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NZ産蜂蜜から発がん性疑惑農薬を検出 厚労省、輸入禁止検討も

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:アフロ)

ニュージーランド産の輸入蜂蜜から、昨秋以降、発がん性の疑いが持たれている除草剤が2度にわたって検出され、厚生労働省は、状況が改善されなければ輸入禁止を含めた措置を検討する可能性があることをニュージーランド政府に伝えた。

日本で高い人気

ニュージーランド産蜂蜜は日本にもファンが多く、特に、同国に自生するマヌカの花蜜から作られるマヌカハニーは、強い殺菌作用を持つメチルグリオキサールを豊富に含むことから、健康を気遣う消費者の間で人気が高い。新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、世界的に売り上げが伸びている。

しかし、昨年7月、ニュージーランドの国有テレビ局TVNZが、同国の第一次産業省(MPI)による調査の結果、マヌカハニーを含む蜂蜜製品の多くに除草剤グリホサートが残留していることが明らかになったと報道。その情報が日本にも伝わり、輸入業者や販売店が顧客からの問い合わせに追われるなど、大騒ぎとなった。

グリホサートは、「ラウンドアップ」などの商品名で、日本を含め世界で最もよく使われている除草剤だ。だが、2015年に世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が発がん性の疑いを指摘し、世界的に使用禁止の動きが広がっている。

MPIの調査では、グリホサートの残留濃度が日本の基準値である0.01ppmを上回った蜂蜜も多く、それより緩いニュージーランドの基準値0.1ppmを超えるものもあった。

マヌカハニーからも検出

MPIの調査結果を受け、厚労省はニュージーランド産蜂蜜の検疫検査を強化した。すると、10月下旬に到着したマヌカハニーから0.02ppmのグリホサートを検出。輸入業者に全量廃棄または積み戻しを命じた。

基準違反が出たことを受けて検査の頻度を高めたところ、12月中旬に到着した蜂蜜からも、基準値を大幅に上回る0.08ppmのグリホサートが検出された。この製品がマヌカハニーかどうかは不明だ。

短期間で2度も検出されたことを重視した厚労省は1月8日、食品衛生法に基づく「輸入食品に対する検査命令の実施」を発表し、輸入業者に対し、ニュージーランド産蜂蜜と加工品の全ロットを対象としたグリホサートの検査を義務付けた。

同時に、グリホサートの検出率が全ロットの5%以上になった場合は、食品衛生法に基づくガイドラインに沿ってニュージーランド側に対応を求め、それでも状況が変わらない場合は輸入禁止を含めた措置を取る可能性があることを、ニュージーランド政府に伝えた。

これを受け、ニュージーランドの公共ラジオ局RNZは20日、「グリホサートの残留基準が守られない場合、日本政府はニュージーランド産蜂蜜の輸入を止めると警告した」と電子版で報じた。

厚労省の担当者は「輸入食品の安全性に関する問題が生じた時の、問題解決までの一般的なプロセスをニュージーランド側に説明したもので、違反が5%を超えたからといって即、輸入禁止を検討するわけではない」と筆者の取材に答えた。

容易でないグリホサートの排除

ニュージーランド第一次産業省の担当者はRNZの取材に対し、「日本向けの蜂蜜は、輸出業者にグリホサートの残留検査を義務付け、検査結果が提出されない場合は輸出を許可しない」と述べ、重要な市場である日本向けの対策を強化する方針を示した。

だが蜂蜜は、ミツバチが数キロメートル先まで飛んで行って勝手に集めてきた花蜜から作られるため、他の農産品と違って、意図せず農薬が混入する可能性も高い。あるマヌカハニーの輸入業者は「意識の高い生産者は、グリホサートを使用している可能性の高い農地の近くに巣箱を置くことを避けたり、独自に残留検査をしたりしているが、すべての生産者がそうとは限らない」と明かす。

蜂蜜はニュージーランドの主要輸出産品だけに、どうすればグリホサートの使用を減らせるか、農業団体の間で話し合いが始まっていると、RNZは伝えている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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