レアルはなぜエムバペを必要としたのか?クロースの引退と求められる新たなスタイル。
新たな時代が、幕を開けようとしている。
レアル・マドリーがキリアン・エムバペの獲得を決めた。パリ・サンジェルマンとの契約満了に伴い、フリートランスファーで加入。新契約は2029年夏までとなっている。
■ペレスの完璧な実践
ラ・フガーダ・ぺルフェクターー。スペイン語で表現するところの「完璧な実践」が、マドリーによって、フロレンティーノ・ペレス会長によって成し遂げられた。
マドリーは、スタープレーヤーを一人、移籍金ゼロで獲得した。それだけではない。現在、新サンティアゴ・ベルナベウを建設中のクラブにとって、エムバペのようなワールドクラスの選手が来るのは重要だった。
マドリーは新ベルナベウの収入(チケット代+ツアー代)とエムバペのスポンサー収入(クラブ側に肖像権20%)で、およそ3億5000万ユーロ(約560億円)を得られると見込んでいる。
加えて、エムバペのユニフォームは飛ぶように売れるだろう。「9番」の着用が濃厚とされるが、1枚117ユーロ(約1万8000円)のユニフォームが、大きな収入源になるのは間違いない。
■エムバペの嵌め方
ただ、問題はピッチ内のエムバペである。無論、エムバペの加入で、マドリーの戦力がアップすることに疑いの余地はない。だが“嵌め方”を見誤れば、チーム力がダウンするという矛盾が生じかねない。
近年、エムバペは左サイドでのプレーを嗜好していた。フランス代表では、左WGや左MFを主戦場にしている。しかし、マドリーの左サイドにヴィニシウス・ジュニオールがいる。2023−24シーズン、公式戦24得点を挙げ、チーム内得点王になった選手を、定位置から外すのは得策ではない。
右サイドでは、2018−19シーズン、パリSGでプレーしている。エムバペはネイマール、エディンソン・カバーニと共に3トップを形成し、21得点16アシストをマークした。
一方、最も期待されるのが、CFだ。
過去には、エムバペが「9番」のポジションでのプレーを拒んでいた経緯がある。2022−23シーズン、クリストファー・ガルティエ当時監督の下、パリSGで3トップの中央に置かれた。
その折、パリSGはネイマール、リオネル・メッシ、エムバペを同時起用していた。エムバペに与えられた役割は、相手のCBを「ピン留め」しつつ、ネイマールとメッシのためにスペースメイクをするというものだった。そのタスクが、エムバペのストレスになった。
マドリーでは、CF起用されたとして、異なるタスクになるだろう。ヴィニシウス、ロドリゴ・ゴエスといったサイドアタッカーたちは、しっかりと守備を行う選手だからだ。逆に、エムバペがマドリーでCF起用された場合、守備負担を軽減され、ゴールに集中できる、というメリットがもたらされるかも知れない。
■クロースの引退を受けて
もうひとつ、マドリーには課題がある。引退したトニ・クロースの抜けた穴を、どのように埋めるか、である。
「マーケットに、クロースのような選手は存在しない。なので、いまの中盤の選手たちのタイプを見極め、違うやり方を見つけなければいけない」とはカルロ・アンチェロッティ監督の弁である。
「エネルギッシュな選手たちが揃っているので、縦に速いスタイルになるかも知れない。しかし、それは今後、見ていく必要がある」
この数年、マドリーが獲得してきたのは、まさにエネルギッシュな選手たちだ。エドゥアルド・カマヴィンガ(2021年夏加入/移籍金3100万ユーロ/約49億円)、オウレリアン・チュアメニ(2022年夏加入/移籍金8000万ユーロ/約108億円)、ジュード・ベリンガム(2023年夏加入/移籍金1億300万ユーロ/約162億円)、いずれもクロースとはタイプが異なる。
マドリーでは、長く、カゼミーロ、クロース、ルカ・モドリッチが中盤で覇権を握っていた。守備を担当するカゼミーロ、ビルドアップに関わるクロース、ゲームメイクを行うモドリッチ。「CMK」と称された3銃士は奇跡のバランスで成り立っていた。
しかしながら、マドリーは、世代交代を推し進めようとしていた。クラブはカマヴィンガ(21歳)、チュアメニ(24歳)、ベリンガム(20歳)、フェデリコ・バルベルデ(25歳)の成長に期待していた。
現在、「CMK」で残っているのはモドリッチのみだ。
マドリーは、クロースの不在感を表出させないため、違うスタイル、異なるシステムを必要とするだろう。
スター選手をフィットさせる。世代交代を進める。結果を出す。新たなシーズン、アンチェロッティ監督には、この3つが、求められることになる。
一見、無理難題にみえる。だが23−24シーズン、負傷者続出のトラブルを乗り越えて、ドブレーテを達成したチームだ。アンチェロッティ・マドリーの今後の動きに、注目したい。