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新型コロナ感染症:実は効果あり「マスク」新研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)が猛威をふるっている。一方、政府が布(ガーゼ)マスクを世帯当たり2枚、配布すると発表し、国際的にも話題になった。そんな折、英国の科学雑誌『nature』に、マスクについての新研究論文が掲載された。

マスクに関する議論

 最初に断っておくが、この記事で紹介する論文は、サージカルマスク(医療外科用マスク)についての研究で布マスクについてではない。

 一般で使用される不織布マスク(ふしょくふ)は、医療用のサージカルマスクとほぼ同じ効果があるとされる。不織布とはフェルトのように繊維を絡み合わせてシート状にしたもので、不織布マスクはこの不織布を何枚か重ね合わせ、あるいは一枚を立体的に成形して作られている。

 布マスクは家庭用の不織布マスクに比べてフィルター能力が低く、ウイルスやウイルスが含まれた飛沫を十分に捕捉することはできないとされ、洗っての再利用は使用者の環境によって衛生的な観点から推奨されず、むしろ弊害が多いのではないかと考えられている(※1)。ただ、布マスクにも感染者が他人に感染させない咳エチケット用としての効果はあるようだ。

 マスクに期待される効果は、外界の花粉や他人の咳やくしゃみなどで飛び散った飛沫に含まれる細菌やウイルスを防ぐことだ。

 不織布マスクの場合、よく野球場とボールの比較で言われるように、不織布の繊維の隙間はウイルス(約0.1マイクロメートル)より大きく、ほとんどの不織布マスクのフィルターはウイルスを捉えきれないとされる。ただ、不織布の繊維を通過する間に、ブラウン運動をするウイルスが捕捉され、一定の効果はあるようだ。

 しかし、マスク自体のフィルター効果が発揮されるためには、マスクと顔の間から流入する空気を極力、抑えなければならない。マスクと顔の間を密着させる必要があるが現実的には難しいだろう。マスクと顔の間からウイルスが入ってくることを防げないので、感染防御の効果はほとんどないと主張する研究も多い(※2)。

 WHO(世界保健機関)が、新型コロナ感染症に関してマスクの使用を推奨しないとアナウンスしたり、逆に米国のCDC(疾病管理予防センター)が感染拡大防止の観点からマスク推奨したり、マスクについては議論が続いている。

 ところで、なぜ日本のマスク不足が続いているのだろう。

 新型コロナ感染症が出現する前、その大部分は中国で生産されていた。日本市場向けのマスクは安く大量に中国で作られていたが、世界中で需要が急増した結果、これまでマスクをしなかった人もマスクを求めるようになる。

 その結果、日本にマスクが入ってこない状態が続いているが、国内企業は今、新たに工場を立ち上げたりラインを組んだりしてマスク製造に設備投資をしても、新型コロナ感染症の終息後には安い中国製品が入ってきて、とても太刀打ちできないことがわかっている。

 政府がいくら生産しろと叫んでも腰が重いのは当然だろう。台湾資本のシャープがマスク生産に乗り出したのが象徴的だが、国内企業にはすでにそれだけの余力はない。

マスクは飛沫とエアロゾルを防ぐ

 英国の科学雑誌『nature』の「nature medicine」に掲載された最新論文(※3)によれば、サージカルマスクにコロナウイルスとインフルエンザウイルスの感染予防効果があるとわかったという。このコロナウイルスは、季節性コロナウイルスで一般的な風邪の原因ウイルスだ。

 これは香港大学やハーバード大学公衆衛生学部などの研究グループによるもので、呼吸器ウイルス感染症が疑われる246人の参加者を、マスクを付けない122人とサージカルマスクをつける124人にランダムに振り分け、参加者の呼気を収集して分析した。

 すると、111人がコロナウイルス(17人)、インフルエンザウイルス(43人)、ライノウイルス(一般的な風邪の原因ウイルスの一種、54人)のいずれかに感染していることが確認されたという。

 この111人をマスクの有無で比較したところ、マスクをつけた群は飛沫とエアロゾル中のコロナウイルスを減少させ、飛沫中のインフルエンザウイルスを減少させた一方、ライノウイルスにはマスクの効果がないことがわかった。

 この研究で収集したコロナウイルスは、新型コロナウイルスではないが似たようなウイルスの大きさと考えられる。研究グループは、まだマスクが新型コロナ感染症の感染拡大予防に効果があるとはっきりと言えないものの、飛沫感染やエアロゾル感染には一定の役割を果たすのではないかという。

 この研究結果は、無自覚の感染者による感染拡大を防ぐという意味でのマスクの効果を再確認したもので、我々が持っている認識や最近になってCDCなどで推奨される理由とも合致する。だから、マスクが健常者をウイルス感染から守るわけではない。

 新型コロナウイルスは、飛沫感染と接触感染で感染が広がっていくと考えられている。飛沫感染は、感染者がくしゃみや咳をした際、つばなどと一緒にウイルスが放出され、そのウイルスを他人が吸い込むことで感染する。また、接触感染は、感染者が接触した物を介してウイルスが感染していく。

 ウイルスは環境中でも生存し、大きな飛沫は落下するが、ウイルスを含んだ微粒子状のエアロゾルは空気中に長くとどまり、高濃度の場合や換気が不十分な空間では長距離でもウイルスを拡散させる可能性がある。

 入念で頻繁な手洗いやうがいはもちろん、社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)広く取り、室内では換気をすることが重要だ。

 サージカルマスクは、家庭用の不織布マスクとほぼ同等の機能を持つ。今回の研究結果により、不織布マスクの着用が感染拡大を防ぐための重要な対策になることが改めてわかったということになる。ただ、布マスクに同じ効果があるかはわからない。

※1:C Raina Maclntyre, et al., "A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workes." BMJ Open, Vol.5, e006577, 2015

※2:C Raina Maclntyre, Abrar Ahmad Chughtai, ".Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings." BMJ, Vol.350, h694, 2015

※3:Nancy H. Leung, et al., "Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks." nature medicine, doi.org/10.1038/s41591-020-0843-2, April, 4, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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