米・新型コロナ感染者数10万人突破の今「7月までに推定8万1000人が死亡」研究報告
そして誰もいなくなった。
ロサンゼルスのショッピング・ストリート、「サンタモニカ・サード・ストリート・プロムナード」を歩いた時、そんな言葉が脳裏をよぎった。3月26日(米国時間)、アメリカが8万5000人超という世界最多の感染者数を記録した日のことである。
そして、翌日の3月27日(米国時間)には、感染者数は10万人を突破した。
1週間前、外出禁止令が出された直後、この通りは、まばらにはなっていたものの、まだ人影があった。あれから1週間。人影はすっかり消えた。
たまに遭遇するのは、ブランケットをまとったホームレスの人々。通りに設置されている椅子にだらりと腰掛けている。
生活インフラを支える仕事に従事するための外出は許可されているため、道路整備をしている人々の姿もあった。
怖いくらい、通りには何の音もしない。たまに聴こえてくるのは、フードのテイクアウトやデリバリーのサービスを提供しているレストランから流れてくるミュージックくらいだ。ミュージックを流すことで、人々に営業していることを知らせようとしているのだろう。しかし、そんなミュージックにも耳を傾ける人はいない。人が歩いていないのだから。
頑張る日系のレストラン
そんな中、筆者は、テイクアウトできるレストランがないか、散歩がてら探した。外出禁止令から1週間、自炊の日々が続いていたので、気分転換にテイクアウトして食べようと思ったのだ。
レストランは、店内での飲食は禁止になったが、客がフードをテイクアウトしたり、店がデリバリーすることは許可されている。しかし、そんなサービスを行っているレストランは、歩いて見たところ、あまり多くなかった。行っているのは、カリフォルニア・ピザ・キッチンやメキシカンチェーンのチポトレなど経営規模が大きいレストラン・チェーンが中心だった。また、同じビッグチェーンでも、スタバは完全に閉鎖されていた。
そんな中、おやっと思ったのは、先日オープンしたばかりの牛角や一昨年オープンした一風堂、それに、ロサンゼルスをベースにしている日系寿司チェーン系の和牛バーガー店やスパゲティ店がテイクアウトやデリバリーのサービスを提供していることだ。
日系の店たち、頑張っている! 感動しつつも、同時に微妙な気持ちにもなった。今、米政府が厳格なまでに訴えている「社会的距離」のことが脳裏をよぎったからだ。
日系の店を応援しようと、和牛バーガー店でテイクアウトすることにした。店内に客はいない。いつもは活気ある店だが、物々しい空気が漂っている。レジカウンターの向こうでは、黒いマスクにビニール手袋を身につけた従業員が3人、バーガーをパッケージに入れる作業を行なっていた。
ダブルチーズバーガーを注文し、支払う段になって、レジにいた従業員が透明な手袋を身につけた。素手で現金に触れないようにしているのだ。また、現金はカウンターの上に置くよう指示された。感染予防から、客の手から直接現金を受け取らない方針にしているのだろう。
店内隅にはウエイティング用の席が用意されていた。バーガーが焼きあがるまで、その席で待ったが、その間、あらかじめ電話注文していたと思われる客が3人ほどバーガーをピックアップにきた。外出禁止令下、筆者のようにフラリと来店して、注文する客は少ないのかもしれない。
厳格化する危機対応
現金を引き出しに行った銀行も閑散としていた。窓口の前には、客が6フィート離れて並ぶよう、”6 feet safety distance"と書かれたラインが貼られていたが、1人も並んでいなかった。筆者以外に客は1人しかおらず、通常はフロアーで、銀行員と対面で行うような手続きを、窓口のガラス越しに行っていた。
スーパーの危機対応も厳格化している。1週間前、トレーダー・ジョーズの様子を紹介したが、その後また同店を訪ねた時、新たな発見をした。レジ係が、客が購入した商品を袋に詰める前に、自分の手に消毒スプレーを吹きかけていたのだ。また、レジに並ぶ列にも、6フィートごとに仕切りが記されていた。筆者は前の客との距離が近いと従業員に注意されてしまった。
在米の日本人にとって日本の食品は欠かせないが、日本食スーパーでも、入店者数制限と購買数制限が行われている。店から1人客が出るごとに、1人入店させているのだ。米、パン、牛乳、たまご、冷凍うどんなどは1人1ユニットと購入個数が制限されている。
人々が外出しなくなり、需要が減少したため、ガソリンの値段も驚くほど安くなった。場所によっては1ガロン3ドルを切っているところもある。
今は、ビーチや山にも人がいない。先週末、海や山に人々が押しかけたことを問題視したロサンゼルス市が、駐車場やトレイルを閉鎖したからだ。
8万1000人死亡か
「ニュー・ノーマル」となってしまったこの状況がいつまで続くのかはわからない。
トランプ氏は大統領選を目前にしているからだろう、「復活祭の日曜日(4月12日)までに(制限を止めて)国を再開する」と息巻いているが、専門家からは疑問の声が上がっている。
国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ氏はそんなトランプ氏の発言を「国がいつ再開できるかは、独断で決められることではない。ウイルスが決めることだ」と言って一蹴した。
実際、今の状況は長く続くのではないかと思われる。3月26日、ワシントン大学医学部のThe Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME)が出した報告書もそう予測している。
この報告書によると、アメリカでは、これから4ヶ月間で、8万1000人が死亡するというのだ。
また、遅くとも6月までには死者数は1日10人というエピデミック・レベル以下にはなるものの、7月まで死者は出続けると分析している。
入院患者数は、4月第2週目までにはピークに達し、ピーク時には、病院のベッド数は6万4000床不足、2万の人工呼吸器が必要になると予測されている。
カリフォルニア州の場合、感染拡大のスピードが遅いため、ピークは4月後半になるという。
また、ルイジアナ州とジョージア州では感染率が高くなり、病院が深刻な状況になることが懸念されている。
「国が検査を効果的に行って患者を隔離できれば、制限が緩和される可能性はあるものの、当初考えられていたよりも長く“社会的距離戦略”をとらなければならなくなるだろう」
と分析を行ったクリストファー・マレー博士は予測している。
アメリカの国難はこれからも続く。