによる地方活性化支援など幅広く活動。スイーツ情報サイト「幸せのケーキ共和国」主宰。「All About」スイーツガイド、「おとりよせネット」達人、日経新聞のランキング選者等も務める。著書『東京最高のパティスリー』(ぴあ)、『まんぷく東京レアもの絶品スイーツ』(KADOKAWA)、監修『厳選スイーツ手帖』『厳選ショコラ手帖』(共に世界文化社)等。

平岩理緒の最近の記事