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マンガ大賞 どうしてここまで注目されるの?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「マンガ大賞2022」のロゴ

 書店員などマンガに精通している人たちが、今一番面白いと思う作品を選ぶ「マンガ大賞」の授賞式が28日に開かれ、注目の大賞が発表されます。テレビや新聞、ネットなど多くのメディアで取り上げられるなど注目度は抜群。しかしマンガの賞は他にもあり、最も古いマンガの賞というわけでもありません。にもかかわらず、なぜ注目されるのでしょうか?

◇選考員は主催者が直接声がけ

 2008年から開催されているマンガ大賞は、前年の1月1日~12月31日にコミックス(8巻まで)を出版した作品が対象となります。なぜ8巻までなのか?といえば、9巻以上のコミックスを出せる作品は既に人気があると判断しているためです。選考員の選出はユニークで、実行委員が「この人はマンガに熱を持っている」と判断して直接声をかけた人です。そのため、しっかりとした売り場を作るカリスマ的な書店員が主力で、メディア所属の記者やライター、クリエーターもいて、100人前後が投票します。

 そして一次選考では、各選考員が自身の推す5作品を選出して、得票数の多かった上位10作品が二次選考に進出します。選考員はその作品をすべて読んで3作品(1位3点、2位2点、3位1点)を決めて、コメントを付けて提出。集計してポイントの最も多かった作品が「マンガ大賞」の大賞作になります。

 なお私も選考員の一人ですが、選ばれたのは偶然でした。主催者の一人とマンガの話で盛り上がった後で「せっかくなら選考員をやりませんか?」といきなり声掛けされました。正直これっぽっちも誘われると思っていなかったので、最初は戸惑ったのを覚えています。

 また前所属のメディアを退職する際に、選考員の辞退を申し出たのですが「これからもマンガを読み続けますよね? ぜひ続けてください」と言われ、引き止められたことにも驚きました。ここに選考員を選出する際の考え方が表れているといえます。

◇出版関係者はノータッチ

 マンガ大賞が注目される最大の理由は、他の賞以上に公正である点です。まず、賞を受賞することで利益を得る人々(作家や編集者、出版関係者など)は選考に関与できません。選考員が出版社に就職すると、選考員から外される徹底ぶりです。

 また選考員は完全ノーギャラです。ノミネートに自分の読んでない作品が並べば、全部コミックスを自腹で買って読んでいます。コミックスの巻数が多いと懐が痛いのですが(笑い)、自分の知らない作品に心をつかまれたときの感動のほうが上になってしまうのです。

 それに対して、他のマンガの賞は主催が法人であるため、完全ボランティアというわけにはいきません。そこが他のマンガ賞とは違う異質な存在なのです。そのため出版関係者が「最も欲しいマンガの賞」として挙げることも多いのです。

◇理解されづらいコンセプト

 なおマンガ大賞に対しても、懐疑的な意見があります。「他のマンガ賞と受賞作が似ている」「社会的大ヒットするマンガを予見できないし、発行部数の多い人気作が順当に選ばれない」という声ですね。同様のことを指摘されたことが何度かありますし、ネットでも見かけますね。

 それについては「その通り」としか言えません。選考員に書店員やマンガに精通する人を探せば重複もするでしょうし、マンガに精通しているからこそ、推しどころも似たものになります。

 また社会的に大ヒットするコンテンツは、「デスノート」や「暗殺教室」「進撃の巨人」のようにマンガの連載初期から驚異的に売れる作品もありますが、アニメや映画などのメディア展開で火が付く方が圧倒的です。

 そもそも論で言えば、マンガ大賞のコンセプトは「マンガを肴(さかな)に酒が飲みたい」……「選考員がそれぞれの好きなマンガを推す!」ですから、そもそもの考えが違うのです。別にマンガ賞同士でかぶらないようバランスを取るのが狙いでも、未来のヒット作を推すために選んでいるわけでもないからです。

 一方で、それが理解されづらいのは仕方のないところかもしれません。よく知られた作品が大賞になる方が万人に分かりやすいからです。それでもマンガ大賞のコンセプトは、変わらないでしょう。

 ともあれ、賞の選出に一般的な知名度の有無などは考慮されず、しがらみなどはありません。あるとすれば「マンガがもっと売れてほしい・読まれてほしい」でしかありません。そして特定の法人が主催ではなく、公正であるからこそ、多くのメディアが一目置いて、他のマンガの賞よりも報道してくれるのではないでしょうか。

 ちなみに有力マンガ誌の連載作は、賞で推されなくても人気が出やすく、商業的に成功しやすい面があります。マンガの文化を広げるには、多様な作品がある方が望ましく、そのため脚光を浴びづらいであろう作品や、寡作のマンガ家を推したがる雰囲気があるのは、私も感じるところです。

 にもかかわらず、歴代の大賞受賞作品が、その後マルチメディア展開をされるなどして成功事例が多いのは、結果論とはいえ、興味深いところでもあります。

 そして「マンガ大賞2022」の大賞に注目したいと思います。

【マンガ大賞2022 ノミネート作一覧】(あいうえお順)

海が走るエンドロール▼【推しの子】▼女の園の星▼自転車屋さんの高橋くん▼ダーウィン事変▼ダンダダン▼チ。―地球の運動について―▼トリリオンゲーム▼ひらやすみ▼ルックバック

【マンガ大賞 大賞受賞作品】

岳▼ちはやふる▼テルマエロマエ▼3月のライオン▼銀の匙▼海街diary▼乙嫁語り▼かくかくしかじか▼ゴールデンカムイ▼響~小説家になる方法~▼BEASTARS▼彼方のアストラ▼ブルーピリオド▼葬送のフリーレン

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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