スイーツブームはどう生まれる?52 店参加!7/2スタート「フランス パティスリーウィーク2021」
自転車ロードレースから生まれた「パリ・ブレスト」に因む「パリ・トーキョー」とは?
2021年7月2日(金)から7月18日(日)まで、「フランス パティスリーウィーク2021」が関東で開催される。スイーツ業界の最前線で活躍するパティシエ達の店に加え、ホテルやフレンチレストランも含め52店が参加し、同じテーマのお菓子を一斉に提供するパティスリーの祭典だ。
実は、「フランス パティスリーウィーク2021」は、今年で10周年を迎える日本最大級のレストラン・イベント「フランス レストラン ウィーク」(2021年10月8日~31日開催予定)の姉妹イベントで、今年が第1回目の開催となり、注目を集めている。
そもそも「パリ・ブレスト」とは、フランスの伝統的な自転車ロードレースから生まれた菓子だ。1891年に、パリとフランス西部のブルターニュ地方の街ブレストとを往復するレースが開催されたことを記念して作られたという。コースの沿道にあったパリ郊外の菓子店「メゾン・ラフィット」の菓子職人ルイ・デュラン氏が、自転車の車輪の形をヒントに考案。リング状のシュー生地を横に切り分け、アーモンドをキャラメリゼしてペースト状に挽いた「プラリネ」を加えたバタークリームを間に挟むのがクラッシックなスタイルで、生地にはアーモンドスライスや細かく刻んだダイスを振りかけて焼く。
折しも今、フランスでは毎年7月を中心に開催される自転車レース「ツール・ド・フランス」で盛り上がっている。自転車ロードレースはオリンピックの種目でもあり、この7月は、「東京2020オリンピック」開催の予定。そして、次期の開催都市はパリとなる。そこで、「フランス パティスリーウィーク」がパリと東京の、2つの五輪開催都市の架け橋になることを願って、今年のテーマを「パリ・トーキョー」としたそうだ。
伝統菓子をベースに様々に表現する各店の「パリ・トーキョー」
開催期間中、参加全52店のパティシエ達がそれぞれの発想で、十人十色の「パリ・トーキョー」を考案し、提供する。
たとえば、個人店のパティスリーでは、様々なメディアで活躍する鎧塚俊彦氏の「トシヨロイヅカ」(東京店・ミッドタウン店)や、1947年生まれの藤生義治氏による「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」(高幡不動)、4月に『情熱大陸』(毎日放送)に出演した金子美明氏の「パリ セヴェイユ」(自由が丘)など、ベテランのオーナーパティシエ達による店も多数参加する。
一方、最近、百貨店にも支店をオープンし注目される遠藤泰介氏の「パティスリーカメリア銀座」、大山恵介氏の「パティスリー イーズ」(茅場町)など、若手パティシエの店も話題になりそうだ。
「帝国ホテル東京」(日比谷)、「ホテルニューオータニ(東京)」(赤坂見附)、「パレスホテル東京」(大手町)、「グランドハイアット 東京」(六本木)、「パークハイアット 東京」(新宿)、「ザ・ペニンシュラ東京」(日比谷)など、ホテルのショップでテイクアウトできる品も多い。
2020年以降のコロナ禍によって、多くのホテルが、国内外からの宿泊利用客減少により苦戦している状況もあるが、そんな中でもスイーツの人気は高いという。このイベントをきっかけに、ホテルに足を運ぶ新たな客層も増えることだろう。
また、フレンチレストランの「ベージュ アラン・デュカス 東京」(銀座)のドゥグラス・オベルソン氏、「ピエール・ガニェール」(溜池山王)のルーカス・デュマルスキ氏など、普段、なかなかデザートだけを食べる機会の少ないレストランのパティシエ達の作品をいただけるのも貴重だ。
参加各店や作品の詳細情報は「フランス パティスリーウィーク2021」公式ホームページや、公式Instagramを参照されたい。
「パリ・ブレスト」のイベントは新たなスイーツブームの機運となるか?
今年の「フランス パティスリーウィーク2021」は第1回目で、関東の店舗のみの参加となったが、このイベントのアドバイザーを務めるフランス菓子・料理研究家の大森由紀子氏も、「今後もイベントを続けていく中で、関西をはじめ各地に広げていけたらいいですね」と言及。来年以降、ぜひ開催地を広げてほしい!と待ち望むスイーツファンやパティシエ達も多いだろう。
スイーツの認知が広まっていく経過には、海外から日本に上陸したアイテムなどがTVや雑誌などのメディアで紹介されて急激に盛り上がるケースと、何年もかけて少しずつ、じわじわと広まっていくケースとがある。前者の最近の例は、イタリア・ローマ生まれのスイーツとして日本では2020年頃から話題の「マリトッツオ」。後者の例としては、「パリ・ブレスト」と同じくフランスの伝統菓子で、1月6日の“エピファニー”に食べられる「ガレット・デ・ロワ」や、ドイツ圏を中心とする伝統的なクリスマス焼き菓子として知られるようになった「シュトーレン」などが挙げられる。
ここ最近のフランスでは、伝統菓子の魅力を見直しつつ、現代人の嗜好に合うようにアレンジするなど、オリジナリティの要素をプラスした表現が増えている。レストランでも、伝統的なデザートの要素をいったんバラバラにして新たな発想を加えた「再構築」と言われる手法などが、今の時代に新鮮な驚きをもって評価されている。
実は筆者は、2007年の7月に、「ツール・ド・フランス」に因んで、色々なパティスリーの「パリ・ブレスト」を皆で食べ比べるという試食会を開催したことがある。その頃はまだ、基本に忠実にプラリネのクリームを使ったクラシックなものが多かった。さらに幾つかの店からは、「パリ・ブレストは濃厚なコクのあるお菓子だから、うちの店では秋冬にしか作らないんだよ」と言われ、なるほどと思った。
しかし、今回の「フランス パティスリーウィーク2021」に参加した各店の「パリ・トーキョー」は、フルーツを合わせたり、クリーム自体をより軽やかな食感にしたりと、アレンジされたものが多数あり、これならば夏場でも食が進む。パティシエ達の創作意欲と、フランス菓子と日本の食文化との融合によって生まれる大きな可能性とを感じた。
伝統菓子を継承していくことは、もちろん大きな意義のあることだが、作り手の自由な発想でアレンジすることもよしとし、各店の個性豊かなアイテムが揃うことで、食べる側も、色々と食べ比べる楽しみが広がる。思えば、「ガレット・デ・ロワ」や「シュトーレン」のようなヨーロッパの伝統菓子が日本でメジャーになってきたこの10年ほどを振り返ると、クラシックな品とアレンジされた品とが両立する中で、次第に浸透してきた背景があった。
フランス人パティシエのフレデリック・カッセル氏のパティスリー、「フレデリック・カッセル」(三越銀座店)では、今回の「フランス パティスリーウィーク2021」で発売するものとは別に、パリ郊外のフォンテーヌ・ブローにある本店でも、違う種類の「パリ・ブレスト」を販売予定だという。日本でのイベント開催がきっかけとなり、パリでも新たなスイーツが生まれるというのは、2つの都市の繋がりが感じられて、心躍る話題だ。
「フランス パティスリーウィーク2021」が発信する「パリ・ブレスト」の新たな形。今後も続くであろう企画提案も含め、一時的なイベントやブームとして盛り上がるだけにとどまらず、ここから、じわじわと定着していく食文化となっていくことを楽しみにしたい。