『PICU』で吉沢亮の幼なじみの小児外科医を演じる菅野莉央 「自分の良さは打たれ強いところです」
月9ドラマ『PICU 小児集中治療室』で、吉沢亮が演じる主人公・志子田武四郎の幼なじみの1人、河本舞役で出演している菅野莉央。共にPICUで働く小児外科医で、ショートカットも印象的だ。子役からのキャリアを持つ29歳。サバサバした姉御肌の役柄は自身に近いという。今作への取り組みと近年にあった転機などを語ってくれた。
見学した医療の現場は明るい雰囲気でした
――自分で観ていた医療ドラマはありますか?
菅野 日本の作品だと『グッド・ドクター』だったり、韓国ドラマの『賢い医師生活』というシリーズをずっと観ていたりします。今回の動きのヒントになるところもたくさんありました。
――そういうドラマはだいたい患者が助かりますが、『PICU』では1話から、運び込まれた子どもが亡くなってしまって。
菅野 そこは珍しいなと思います。1話ごとに患者さんを救って解決していくパターンでなく、医師側が悩んでいるのが描かれて、視聴者の方も一緒に「どうやって救っていくんだろう」と考えていける作品だと感じます。
――初めて医師役を演じるに当たって、本物のPICUを見学したそうですね。
菅野 入院しているお子さんたちや働いている方たちのリアルなお仕事ぶりを、間近で見させていただきました。演じるうえですごく助けになっています。
――どんなことを演技に取り入れたんですか?
菅野 皆さんのコミュニケーションが想像していたよりすごく明るくて。お子さんたちにもたくさん話しかけてらっしゃったり、温かい雰囲気を感じました。
――小児患者が対象だからでしょうか?
菅野 そうですね。お芝居の病院のシーンでも、ニコニコして話し掛けたり、チームワークの良さを表現できるように心掛けています。
不慣れでも慌てている感じを顔に出さないように
――映る時間は短い医療行為のシーンでも、練習はかなりするんですか?
菅野 医療の監修チームの先生方が、それぞれの役の動きをすべて付けてくださっています。「この器具はこう使って」とか、リハーサルのときに教えていただいて、その場で覚えて段取りをこなしていきます。
――手こずったこともありました?
菅野 スピード感があって、「この台詞を言うときには、この作業は終わらせていてください」と言われたりするんですね。ピンセットでシールを剝がしたり、不慣れでワタワタしながら、慌てている感じは顔に出さない。ちょっと大変ですね。
――ショートカットにしたのも役のためですよね?
菅野 インする前にプロデューサーさんとお話しして、初めてショートにしました。その前は金髪にしていたり、たまたまですけど最近は役によって髪を変えることが続いています。
「何とかなる」と楽観的なところは素に近いです
――金城綾香プロデューサーは菅野さんについて、「作品ごとにまったく別人に思わせてくださる。変幻自在」とコメントされていました。
菅野 自分の中では毎回苦労しています(笑)。ただ、「こういうキャラクターはこういうふうに」というものは、あまりないかもしれません。その人物の内面や、どういう考えで言葉を発しているかは考えますけど、話し方を大きく変えたりはしないですね。
――型にハメないということですね。今回の河本舞はサバサバした姉御肌で、得意パターンですか?
菅野 そういう役柄自体はほぼ初めてです。私の素に近い部分を役にしてくださったとうかがいました。だから、やりやすいのと同時に、普段の自分を見られているような気持ちになります(笑)。男っぽいところが知られていたんだなと。
――舞のどの辺が自分っぽいと?
菅野 ベースとして思ったことを何でも言うところや、あまり引きずらない感じはすごく似ています。どこかで「何とかなる」と考えている楽観的なところが近くて。あと、私もよく食べます(笑)。
ガツガツ食べていて自分で観て笑いました(笑)
――4話でカツ丼を食べながら武四郎に「私たちじゃどうにもできないことってあるじゃん」と話して、「落ち込んでるのによく食べるな」と言われるシーンがありました(笑)。
菅野 私も落ち込んで食欲が落ちたことは1回もないです(笑)。むしろ悩んでいるときのほうが食べるかもしれません。とりあえず元気を付けようと。
――2話で肉まんを食べながら武四郎と話すシーンも、撮影中に3~4個食べたそうですね(笑)。
菅野 メイキングで撮られていると知らなくて、編集してくださった動画を観たら、ガツガツ食べる人みたいになっていて、自分で笑っちゃいました(笑)。そんなに何口も食べるとは思ってなかったんですけど、監督に「武四郎が話している間もずっと食べていてほしい」と言われて。それで角度を変えて何テイクも撮った結果、3~4個食べていました。
――武四郎の家で幼なじみのみんなとカニを食べるシーンも、結構いったんですか?
