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35歳、中国人研修生が見た日本の「思い出」

中島恵ジャーナリスト
ブログをまとめた冊子

私は今年1月、Yahooニュースに『35歳、中国人研修生が見た「おもてなしの国」日本』(前編、後編)という記事を書いたが、記事に登場する古月さんはその後、中国に帰国した。そして、彼が日本語で書いたブログを同社で冊子にまとめることになり、このほど完成した。

私はふだんから彼のブログを見てきたが、今回の冊子はその一部を抜粋したものだ。同社の社長によると、以前、日本にきていた別の研修生が「中国人の目から見て面白かったネタ」をセレクトしたという。冊子には62本のブログが掲載されているが、日本人にとっても「気づき」となるものが多いので、いくつかご紹介したいと思う。(※漢字、かなも含め、彼が書いた日本語の文章をそのまま掲載します)

たとえば、ある日のブログのタイトルは「ポイ」。内容は「日本の街の道路はなぜそんな奇麗かな?ずっと疑問があります。国民の躾の他、政府の法律も関係があると思います。『路上喫煙、ポイ捨て禁止』広告の看板は共用の場所どこでも見えます。随時に国民に注意させること、よい環境は国民の皆さんが一緒に創造します」だった。

観光や仕事で来日する多くの中国人が最も不思議に思うのは、この古月さんのように「街の美しさ」だ。日本人にとっては当たり前なので気がつかないが、中国人にとっては「そんなに掃除している人を見かけないのに、どうしてそんなにきれいなの?」と率直に思うらしい。また、日本では国民が「やらされている」わけでもないのに、率先して規律ある行動をとっているのはなぜなんだろう、と感じる人も多い。

お邪魔しました」というタイトルのブログには、オムライスの写真が添えられていた。

名前入りのオムライスに感激
名前入りのオムライスに感激

「日本人の家に行くことは今回初めてです。社長の誘いお陰でお邪魔しました。行く前に、日本人のマナーを考えてちょっと不安があります。結局、社長と奥さんは非常に親切対応されて、屋上のベランダに炉ばた焼き、(中略)予想外は奥さんが私の名前付き料理を作りました。美味しくて気持ちもめちゃくちゃいいですよね。これは本当に日本のおもてなし(ホスピタリティ)ではないかな」

ケチャップで名前を書いてもらうことは日本人でもうれしいが、中国人の彼にしてみたら、生まれて初めての経験でとてもびっくりし、感動したことが伝わってくる。ブログの中で最も多く登場するのは、やはり日本の食べ物だ。380円のお弁当の量と質に感動したり、刺身についてもこんなユニークな記述をしている。

「コックさんが処理された魚は骨もありません。そのまましょうゆをつけて食べて美味しいです。(中略)刺身の下にご飯をつけて問題がありませんが、そのまま刺身を食べてまだ十分に慣れてません」。

日本の自動販売機にも興味

来日した多くの中国人が興味を持つ自動販売機についても、やはり取り上げている。

「日本には自動販売機の使用は普通です。(中略)24時間運営していますので、とてもとても便利です。場所違うと同じ商品の値段も大体大きく変わってないです。中国には、お水の普通と冷たいの値段も違います。公共交通場所はコミュニティと販売値段もちょっと違います。それに、24時間運営のコンビニに除いて、深夜になると買いたいことは無理です」

どこにでもある自動販売機
どこにでもある自動販売機

煌々とライトがつき、コインでもお札でも、お金を入れたらきちんと機能する日本人にとって「当たり前」の自動販売機に感動する中国人は多い。私も中国でたまに自販機を見かけるが、ほとんど買ったことはない。お金を入れても機能しないことが多いし、冷たくも温かくもない常温だったりするので、コンビニで買うことのほうが多い。中国にも日系と中国系のコンビニがあり、かなり便利になったが、価格帯はチェーンによって異なり、品揃えも日本と同じではない。

円安の影響もあって中国の物価はぐんぐん日本に近づいてきており、中国人から見て「日本のほうが断然安い」と感じるものが増えてきた。お弁当などはそのひとつだろう。ほぼ同額だったとしても、「中身の充実度」はまるで違うのだ。彼もブログを書きながら、自然とそうしたことに気づいたようである。彼は日本人だけでなく、中国人に向けてもこのブログを書いていたので、彼が書いてきたものは、これから来日する中国人にとって参考になったはずだ。

古月さんは今も上海でこのブログを書き続けている。日常生活を綴っているに過ぎないが、そこから日本人、中国人が「当たり前」と思っていることの「差異」がにじみ出ていておもしろい。中国と日本の「差異」は至るところに転がっているが、自分の常識だけで相手を見ていては、いつまで経っても誤解は縮まらないのではないかと思う。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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