浦和に受け継がれる安藤イズム。WEリーグ首位快走を支えるシュートスキルとは?
【“秘伝”のスキルで勝利の立役者に】
ボールの下からすくい上げるように、右足をコンパクトに振り抜く。鋭く回転のかかったボールが、唸りを上げるようにゴール右上に突き刺さった。
海外サッカーのテクニカルなシュートシーンを彷彿とさせる、ファインゴールだった。
WEリーグは佳境を迎えており、ゴールデンウィークの3連戦が終了。7日に浦和駒場スタジアムで行われた三菱重工浦和レッズレディース(首位)と日テレ・東京ヴェルディベレーザ(3位)の上位対決は、計4ゴールの撃ち合いとなった。
この日は強い雨と風の影響でロースコアゲームになることも予想されたが、両者の意地がぶつかり合う一戦となった。
前半29分に東京NBのFW植木理子がクロスを頭で決めて先制。浦和は後半、冒頭に記したFW清家貴子のゴールで追いつき、その7分後にはエリア内で清家のパスをMF塩越柚歩が蹴り込んで一気に逆転に成功する。しかし、終盤には東京NBがMF北村菜々美のゴールで追いつき、勝ち点1を分け合う結果となった。
浦和は連勝が「9」でストップしたが、15試合を終えてゴール数はリーグトップの「35」と、多彩なフィニッシュワークを見せている。得点ランク2位タイの8ゴールを決めているFW菅澤優衣香と共に、同7ゴールで攻撃を牽引している清家の決定力も光る。
清家は浦和の1点目を決めることが多く、攻撃の火付け役になっている。
なでしこジャパンでも、3月のアメリカ遠征で強豪・カナダ相手に重要な先制ゴールを決めた。国内ではコンスタントに活躍してきたが、ワールドカップとオリンピックにはまだ出場したことがなく、今年7月のワールドカップにかける思いは強い。
「立場的に結果を残すことが一番大事だと思っているので、この1年で、シュート練習の量はかなり増やしました」
なでしこジャパンの4月の欧州遠征時に、清家はそう語っていた。そして、決定力が向上した理由についてこう語っていた。
「(浦和)レッズの安藤(梢)先輩が練習後にいつもシュート練習でアドバイスをくれるので、練習の質が上がりました。今までは感覚でシュートを打っていたので、試合でニアかファーのどちらを狙うか迷って結局、正面に打ってしまうことが多かったんですが、『この角度だったらここに打てば入る』というポイントを見つけて、自信がつきました」
この試合で決めたシュートも、そのトレーニングの賜物だったようだ。試合後、清家は凛々しい表情で、ゴールシーンを次のように振り返った。
「あれも安藤選手直伝のシュートです。ずっと練習してきた角度だったので、体に染み付いていたせいか、自分でもゴールシーンを覚えていないぐらい自然に打てました」
【浦和の進化を支える背番号10】
安藤梢は、女子サッカー界で様々な金字塔を打ち立ててきた。
国内では浦和一筋で数々のタイトルに関わり、なでしこジャパンでは2011年ワールドカップ優勝や2012年のロンドン五輪準優勝などに貢献。7年半プレーした女子ブンデスリーガ(ドイツ)時代にUEFA女子チャンピオンズリーグ優勝も経験。
2018年には筑波大学の体育科学の博士の学位を取得し、2021年からは同大学の助教として、練習後には授業や研究活動を行っている。
WEリーグの全レギュラー選手の中で最年長の40歳。プロアスリートと大学の助教という二足のわらじを履きながらピッチに立ち、選手としても進化を続けている。
WEリーグ1年目の昨季は、チーム事情で本職のFWではなく、ボランチでプレーすることが多かった。その中でも、全20試合に出場して4ゴールを決め、皇后杯の初タイトルとリーグ2位に貢献した。
今季も同じく、チーム事情でセンターバックでプレーすることが多くなっている。これまでやったことのないポジションだが、持ち味の鋭い読みやフィジカルの強さを生かして首位快走を支え、自身もここまで全15試合で4得点と、昨季以上のハイペースでゴールを量産している。
13節の新潟戦(この時は左サイドハーフで出場)で、エリア外から決めたミドルシュートは、ため息が出るようなシュートスキルだった。
浦和の選手たちや関係者の話によると、安藤はシュートに限らず、筋トレや走り方など、さまざまなプレーやトレーニングのコツを後輩たちに惜しみなく伝えているようだ。それはあくまで“秘伝スキル”なので、取材でも詳しい内容が語られることはない。
その中でも、清家は「シュートする時のボールの置きどころ」を変えたことが功を奏したと話していた。
スキルを授けた選手たちの活躍を、安藤はどう見ているのだろうか。
試合後に直伝のシュートについて聞くと、少し踏み込んだ内容を明かしてくれた。
「若い選手たちがどんどん大事なところでシュートを決めてくれるのはチームメートとして頼もしいですし、嬉しいです。自分のリズムでいい形に持ちこんでシュートを打つことは大切で、走ってきた力を利用しながらゴールキーパーにシュートのタイミングがわからないように打つこととか、ファーストタッチの置きどころなどは伝えています」
安藤自身はセンターバックというポジションでチャレンジしているが、ゴールへの貪欲さは失っていない。その一方、センターバックとして、勢いのある若手選手たちとの駆け引きも全力で楽しんでいるようだ。
「前(のポジション)だと、自分の特徴を生かしてゴールを決めてやろう、と思ってプレーしていますが、ディフェンダーは周りの選手と連携しながらみんなで守る楽しさがありますし、我慢してしっかり守った中で、前の選手がゴールを決めてくれて勝ったときは格別です。代表の若い選手たちと戦えるのは楽しいですし、次の試合もしっかり勝っていきたいです」
次節は、5月14日にアウェーのノエビアスタジアム神戸で、2位のINAC神戸と対戦する。勝ち点差は「4」。今季はホームで行われた第6節と1月の皇后杯準々決勝で対戦し、いずれも敗れているだけに、首位の意地を見せたい一戦だ。一方、リーグ2連覇を目指すI神戸にとっても、絶対に落とせない試合となる。
前節、2ゴールを決めてランキングトップに躍り出たFW田中美南(9得点)、そして浦和の菅澤(8得点)と清家(7得点)の熾烈な得点ランク争いの行方にも注目だ。
安藤は、日独通算400試合出場まであと15試合。
自身の経験を新たな世代に伝えながら、自身も成長するために学び続け、浦和の背番号10は輝き続ける。