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罰金650億円でGoogleが学んだニュース使用料「誠意ある交渉」のやり方

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
米グーグルのシリコンバレーの新キャンパス=5月16日(写真:ロイター/アフロ)

メディアへのニュース使用料支払い交渉回避を画策したグーグルが、5億ユーロの罰金とともに、その「不誠実」な戦略を最終的に断念した――。

フランスの規制当局「競争委員会」は6月21日、グーグルが5億ユーロ(当時の為替レートで約650億円)の罰金に対する不服申し立てを取り下げたと発表した。

競争委員会は2021年7月、ニュース使用料支払いをめぐるグーグルのメディアとの交渉姿勢を「不公正で差別的」と断じ、5億ユーロという過去最高額の罰金を科していた。

これに対してグーグルは、巨額の罰金が「まったく不釣り合いだ」として不服申し立てを行っていた。

不服申し立てを合わせて、グーグルは改善措置案を提出。メディアとのニュース使用料交渉で、必要なデータ開示といった透明性を確保することなどを表明した。

この間に、オーストラリアではニュース使用料交渉を後押しする新法が成立し、カナダでも同様の法案が提出されている。

さらに日本の公正取引委員会も6月22日、メディアが共同で、ニュースポータルサイト事業者に対して、記事配信をめぐるデータ開示を求めたり、契約締結を求めたりすることについて、独占禁止法違反には当たらないとの見解を示した。

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3年にわたる騒動で、5億ユーロを払って、グーグルが学んだこととは?

●罰金5億ユーロの確定

グーグルは、暫定措置命令の違反に関する決定への不服申し立てを取り下げる。これにより、2021年7月12日に競争委員会が課した5億ユーロの罰金が確定する。

フランスの競争委員会は6月21日のプレスリリースで、そう述べている。5億ユーロの罰金は、競争委員会としては過去最高額であり、それが確定したという。

問題となっていたのは、グーグルによるメディアへのニュース使用料の支払い交渉だ。

競争委員会は2021年7月、ニュース使用料の支払いの実質的な回避を図るグーグルの戦略が「不誠実」だとして、5億ユーロの罰金を決定。グーグルは同年9月、この決定に対する不服申し立てを行っていた。

一方でグーグルは、同年12月には競争委員会に改善措置案を提出。パブリックコメントを経て2022年5月9日に最終案を提出したという。また、罰金についてもすでに支払い済みだという。

競争委員会は今回のリリースで、グーグルが提出した改善策を承認し、ニュース使用料をめぐる一連の調査を終了するとした。

競争委員会は、グーグルが提出した改善措置が、これまで指摘されてきた競争上の懸念を解消しうるものであり、実質的で信頼性が高く、検証可能なものだと判断する。従って、これを承認し、拘束力を持たせることとした。この措置は、今後5年間適用され、競争委員会のしかるべき判断によって更新し、さらに5年間適用される予定だ。

●「誠実な交渉」の表明

グーグルが提出した最終的な改善措置は、7項目。競争委員会の命令に対する不服申し立て取り下げ以外の6項目は次の通り。

  • 適用範囲の拡大:グーグルはこれまで通信社などを排除してきたが、著作権法の対象となるすべてのメディアに適用範囲を拡大する。
  • 誠実な交渉:ニュース使用料交渉の回避策と指摘された「ニュースショーケース」とは切り離し、各メディアと誠実な交渉を行う。
  • 透明性を担保した報酬額の評価に必要な情報の通知:グーグルサービスにおける対象コンテンツの印刷数、クリック率(CTR)、関連広告収入など最低限の基本情報については個別交渉で10営業日以内、団体交渉では15営業日以内に通知。追加情報についても15営業日以内に通知する。
  • 交渉の中立性:ニュース使用料交渉がコンテンツのクローリング、ランキング、表示に影響しないよう、必要な措置を講じる。
  • 交渉不調の場合の仲裁手続き:グーグルは交渉開始から3カ月以内に報酬額を提示。合意に至らない場合は仲裁裁判所に付託することができ、手続きの費用はグーグルが負担する。
  • 承認を受けた独立受託者による監督:競争委員会により承認された独立受託者が改善措置の実施状況、メディアとの交渉について監督する。

競争委員会が「競争上の懸念」として指摘していたのは、「EU競争法における支配的地位の濫用」に当たるとする、「不公正な取引条件」「差別的取り扱い」「法律の回避」という主に3つの点だ。

グーグルは、「ニュースショーケース」という新サービスを掲げ、グローバルで総額10億ドルをこの新サービス名目で支払うことにより、著作権法に基づくニュース使用料支払い交渉を回避しようとした。

この潜脱的な手法が「支配的地位の濫用」と指弾された。

●新著作権指令からの3年

プラットフォームによるニュースの使用に「タダ乗り」批判の強かったEUでは2019年4月、メディアに対し、複製権、公衆送信権などの「著作隣接権」に基づく報酬請求を認める新たな「デジタル単一市場における著作権指令」が成立した。

