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習近平氏「マフィアのボス」共産党「ゾンビ」と罵倒――“怖いもの知らず”党女性教授の本心とは

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
RFAのインタビューを受けた蔡霞氏=RFAのウェブサイトより筆者キャプチャー

 中国共産党幹部を養成する「中央党校」の教授だった蔡霞氏(68)=米国在住=が、習近平国家主席を「マフィアのボス」、党を「政治的ゾンビ」と言い放ったことで、党籍はく奪に加え、年金など退職後の待遇取り消しの処分を受けた。中国に帰国すれば、何らかの容疑をかけられて拘束される恐れもある。蔡氏は米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)のインタビュー(8月17日)で「(習近平政権発足後)高度な監視技術は新疆やチベットだけに使われているのではなく、党内にも適用されている」と訴え、「中国が1世紀以上も後退した」と危惧した。

◇「最高指導者は責任を負え」

 蔡氏はRFAのインタビューで、党から処分を受けたあとの心境を語った。

 ――党の最高指導者を「マフィアのボス」と呼んで批判した。後悔していないか。

「悔いはない。重大な問題で国が決定を誤れば、党に責任があり、最高指導者はその責任を負わねばならない。言うまでもなく、最近の党には民主的な意思決定プロセスがない。主要な問題のすべてで習主席が采配をふるっている。彼を『マフィアのボス』と称したのは、透明性も、意思決定の仕組みもないためだ」

 少し前、共産党員で著名企業家でもある任志強氏が、同じく党籍をはく奪された。歯に衣着せぬ発言から「中国のトランプ」と呼ばれた人物で、新型コロナウイルス対策に関して習主席を批判する文章を発表したことで「党と国家のイメージをおとしめた」として処分を受けた。

「党は任志強氏を処分したような方法を使うこともできる。つまり任氏に『汚職(の疑いがある)』として非難するのだ。党はこの戦術によって自らを批判する人たちを黙らせる。これが現代的な政党といえるか? そして私が習主席を『マフィアのボス』と呼んだのは、彼にはそれだけの力があるからだ。彼はリップサービスで『民主主義』という言葉を使うが、彼は民主主義が何たるものか何も知らない」

 ――党内の空気はどのようなものか。

「2001~06年ごろ、党内では活発な議論があった。理論的な研究を通じて党内の民主主義を促進する。中国における政治システムの問題を解決し、社会主義経済と市場経済を完全に調和させる。みながこれを望んでいたためだ。だが、彼(習主席)が(最高指導者に)就任したあと、議論は徐々に縮小していった。

 例えば、私は『全国党的建設研究会』の特別研究顧問として招請された。研究会は毎年、我々と研究課題を話し合い、その年末に研究論文を審査して、優れた成果を見いだす。だが13年の研究課題リストに(それまであった)『党内民主主義』が含まれていなかった。14年にも言及がなかった。私は『なぜ?』と問うた。02年の党大会以来、『党内民主主義』が焦点となり、それを促進することで国の政治環境を改善できると望んでいたためだ。だが、私の疑問に誰もコメントしなかった。結局、説明は『トップによる決断』だけだった」

◇「高度な監視技術は新疆とチベット用だけではない」

 中央党校は党中央委員会直属の教育機関で、党高級幹部の育成を担っている。蔡氏は革命家の孫であり、1992年から同校教授として勤務してきた「筋金入り」の体制派だった。ただ「党内民主主義」を研究してきた立場から、習指導部による統制強化や権力集中に否定的だった。

 その立場を鮮明にさせたのが、中国で新型コロナウイルス感染が拡大したころだった。

 ――あなたに(政権批判の)発言を促した理由は何か?

「最初のきっかけは、李文亮氏(新型コロナウイルスの危険性に警鐘を鳴らし、訓戒処分を受けた湖北省武漢の医師)の死だった。彼の死後、私は言論の自由を求める書簡に署名した。香港国家安全維持法についても激怒していたので、自分の見解を述べる原稿を書いた」

 蔡氏は今年6月、ある会合で、党を「政治的ゾンビ」、習主席を「マフィアのボス」などと批判し、「習主席を解任することが党再生の第一歩だ」などと語った。その発言が録音されていて、インターネット上に流出し、党で問題視された。

「私的な会話を録音したものであり、漏れるとは思っていなかった。(もともと)公開するつもりはなかったので、非常に率直な話をしていた。私が指摘したのは、党がやってきたことは人類の文明に反するという点と、習主席が“大変愚かな決定をしてきた人たちの中で、最も愚かな人間である”ということだ。

 発言内容が漏れると、党校は私に電話をかけてきた。『あのようなコメントをしたのか?』と聞くので、私は『はい』と答えた。我々の誰もが(暗黙の)ルールがあることを知っている。党を批判することはできるが、習主席を批判してはならないということだ」

 ――党内で指導者交代を求める声はどのくらいあるのか。

「はっきりさせておきたいのは、それは組織化された運動ではなく、一般に共有されている感情だ。それはきょう始まったような新しいものではない」

 蔡氏が特に批判したのが、2018年3月の憲法改正。国家主席の任期を2期(10年)までとしていた規定をなくし、習主席の長期政権が可能となった。

「憲法改正は間違いだっただけでなく、犯罪でもあった。習主席がやったことによって、国全体が1世紀以上後退した」

 ――習主席が今後、数年で交代する可能性は高いか?

「彼(習主席)は党内をしっかりと掌握している。高度な監視技術は、新疆(ウイグル自治区)とチベット(自治区)だけに利用されているのではなく、党メンバーや中堅・高官の監視にも使われている。習主席は13年ごろ、同窓会や地方組織の設立を禁止する方針も発表した。仕事帰りの集まりも禁止だ。そのような集まりが、党内で派閥が育つ土壌となるのではないかと、彼は心配していた」

 インタビューの最後で、蔡氏は「私の友人はみな『あなたが北京に戻ると、刑務所に入れられる』と言っている」と明かし、恐怖心をあらわにしていた。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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