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米「外出禁止令」でもビーチは人で大賑わい! イタリア人患者が後悔「新型コロナを軽くみていた」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
LA市長は、ビーチや公園でも、6フィートの社会距離をあける必要性を強く訴えた。(写真:ロイター/アフロ)

 「3人以上の集会は禁止」

 3月22日、そんな発表をしたドイツのメルケル首相は、カリフォルニア州のビーチの光景を目にしたら卒倒することだろう。

 カリフォルニア州で「外出禁止令」が発令された週末、ビーチは人で埋めつくされていた。

 バイクロードをサイクリングする人、ウォーキングする人、ジョギングする人。海辺では、甲羅干しする若者たちのグループやサーファー、ピクニックする家族らの姿も見られた。

 ビーチ沿いを走るパシフィック・コースト・ハイウェイでは、ビーチの駐車場に入ろうとする車で、長い列ができていた。

「外出禁止令」発令後の週末、多くの人々で賑わったカリフォルニア州ハンティントン・ビーチ。photo:people.com
「外出禁止令」発令後の週末、多くの人々で賑わったカリフォルニア州ハンティントン・ビーチ。photo:people.com

 筆者がよく散歩する公園も賑わっていた。いつもなら人との距離など気にせずに自由に歩き回れるのだが、多少は気にして歩かなければならない状況が生まれていた。

 ゴルフコースは盛況で、ロサンゼルスのあちこちにあるトレイルも、山歩きする人々でいっぱいだったようだ。

 本当に「外出禁止令」が出されているのか! そう疑いたくなる光景が、週末、展開されていたのである。

家にいて、命を守れ

 店が閉鎖され、街もゴーストタウン状態の今、ビーチや公園などに活動の場を求めるのはやむを得ない話。しかも、ロサンゼルスのエリック・ガルセッティ市長は「外出禁止令」発令に際し、「屋外での活動はしてよし」と発表していた。

 しかし、さすがにその市長も、週末のビーチの賑わいを見て、愕然としたようだ。人々が大勢で集まったり、6フィートという社会距離をあけずにいたりしていたからである。

 市長は早速、ツイッターで警鐘を鳴らした。

「今週末、ビーチやトレイル、公園は、あまりにたくさんの人たちでいっぱいになった。そのため、公園のスポーツやレクリエーションの施設、ビーチの駐車場を閉鎖する。だからといって、他の場所に集まっていいというわけではない。これは重大なことだ。家にいて、命を守ってほしい」

 LA郊外のロングビーチ市では、レクリエーション施設、スケートパーク、ドッグパーク、遊び場、ピクニックエリアの他、バレーボールやテニス、バスケットボールのコートも閉鎖された。チームで行うスポーツをさせないようにしたのだ。

若者も死ぬ可能性がある

 人々が屋外に飛び出し、社会距離も十分に取られていなかった「外出禁止令」発令直後のアメリカの週末。

 この状況をみかねたのか、米公衆衛生局長官のジェローム・アダムス氏もテレビで警告した。

「理解してほしい。今週、アメリカの状況は悪化する。たくさんの人が事の重大さを理解していない。若者たちはカリフォルニアのビーチに集まっているし、ワシントンDCのナショナル・モールには花見にきている人たちもいる。若者は、自分たちも感染し、入院し、死ぬ可能性があるということを理解してほしい。みな、自分がウイルスに感染していると思って行動する必要がある。検査をしていてもしていなくても、自分が人にウイルスを拡散している可能性があり、また、人からうつされる可能性もあることを理解してほしい」

 数週間後にはアメリカはイタリアのようになると懸念する声もあるが、そのイタリアでは、今、ジョギングやサイクリングなどの屋外活動も禁止されている。イタリア政府は市民の外出を原則禁止にしたが、屋外で運動するために外出する市民が後を絶たなかったからだ。

花見で賑わう日本

 実行が難しい「社会距離戦略」。

 今、世界中で「社会距離戦略」が強く呼びかけられてはいるものの、どれだけの人が厳格に実行しているのだろう?

お金はトレイを使って受け渡しを行い、客との社会距離をあけるために、レジの前にはテーブルも置かれている。筆者撮影。
お金はトレイを使って受け渡しを行い、客との社会距離をあけるために、レジの前にはテーブルも置かれている。筆者撮影。

 ちなみに、筆者がよく行くロサンゼルスのボバティー(タピオカ・ドリンク)の店では、レジ係もゴム手袋をしており、お金のやりとりも手渡しではなく、トレイを使って行っている。客との間に社会距離をあけるため、レジの前にはテーブルも置かれている。しかし、ロサンゼルスでここまでしている店は今のところ他に見かけない。

 日本の場合、マスクや手洗いによる感染予防は徹底しているものの、「社会距離戦略」については甚だ疑問だ。

 昨日、日本の友人から送られてきた画像を見て驚いた。そこには、さいたまアリーナで開催されたK-1のイベントに集まった人々が映し出されていた。その数、6500人だという。花見の宴会の自粛も呼びかけられてはいるものの、上野公園は大勢の花見客で賑わっている。社会距離や新型コロナに対する危機意識など、どこ吹く風なのか。

ウイルスを軽くみていた

 今、SNSで、イタリア人の新型コロナ患者、ジャンニさんのビデオが拡散されている。

 ジャンニさんは1ヶ月前、発熱と乾いた咳に襲われ始めた。しかし、そのうちによくなると思い、1ヶ月間普通に過ごした。だが、日帰りでミラノに出張した後、38度を超える熱に襲われ、呼吸困難に陥り、救急車で病院に運ばれた。ジャンニさんは人工透析をしている76歳の父親と一緒に住んでいたが、父親にもウイルスをうつしていた。ジャンニさんの父親は亡くなった。ジャンニさんは死に目に会えず、最期に父親を抱きしめてあげることができなかったことを後悔している。

 人工呼吸器の向こうからジャンニさんは世界に訴える。弱々しい声だが、しかし、しっかりした口調で。

「このビデオを作ろうと思ったのはウイルスを軽くみている人が多いからです。多くの人々と同様、私もこのウイルスを軽くみていた。あるいは冗談のように捉えていた。ウイルスはたったの10日間で私の人生を覆しました」

 ジャンニさんの叫びが、新型コロナに対する危機意識を十分に抱いていない世界の人々に届くことを願う。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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