新著作権指令は加盟国に2年以内の国内法適用を求めており、フランスは先陣を切って2019年10月に改正著作権法を施行した。

だが、グーグルはそれに先立つ同年9月にニュース使用料の支払いを拒否。改正法の施行に対しては、メディアが同意しない限りスニペット(コンテンツの抜粋)とサンプル画像(サムネイル)の表示を取りやめる、と表明していた

これを受けてAFPなどのフランスメディアが競争委員会に申し立てを行う。同委員会は2020年4月、「グーグルの対応が、支配的地位の濫用に当たり、報道機関に深刻で直接的な損害をもたらす可能性がある」と認定し、グーグルに対して、メディアとの交渉に応じるよう命じた

グーグルはこの命令を不服として、フランス控訴院に異議を申し立てる。だが10月8日、控訴院も競争委員会の判断を支持した。

その1週間前の10月1日にグーグルCEOのスンダー・ピチャイ氏が発表したのが、3年間で10億ドルをメディアに支払うというプログラム「ニュースショーケース」だった。

※参照:Googleが1,000億円をメディアに払う見返りは何か?(10/04/2020 新聞紙学的

だがこの「ニュースショーケース」は、新たなコーナーに各メディアのニュースコンテンツを掲載するという名目で報酬を支払う一方、メディアによる著作隣接権に基づく本来のニュース使用料の請求権を事実上放棄させるものだった。

これに対してフランスの競争委員会は2021年7月13日、「ニュースショーケース」は「メディアへの使用料の支払い回避」の戦略だったと認定。グーグルに罰金5億ユーロの支払いを命じることになる。

※参照:制裁金650億円払い「誠意ある交渉」約束、高くついたGoogleのニュース使用料回避戦略(12/17/2021 新聞紙学的

※参照:「650億円払え」Googleが受けた巨額制裁の理由とは(07/14/2021 新聞紙学的

グーグルフランスの公式ブログは競争委員会の発表と同じ2022年6月21日、罰金5億ユーロへの異議申し立て取り下げには触れず、同社の改善措置が承認されたこと、そして著作隣接権に基づき、150社以上のメディアと契約済みであることを説明している。

また、フランス以外のEU加盟国でも、650社以上と同様の契約を行ったとしている。

●スペインで8年後の再開

グーグルニュースのグローバル20周年にあたる本日、約8年間の休止を経て、グーグルニュースがスペインに帰ってきました。これは、著作権法の改正により、スペインのメディア(大小問わず)が、自分たちのコンテンツをどのように発見してもらうか、どのようにそのコンテンツを収益化したいかについて、自分たち自身で決定できるようになったためです。

グーグルの公式ブログは、フランス競争委員会の発表の翌日、6月22日にスペイン版グーグルニュースの再開を明らかにした。

ニュース使用料支払いを徹底して回避してきたグーグルの手法の一つが、サービスの撤退だ。その代表例が、2014年のグーグルニュースのスペインからの撤退だった。

グーグルは同年のスペインの著作権法改正により、ニュース使用料の義務化が盛り込まれたことを嫌って、同年いっぱいでグーグルニュースを閉鎖することを明らかにし、実際に閉鎖した

ネット調査会社「コムスコア」のデータでは、グーグルニュースが閉鎖された2015年1月以降、スペインのメディアのトラフィックは平均で6%減少。特に小規模サイトでの影響が大きく、減少率は14%に上ったという。

※参照:“グーグル税”はメディアにどれだけのダメージを与えたか(08/02/2015 新聞紙学的

そのサービスが、8年ぶりに再開したのだという。5億ユーロの罰金が隣国フランスで確定した翌日の再開という、こちらもニュース使用料をめぐる因縁の決着となる。

●そして日本は

オーストラリアでは、グーグルの「ニュースショーケース」による回避策を、メディアの交渉力を後押しする強力な新法「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法」を2021年2月に制定し、抑え込んだ。

※参照:Google、Facebookの「ニュース使用料戦争」勝ったのは誰か?(02/19/2021 新聞紙学的

そして、EU、オーストラリアの動きを受け、カナダも2022年4月5日、議会に提出した法案「オンラインニュース法」の内容を明らかにしている。

これに対してグーグルカナダは、「法案は『適格性のあるニュースビジネス』の定義が極めて広すぎる」などとして懸念を表明している。

日本の公正取引委員会は6月22日、メディアが共同で、ニュースポータルサイト事業者に対して、記事提供契約の履行に関するデータ開示を求めたり、契約締結を求めたり、契約締結のひな型を作成したりすることについて、独占禁止法上の問題はない、との見解を示した。

交渉力に圧倒的な格差のある巨大ITとメディアの交渉。そこに透明性を担保させる動きは、世界に広がりつつある。

(※2022年6月23日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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