菅野 3話のカンパチのしゃぶしゃぶのシーンが、みんな一番食べたと思います。カットがかかってから、私たちも武四郎の母親役の大竹(しのぶ)さんも食べ続けていたので、スタッフさんが片付けないで置いておいてくださいました(笑)。
――ちなみに、菅野さんが一番好きな食べ物って何ですか?
菅野 焼き鳥です! 基本、おじさんっぽい食べ物が好きなんです。焼き鳥でもハツが特に好き。どんなコンディションでも食べられるのもいいですね。
思ったままを言葉にして真っすぐ伝わるように
――舞はいろいろ悩む武四郎に対して、「私は何が正しいとかまだわからないから」などと言っています。考え方が現実的なんでしょうか?
菅野 演じていて思うのが、舞は自分の思ったことをそのまま言葉にできるんですね。だから、台詞の裏側の意味みたいなものはあまりなくて。何かを含んでいるような聞こえ方にしないことがちょっと難しいです。言葉通りの想いが真っすぐ伝わるように台詞を投げることに、一番注意を払っています。
――そこで試行錯誤もありました?
菅野 トーンとか、キツく聞こえすぎないように。あと、彼女自身も悩んではいると思うので、お説教っぽくならないようにしたくて、そのあんばいをいつも考えています。
――そういうストレートな部分も、菅野さん自身に近いと?
菅野 そうですね。でも、私はあそこまで直接的には言えません。目の前で人が悩んでいたら、飲み込んでしまいそう。舞がそこを気にせず言えるのは、武四郎と幼なじみの関係だからか、彼のことを信じていて「これくらい言っても大丈夫」と思っているのかもしれませんね。
考えすぎないほうが現実にいるように見えるかなと
――その幼なじみの距離感もわかりますか?
菅野 私は今もつき合いのある幼なじみはいないので、感覚的にはわかりません。今回は小さい頃から武四郎の家に行って、ごはんを食べていたという設定だったので、親戚みたいな感じなのかなと。自分の家のような様子で手を洗ったり、冷蔵庫を勝手に開けたり、行動で表現できたらいいなと思っています。
――舞自身はどうして医者を目指したとか、バックグラウンドも考えました?
菅野 脚本で描かれてはいないので私の想像ですけど、きっと舞は家族や友だちに恵まれて、要領良く勉強もできて、そこそこ幸せな人生を送ってきたと思うんですね。地元には病院が少ない中で、子どもたちにも少しでも幸せな生活を提供したいというのが、医者へのモチベーションになったように感じました。
――ご自分と近い役だと、演技でそこまで悩むことはないですか?
菅野 あまり考えすぎずにやるほうが、舞が現実にいるように見えるのかなと思っています。「こんなテンションでいよう」とか意識せず、現場で周りの方が投げてくださったものに自然に返す気持ちでいます。
ワイワイしながら仕事をしていいのが衝撃でした
――そういうアプローチは菅野さん的には珍しいですか?
菅野 私はもともと、すごく準備型でした。突き詰めて考えるタイプなので。でも、去年の『SUPER RICH』で、江口のりこさんを始め共演者の方たちがすごく楽しく現場に臨まれていたんです。皆さん1人残らず、ずっとしゃべっていて。もちろん本番ではビシッとやられるんですけど。こんなにワイワイしながらフランクに仕事をしてもいいんだと、衝撃だったんです。
――2歳から仕事をされてきた中でも、初めての経験だったんですか?
