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アメリカ暴動――トランプは極左アンティファを「テロ組織」に指定できるか

六辻彰二国際政治学者
マンハッタンでの抗議デモ(2020.6.1)(写真:ロイター/アフロ)
  • トランプ大統領は広がる暴動の背景に「極左の扇動がある」と述べてテロ組織への指定を示唆した
  • しかし、暴動の背景には極左以外の勢力の関与も指摘されている
  • そのうえ、アメリカ国内の団体をテロ組織に指定することは法的にも無理がある

 ミネソタ州ミネアポリスで丸腰の黒人、ジョージ・フロイド氏が8分以上にわたって白人警官に膝で押さえつけられ、その後死亡した事件をきっかけに全米で広がった抗議デモは、一部が火炎瓶を投げつけるなどの暴動と化している。これを極左アンティファが先導しているとしてトランプ大統領は5月31日、「テロ組織に指定する」と発言した。しかし、この指定は実際には難しいとみられる。

アンティファとは

 まず、アンティファについてみておこう。

 アンティファとは「アンチファシスト」の略称で、人種差別や性差別などに反対する極左集団だ。指導者や本部はなく、ソーシャルメディアなどでつながった緩やかなネットワークで、参加者の人数すらはっきりしない。

 黒いTシャツなどを着て、ゴーグルやマスクで顔を隠すスタイルが一般的だが、何よりその最大の特徴は差別を先導する極右団体や、人種差別的な取り締まりを行った警察などに襲撃さえ行う暴力性にある。

 アンティファの一般的な認知が高まったのは、2017年8月にヴァージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者のデモ隊と衝突したことで、この事件では3名の死者が出た。

 しかし、差別的な言動の目立つトランプ大統領の登場は、それ以前からアンティファの活動を活発化させていた。2017年1月にはホワイトハウス近くで大規模なデモ隊が車に放火したり、ショーウィンドウを破壊したりしたため、217名が逮捕されている。

 今回、全米に広がるデモに関して安全保障担当のロバート・オブライエン大統領補佐官は「アンティファに先導されている」と断言している。

デモを拡大させているのはアンティファだけか

 ただし、今回の大規模なデモや暴動をきっかけに、これまで敵対してきたアンティファをトランプ大統領が「テロ組織」に指定できるかには疑問もある。各地の暴動にはアンティファ以外の勢力の関与もうかがえるからだ。

 「暴動を先導しているのはアンティファ」と早々に断定したトランプ政権とは対照的に、デモや暴動に直接対峙する地方政府は、背後関係などを明確に把握できていない。例えば、コロラド州デンバーのウォルフ・ブリッツァー市長はCNNのインタビューに「背後にアンティファがいても驚きはしない」、「周辺の州からきた参加者が多いことは確認している」と述べながらも、特定の勢力が先導しているかには明言を避けている。

 それだけでなく、アンティファとともに極右の関与も報告されている。フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員(共和党)は抗議活動にアンティファから「ブーガルー」までが参加していると述べている。ブーガルーは政府による市民生活への拘束を拒絶し、暴力的な衝突をも辞さない点でアンティファと共通するが、アメリカの伝統的な自由放任主義を掲げるリバータリアンなども含む極右の総称だ。ブーガルーが参加しているとすれば、夜間外出禁止令などに対する抗議が理由と考えられる。

 こうした報告は数多くあり、実際に連邦捜査局(FBI)は極左だけでなく極右も捜査の対象に加えている。そのため、アンティファだけをテロ組織に指定するのは政治的に偏った決定になりかねない。

国内団体を「テロ組織」に指定できないアメリカ

 これに加えて、アンティファをテロ組織に指定することは、そもそも法的に無理がある。言論の自由を守る活動を行うアメリカ屈指のNGO、自由人権協会で国家安全保障のプロジェクトリーダーを務めるハイナ・シャムシ氏は、「アンティファをテロ組織に指定する」というトランプ大統領のツイートに「国内団体をテロ組織に指定する法的根拠はない」とリプライしている。

 アメリカの法律ではアメリカ国内で活動していても「イスラム国」(IS)やロシア極右「ロシア帝国運動」のように海外から支援を受けた団体でなければ「テロ組織」として非合法化することはできない。クー・クラックス・クラン(KKK)などアメリカの白人至上主義団体がテロ組織に指定されていない一因は、ここにある。

 アンティファに関しては、オバマ政権時代の2016年4月、国土安全保障省が「国内でテロ活動を行っている」と表現している。しかし、これは活動レベルの認定であり、組織の結成そのものを禁じたものではない。

 そのため、トランプ政権のもとで司法省に勤務した経験もあるジョージタウン大学のメアリー・マコード氏は、仮にアンティファをテロ組織に指定するなら憲法修正が必要になると指摘する。

 この問題を意識してか、トランプ政権からは「アンティファが中国やロシアから支援されている」という見解も漏れている。海外から支援されている組織なら、現行法でもテロ組織に指定しやすくなるからだろうが、これに関してもFBIなどの捜査機関は沈黙を保っている。さらに、先述のようにもともと緩やかなネットワークで代表も本部もないアンティファを「テロ組織」と指定しても、実際どのように規制するのかという政令の運用面の問題もある。

 こうしてみたとき、アンティファを「テロ組織」に指定するハードルは高く、現実味はあまりない。トランプ大統領としてはこれを機に自らに批判的な勢力を「テロリスト」とラベリングすることで、白人至上主義者らの支持を固めたいのかもしれない。しかし、それは結局、アメリカの分断を深めることに他ならず、少なくとも人種間の溝を埋めることにはならないのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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