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ウクライナ危機に緊張しているのは中国か台湾か

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北京冬季五輪前に会談したプーチン露大統領(左)と中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ情勢が緊張するのか緩和するのか――神経をとがらせているのは、中国と台湾だ。ウクライナに対するロシアの圧迫に対して、米国を中心とする西側諸国がどれほど強硬に反応するかが、中国の台湾に対する行動の変数になっているためだ。

◇中露蜜月

 台湾の蔡英文総統は春節(旧正月)休み前の1月28日、安全保障政策をめぐる総統諮問機関「国家安全会議」の幹部会で、ウクライナ情勢の把握に全力を挙げるよう指示した。8000km近く離れたウクライナの動向が中台の緊張関係にどう影響するか、分析を続けている。

 中国と台湾、ロシアとウクライナはもちろん、相関関係があるわけではない。だが、ウクライナをめぐる米露対立の推移は、台湾海峡における中国の動きに大きな影響を与えるものであり、中台とも武力衝突の可能性についてシミュレーションしているのは間違いない。

 米国と対峙しているロシアと中国は蜜月を演出し続けている。

 プーチン露大統領は北京冬季五輪開会式に合わせて北京を訪れ、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は最重要来賓として扱った。両首脳は今月4日、開会式前に首脳会談を開いて共同声明を出し、両国は▽外部勢力が共通の近隣地域の安全・安定を損なおうとすること▽外部勢力がいかなる口実であれ、主権国家の内政に干渉すること▽『カラー革命』――に反対しており、「これらの分野における協力を強化する」と確認している。

 ここではウクライナを名指ししているわけではないが、プーチン氏は中国から北大西洋条約機構(NATO)の「継続的な拡大に反対」するという文言を引き出し、中国もロシア側から「台湾を中国の不可分の領土と認識」「いかなる形の『台湾独立』にも反対する」という立場を再確認した。

◇「米国は今、気の毒なほど窮地」

 中露両国に共通するのは、ウクライナと台湾を支援してきた米国に対する苛立ちだ。ロシアは、旧ソ連の隣国ウクライナのNATOや欧州連合(EU)加盟の動きに、中国は、アジアでの米国による同盟・パートナーシップ強化の動きに、それぞれ反発し、対米において呼応している。

 中国国営メディアは、NATOの分裂を強調し、米国は弱くて優柔不断であると報じている。そこには日本や韓国といった米国との同盟国や台湾やフィリピンに対し、いざという時に、米国の外交力や軍事力をあてにすべきではない、というニュアンスが込められているようだ。

 中国人民大の時殷弘(Shi Yinhong)教授は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の取材に「中国の見解では、欧州での紛争が長引けば、(米国は)太平洋における潜在的な対立に、同時に焦点を当てることができなくなる」と指摘している。

 ウクライナ情勢が長引けば、米国は台湾に対する支援を弱める可能性がある。つまり、太平洋における中国の軍事的野心に対処するための注意・資源を消耗してしまう、というわけだ。時教授は「米国は今、気の毒なほど窮地に立たされている」とみる。

◇台湾はウクライナより外交的に脆弱

 国際社会の中で、台湾の立場は外交的にあいまいだ。

 昨年12月、中米ニカラグアが1990年から続いてきた台湾との外交関係を解消したため、台湾を主権国家と認めているのは、バチカンを含め14カ国になる。「ウクライナはソ連崩壊後、国際的に認められた独立民主国家だが、台湾の国家としての地位は非常に弱い」。北京を拠点とする政治アナリスト、呉強(Wu Qiang)氏はNYTの取材にこう指摘している。

 NYTによると、ウクライナ危機が始まって以来、中国が台湾に対する戦力を増強しているという兆候はない。ただ、軍事・政治アナリストたちが「中国が近い将来、台湾を征服する」という評価を変える可能性は、現時点ではないという。

 一方で、中国では現在、北京冬季五輪が開催されている。秋には、習主席が中国共産党総書記に再任されることが確実視されている党大会が予定され、その前に習主席は内政に忙殺されると考えられる。

◇戦略的曖昧さ

 ウクライナと台湾の情勢はどうなっていくのか。NYTはふたつを絡めて次のように書いている。

「ウクライナと台湾の地政学的な状況には違いがあり、中国からの差し迫った攻撃は考えにくい。バイデン米政権はウクライナ防衛のために軍隊を派遣しないと明言しているが、台湾を防衛するかどうかは明言していない。『戦略的曖昧さ』と呼ばれるこの政策は、歴史的に米国の抑止力の柱として機能してきた」

 台湾のシンクタンク「遠景基金会」の賴怡忠・執行長はNYTに「米政権から出る最近の発言は台湾側関係者に、台湾を支援するという米国のコミットメントが揺るぎないものであることを確認させるのに役立っている」と述べた。

 だが、台湾では、自身の防衛のため、さらなる努力を払わなければならないという思いが高まっている――賴氏はこうも指摘している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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