菅野 そうなんです。私はいつも仕事モードで現場に臨んでいたのが、そこで壁が壊れて、一番の転機になりました。その頃から私も現場で壁を作らず、スタッフさんともよくコミュニケーションを取るようになって。1人で考えるより、お芝居も伸び伸びやりやすくなりました。自分の新しいチャンネルが開いて、『PICU』でも活かせている感じです。
――逆に言えば、それまではずっとストイックに取り組んでいたんですね。
菅野 根はすごく真面目だと思います。
重たい過去を持つ役の前は世俗を遮断したり
――今までのキャリアの中では、特に悩んだ役もありました?
菅野 毎回悩んでいた気がします。どうしたら役がより良く見えるか。特に1回のゲストで入ると劇的なものを抱えていたりするので、すごく考えました。ここ数年はフラットな役をいただけるようになって開拓中ですけど、昔は重たい過去を持っていたり、不幸な役が多くて。
――『アンナチュラル』2話の凍死させられていた少女とか。
菅野 あのときはネットカフェで寝泊まりしている役だったので、そういう生活をしている人に見えるように、撮影前は日常を楽しまないようにしました。友だちと連絡を取らないで、音楽も明るい曲を聴かず、世俗を遮断していて。
――役作りを念入りにしていたんですね。
菅野 そのほうが自分がやりやすかったので。
――『下町ロケット』のエンジニアのときは?
菅野 体育会系な現場についていくのに必死でした。あれだけの人数の方が一斉に動いてお芝居することが初めてで、動き方や導線を含めて見え方に注意を払っていて。普段とは違う経験ができました。
――大河ドラマの『青天を衝け』では天真爛漫な役でした。
菅野 すごく楽しく撮影させていただきました。アメリカの前大統領を接待する回は女性がたくさん出て、監督もちょっとコメディな感じで演出されて。お着物を着る機会もなかなかないので、嬉しかったです。
素敵なお仕事をする先輩はピュアな方が多くて
――子役から始めて、小学6年のときに『いちばんきれいな水』に出演して、女優を続けていくと決意されたそうですが、その後は揺れることはありませんでした?
菅野 大学受験のときや周りが就活でインターンを始めた時期は、一度立ち止まって考えることはしました。でも、この仕事ほど熱量を注げるものはないなと。韓国に留学したとき、海外で仕事をしたいとちょっと思いましたけど、具体的に何がしたいということはなくて。今すごくいろいろな経験をさせていただいているので、好きな仕事を選んで良かったです。
――厳しい世界の中で、不安を感じることもなかったですか?
菅野 基本「何とかなる」と思って生きているので(笑)。やるだけやってダメだったら、そのとき考えればいいかという気持ちでした。
――監督か誰かに言われて刺さったことや、女優としての指針になったことはありますか?
菅野 具体的なアドバイスというより、私が接していると、素敵なお芝居をされる先輩はすごくピュアな方が多くて。自分の感情に正直というか、年齢に関係なく子どもみたいに喜んだり。そういう純粋な気持ちを持ち続けることが、すごく大事だと思います。
――どんな方と触れて、そう思ったんですか?
菅野 『PICU』の現場だと、大竹しのぶさんです。私が中学生の頃、『冗談じゃない!』というドラマでお母さん役でご一緒して、それからもう15年経ちましたけど、全然お変わりなくて。チャーミングなところを保ち続けられているのが、すごいと思いました。『SUPER RICH』の江口のりこさんも本当にやさしくて面白い方で。お菓子の差し入れをいただいて「めっちゃかわいいやん!」とか言われるんです。そういう素直さはお芝居に表れる気がします。
滝つぼに浮かんで意識が薄れる撮影もありました(笑)
――これまで女優業を続けてきた菅野さんが、自分の強みだと思うことは何ですか?
菅野 何ですかね? 打たれ強さ(笑)? 過酷な撮影が多くて、文字通り打たれたこともありますし、すごく寒いとか暑いとかも、だいたい大丈夫だったので、そこは自信あります。あと、何か言われても引きずらないタイプです。
――厳しいことを言われた経験はあって?
菅野 結構あります。一度受け止めて、取り入れたほうがいいと思ったら採用して、よくわからなかったらスルーします(笑)。
――過酷だった撮影というのは、どんなことをしたんですか?
