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アメリカも全土封鎖か「やり過ぎが命を救う」“米・新型コロナ対策の顔”が示す手本

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
レストランや飛行機もNGという、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長。(写真:ロイター/アフロ)

 イタリアに続き、スペインも全土封鎖に入り、フランスも全店舗閉鎖を実施する中、アメリカも危機感を強めている。3月15日(米国時間)現在、アメリカにおける感染者数は3244人、死者数は62人となり、増加する一方だ。

 そんな中、今、アメリカの“新型コロナ対策の顔”として“時の人”となっている、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ氏が、アメリカの全土封鎖を予感させる発言をした。

新型コロナ対策で“時の人”

 ファウチ氏は、トランプ氏が「国家非常事態宣言」を行った際も、トランプ氏のすぐ後ろに控えていた人物だ。同氏のレコメンデーションが、アメリカの新型コロナ対策を動かしているといっても過言ではない。

 レーガン政権以降、6人の大統領の下で、30年以上にわたり、HIVやSARS、MERS、エボラ出血熱などの感染症に対するアメリカ政府の取り組みに、科学的見地から助言を与えてきたファウチ氏の言葉は、アメリカ政府にとっては“金言”と同じだ。

 もちろん、それは米国民にとっても同じ。このところ、ファウチ氏の顔をテレビで見ない日はないほど、お茶の間でも馴染みの顔になってしまった。

 79歳という、感染したら重症化する可能性が高い年齢ながらも、ファウチ氏は毎日数時間睡眠で新型コロナ対策に奔走している。

やり過ぎるべき時

 そのファウチ氏が、3月15日(米国時間)、NBCテレビの”Meet The Press”に登場し、ホストのチャック・トッド氏の「もし連邦政府が(新型コロナ)問題を自然災害として対処し、国民にお金を供与するなら、感染拡大のスピードを抑えるために、14日間の国の全土封鎖を呼びかけるか?」との質問に、こう答えたのだ。

「我々はできる最大のことをしたい。我々は大いにやり過ぎになるべきだと思う。やり過ぎで批判される方がいい」

 全土封鎖を予感させる発言である。それだけ、ファウチ氏は現在の状況に危機感を感じていると言っていい。

レストランや飛行機もNG

 また、市中感染が拡大している今も、レストランやバーで、人々が交流している現状を問題視しているファウチ氏は、CBSテレビの“Face The Nation”でこう述べた。

「アメリカのレストランを閉鎖するというのは今はやり過ぎかもしれないが、あらゆることを検討している。私はレストランには行かない」

 ファウチ氏はまた、不要不急以外の自分の楽しみのために飛行機に乗ることも良しとしていない。

「私はもちろん、楽しい旅行のために飛行機には乗りませんよ」

とCNNで明言したことも、注目された。

 今はやり過ぎが正しい時。ファウチ氏はそう訴え、彼自身が、今重視されている「社会距離戦略」のお手本を示す行動を取っていると言える。

 「社会距離戦略」とは、人と人との接触をできる限り減らして、感染拡大を抑制する戦略のこと。人混みに行かないことはもちろんだが、今、アメリカの学校がオンライン授業に切り替えたり、スポーツイベント、テーマパーク、図書館などの公共施設など多くの人々が集まる場所が閉鎖されているのも、人と人が接触する機会を減少させる「社会距離戦略」の一環といえる。

 ファウチ氏は、レストランや空港、そして機内も市中感染の温床になる場所だと訴え、「行かない」と言うことで、米国民に手本を示しているのだ。特に、高齢者や基礎疾患を抱える人々に対して、強く、そう訴えている。

 2014年、エボラ出血熱がアメリカで発生した時も、ファウチ氏は自ら行動することで手本を示していた。

 当時、ある看護師がエボラ出血熱に感染した患者をケアしたために感染、アメリカではパニックが起きていた。その看護師が、米国立衛生研究所(NIH)の病院から退院した時、ファウチ所長はある行動を取った。看護師が回復したことを告げる際、テレビカメラの前で彼女をハグしたのだ。そうやって、恐怖を抱えていた米国民を安心に導いたのである。

安倍首相は手本を示しているのか?

 そんなファウチ氏の影響を受けたのか、あるいは、記者に強く追及されたからだろうか、トランプ氏もようやく重たい腰をあげて、手本を示す行動に出たようだ。

 トランプ氏は、先週、感染していることがわかったブラジル政府の高官と一緒に記念撮影したにもかかわらず、検査を受けていないことが疑問視されていた。「国家非常事態宣言」後の記者会見で、検査を受けていないことについて、ある記者が「あなたは自己中心的なんですか?」と言ってトランプ氏を責めたが、その翌日、トランプ氏は検査を受け、陰性であることが確認されたのだ。

 ところで、日本の為政者は国民に手本を示すことができているのだろうか?

 米紙ニューヨーク・タイムズ(3月5日付)のこんな一文が、その答えを教えてくれそうだ。

「安倍氏は戦略会議にちょっと出ただけで、政府が国民に集まらないよう呼びかけている時でさえ、友人や内閣の大臣と夕食を共にし、パーティーに姿を現した」

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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