“再開”ラッシュのパリの美術館 マルモッタン・モネ美術館で『印象 日の出』と再会
パリではこのところ続々と“再開”のニュースが聞かれるようになった。
6月2日からテラスのみで営業再開したカフェ、レストランは、15日から店内でのサービスも再開された。
22日からは小中学校で、基本的にすべての児童、生徒が登校できるようになった。
またこの日から映画館も再開されている。
パリの2大空港のうち、オルリー空港は3月31日から閉鎖されていたが、26日朝に再開一番機が飛び立った。
美術館やモニュメントなどは6月2日以降、準備が整ったところから徐々に再開が始まっているが、オルセー美術館は23日から、そして、エッフェル塔は25日から開かれた。
ちなみにルーヴル美術館は7月6日からの再開が予定されている。
さて、私自身の美術館巡りは、マルモッタン・モネ美術館から始めることにした。
7月から東京ーパリの直行便が復活するJALの機内誌に、印象派の画家クロード・モネについての記事を書いた縁もあり、筆者としてはまずモネ作品をこの目でふたたび観たかったのである。
パリ16区、瀟洒な住宅街にあるこの美術館には、印象派の言葉の由来になったモネの絵『印象 日の出』がある。
“社会的距離”を遵守しながらの訪問だが、ほぼ3ヶ月半ぶりのアートとの邂逅は、空白期間を経た今だからこそなおありがたい。
人が生きる上で芸術は不可欠、と明言したヨーロッパの首脳たちのスピーチもむべなるかな。様々な時代を経て今もちゃんとそこにある名作と対峙する時、新鮮な酸素が心身に吹き込まれるように感じるのは、私だけではないだろう。
マルモッタン・モネ美術館では、常設展のほかに特別展が開催されている。
現在開催中の一つが、「セザンヌと巨匠たち イタリアの夢」展。
セザンヌの各時代の作品が、同様の題材を描いたイタリアの画家たちの作品と対になって展示されていて、南ヨーロッパ独特の色と光の共鳴を見るようだ。
そしてその対比によって、のちのキュビズムの端緒となるセザンヌの個性がより明快に浮かび上がってくるようでもある。
この展覧会は当初2月27日から7月5日までの予定だったが、新型コロナ流行の影響で来年1月3日まで会期が延長された。
そしてもう一つ、実はこちらを観に行くことが私個人の大きな目的でもあったのだが、友人の芸術家Martine Martine(マルティーヌ・マルティーヌ)の展覧会が開催されている。
マルティーヌさんは、1932年、フランス・トロワ生まれの芸術家。絵画、彫刻、版画と幅広いジャンルにわたる作品は膨大な数に上るが、88歳を迎えた現在もパリ16区のアトリエで日々制作を続けている。
今回美術館に展示されているのは、そのうちのほんとうにごくごく一部だが、彼女の内側で尽きることのないパッションが静かに伝わってくるような小宇宙を作り出していた。
マルティーヌさんはまた、フランスを代表するメセナという存在でもある。
生まれ故郷トロワにある近代美術館の作品の多くが、彼女の両親のコレクションから成っているのだが、マルティーヌさん自身、フランス実業界の重鎮である夫のレオン・クリグマンさん共々、様々な形でメセナ活動をしていて、このマルモッタン・モネ美術館に開設された、子供たちが実技を通してアートと親しむ部屋も夫妻の援助によるものだ。
その部屋の隣の空間で行われている今回の展覧会は、レオンさんが5月に100歳を迎えたのを記念する意味もある。
今年はさらに彼らの活動が大きな実を結ぶことになっている。
2017年、二人はこれまで蒐集してきた19世紀から20世紀にかけての美術作品900点を国に寄贈しているが、それらを基にした美術館が年内に公開される予定。オープンの暁にはまたあらためて報告したいと思う。
さて、フランスへ行きたしと思えども、フランスはあまりに遠し…というご気分の方のために、せめてこちらの動画で現在のパリの美術館の空気を感じていただければ幸いである。