菅野 今回の金城さんが以前プロデュースされた『悪魔の手毬唄』という金田一耕助シリーズのドラマで、滝つぼで死んでいる役だったんですね。真冬に着物姿で浮かんでいて、漏斗をくわえて、そこに水が落ちてきて。その撮影では、意識がボーッとしながら「本当にヤバいかも」と思いました。生命の危険を感じました(笑)。
韓国の俳優さんから熱量の多い感情表現を学んでます
――韓国作品に傾倒されているそうですが、自分の演技にも影響は受けていますか?
菅野 あります。韓国の俳優さんは日本人の感覚からはオーバー気味というか、エネルギー量が多いと思うんです。そこはもともと自分が苦手だった部分で、補えるように参考にしています。表現力や感情の持っていき方がヒントになります。
――女優さんの取材をさせていただくと、韓流好きの方が多いです。
菅野 私は最初、『殺人の追憶』という映画にハマったのがきっかけでした。脚本が本当にすごいなと感じて、『チェイサー』とかハードな作品からドラマも観るようになりました。
――『殺人の追憶』は、のちに『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞したポン・ジュノ監督、ソン・ガンホさん主演の作品ですね。
菅野 ポン・ジュノ監督の作品はそこから、ひとしきり観ました。『母なる証明』とか『オクジャ』とか。
――韓国の女優さんでも、刺激を受けた人はいますか?
菅野 たくさんいますけど、同世代だとキム・ゴウンさんです。最近だと『シスターズ』に出てらっしゃって、最初は『トッケビ』で拝見しました。私より2歳上で、確か25歳くらいであれを撮られて、あまりの演技力にビックリしました。ずっと作品を追い掛けて観るようにしています。
――キム・ゴウンさんの何がすごいと?
菅野 『トッケビ』では高校生から大人になるまでを演じられていて、そのグラデーションもすごかったですし、ファンタジーな世界でCGもあって。たぶん実際は相手がいない、ひとり芝居のようなところで、感情をワッと持っていくんです。その自家発電的な表現力が素晴らしいと思います。
ひとしきり悩んだら生きやすくなってきました
――『PICU』の撮影中に29歳の誕生日を迎えられました。20代最後というのは、意識しますか?
菅野 30代に向けて何をしていいかわからない、というのが正直なところです。でも、やっぱり人間的に素敵な先輩はお芝居も魅力的なんです。私もなるべくいろいろな人とコミュニケーションを取ったり、経験の引き出しを増やしていって、1人の人間として成長することは意識していけたら。30代自体は楽しみなんです。
――それはどういう点で?
菅野 先輩が皆さん、「30代は楽しいよ」と言うので、どれだけ楽しいんだろうと。私も年齢を重ねるごとに楽になるというか、生きやすくなっているので、若い頃に戻りたいというのはないです。これからを楽しみたくて。
――悩むことがなくなってきたわけですか?
菅野 自分の習性がわかってきて、コントロールしやすくなった面はあります。10代の頃はみんなそうかもしれませんけど、いろいろな情報が入ってきて人と比べてしまったりしていました。そういうのをひとしきり経験して、もう終わりにできたので、楽になってきた気がします。
――先ほどから出ている「何とかなる」も、生まれつきだったわけでなくて?
菅野 20代半ばからです。10代はすごく悩んでいました。
――これから磨いていきたいこともありますか?
菅野 韓国語が疎かになってきているので、コツコツ頑張って忘れないようにしたいです。お仕事に繋げる意味でも。
――仕事以外で成し遂げたいこともありますか?
菅野 健康でいることです(笑)。適度に運動して、ちゃんとした食生活をする。それくらいですけど、今のところは維持できています(笑)。
Profile
菅野莉央(かんの・りお)
1993年9月25日生まれ、埼玉県出身。
2歳から子役として活動。2002年に映画『仄暗い水の底から』で映画デビュー。主な出演作はドラマ『下町ロケット』、『青天を衝け』、『SUPER RICH』、『エロい彼氏が私を魅わす』、映画『悪の教典』、『人数の町』、『わたし達はおとな』など。『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)に出演中。
『PICU 小児集中治療室』
フジテレビ系/月曜21:00~