イーロン・マスク氏、ChatGPT対抗のAI会社設立 高度知能開発の競争激化
米起業家のイーロン・マスク氏が人工知能(AI)の会社を設立した。「ChatGPT(チャットGPT)」を手がける米オープンAIと競合する新会社だ。これにより、マスク氏も米シリコンバレーで繰り広げられている生成AI開発競争に参加することになると、英フィナンシャル・タイムズは伝えている。
社名は「X.AI社」
米西部ネバダ州に提出された書類によると、マスク氏は「X.AI Corp.」という社名の会社を設立した。この会社の取締役は同氏のみで、マスク氏の資産を管理している元モルガン・スタンレー銀行員のジャレッド・バーチャル氏が総務担当役として記載されている。
マスク氏は最近、同氏が所有する会社とツイッターを合併させ、ツイッターの社名を「X Corp.」に変更した。フィナンシャル・タイムズによると、これは「X」というブランドの下であらゆる機能を備えたアプリ(everything app)を開発する計画の一環だという。ただし、今回設立したAI会社とツイッターとの関係は明らかになっていない。
グーグル兄弟会社から人材募集
マスク氏は新会社の詳細についても明らかにしていない。だがフィナンシャル・タイムズによれば、同氏は米アルファベット傘下の英DeepMind(ディープマインド)など一流のAIラボからエンジニアを募集している。その狙いはライバル企業のアイデアを研究するためだと関係者は話している。すでにディープマインドにいた研究者のイゴール・バブシュキン氏を含め、6人ほどのエンジニアを採用した。
加えて、米エヌビディアから約1万個の高性能画像処理半導体(GPU)を購入した。GPUは主に画像関連の処理に用いられるが、機械学習や大規模言語モデルのトレーニングにも使用される。人間のような文章表現やリアルな画像を生成するAIシステムを構築するには、こうした高性能半導体が必要となり、これはチャットGPTに用いられている技術に似ているという。
激化する高度AI開発競争
高度な生成AIの分野には、米テクノロジー大手が相次ぎ参入を表明しており、開発競争が激化している。米グーグルは23年3月、対話AIサービス「Bard(バード)」を米国と英国で一般公開した。同社のスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)は先ごろ、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、対話AI機能を検索エンジンに組み込む意向を明らかにした。グーグルは、業務ソフトのクラウドサービスに文章や画像を生成する機能を導入するとも明らかにしている。
オープンAIに出資する米マイクロソフトは、検索エンジン「Bing(ビング)」をはじめ、各種アプリやサービスにオープンAIの大規模言語モデル「GPT-4」を取り入れた。23年3月には、業務用ソフト群「マイクロソフト365」にGPT-4をベースにした対話AI「Copilot(コパイロット)」を搭載すると明らかにした。
米アマゾン・ドット・コム傘下の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は23年4月、顧客企業が独自の生成AIシステムを開発できるようにする基盤モデル「Amazon Bedrock(ベッドロック)」を発表した。米メタも年内に生成AIを商用化する意向を表明したと報じられている。
自身設立のオープンAIとたもと分かつ
マスク氏はオープンAIのGPT-4に批判的だ。23年3月には、「GPT-4のような高度なAI基盤には安全上の懸念がある」として開発を一時停止するよう求める署名活動が米国で広がった。これにマスク氏も賛同していると報じられている。
オープンAIの前身は、15年にマスク氏を含む数人が設立した非営利の研究団体。オープンAIはその後の19年にマイクロソフトから出資を受け営利色を強めていった。
フィナンシャル・タイムズによると、マスク氏は19年、「テスラはOpenAIと同じ人材を得ようと競っていた。OpenAIチームの考えに一部同意できないことがあった」「良好な関係で別れることが良い」などとツイッターに投稿した。こうして同氏はOpenAIとたもとを分かったとみられている。当時のことを知る人々によれば、AIの安全性などに関する考えを巡ってマスク氏はOpenAIの役員らと激しく衝突していたという。
- (本コラム記事は「Japan Innovation Review」2023年4月18日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)