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九州北部地方の大雨による洪水 命の守り方

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
溺水トラップを想定したウエイディング(水中歩行)の訓練(水難学会提供)

 九州北部地方では停滞している梅雨前線に暖かく湿った空気が流れ込み、6月27日朝から各地で大雨を観測しています。午前には大雨警報や洪水警報が発令されました。今晩から明日の朝にかけて大雨による洪水に警戒しなければなりません。特に時間差でやってくる流域の洪水に注意し、自分の身を守るために、溺水トラップ(注)に注意しましょう。

田畑の様子を見に行かない

 用水路や排水路の水の流れ、生長途中の稲の様子、様々な心配事があるかもしれません。でも、大雨の最中や直後には絶対に見にいかないようにしてください。田畑の冠水が始まっていると、道路から一段下がっている田畑の水深が深くなっていてもなかなか気が付きません。そこに足を踏み入れ、いっきに沈水してしまうこともあります。溺水トラップのうちの田畑トラップです。毎回の台風や集中豪雨で犠牲者が発生しています。夜間には、特に危険性が増します。

道路が冠水したら、外に避難しない

 道路には、ふたのあいたマンホール、側溝があります。こういったところは冠水しているとその存在に全く気が付きません。しかも大雨の中だとさらにわからなくなります。そういったマンホールトラップや側溝トラップも溺水トラップとなります。過去には、大雨のさなかの避難中にこのようなトラップに落ちて命を失っている人が多くいます。特に見通しの悪い夜間は外出しないようにします。

避難途中に水がきたら

 避難を始めたときには全く冠水していなかったのに、付近の河川の堤防が決壊したとなると、その周辺は30分もたたずに冠水します。そのとき大量の水が押し寄せてくるわけで、流れを伴っています。流れを伴う洪水は大変危険です。人は膝をこえる水深で流されてしまいます。また、車も同様で、流れが秒速1 mを超えて、水深50 cmを超えると流され始めます。従って、徒歩でも車でも水深50 cmを超える流れが来襲してきたら、すぐに高台や屋内の2階以上に避難しなければなりません。

あなたの命を最後に守るのは、浮力体です

 いずれにしても、様々な方法により緊急情報を入手して、すぐに命を守る行動に移れるようにしてください。今晩の寝ている時の警報であれば、目が覚めるまでの時間的遅れも考慮して、どうしたらよいかわからなかったら、屋内の2階以上への垂直避難を選択します。

 厚手のジャケットは、ライフジャケット並みの浮力を持ちます。水位がどんどんあがってきたら、厚手のジャケットを着用、浮いているカバンなどをしっかり抱えるなど、浮力を得てください。そして水面に浮いて生還のチャンスを得てください。

次の災害に備えて

 ビニールシートとアルミニウム製などの金属はしごを組み合わせてカバー写真に示すよう簡易プールを作ります。ここでウエイディング(水中歩行)の練習をすることができます。洪水避難の最中、避難途中に水がきて、取り残された場合、近くの建物まで水中を歩くことを想定しています。水の中を歩く時に注意しなければならないことが身をもって体験できます。

 色水には、入浴剤の白色とか緑色を使います。水底がよく見えないため、実践的です。また、ロープを使ってより安全にウエイディングする方法もあります。本格的な洪水シーズンを前に、地元の消防団などの協力を得て、町内などで行ってみてはいかがでしょうか。

(注)溺水トラップとは、冠水している地面に突然口を開けているトラップ(落とし穴)で、人が落ち込むと溺れてしまう原因となるもの。大雨の時にウエイディング(水中歩行)をするなら、注意が必要だ。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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