“子どもの立場”から「親子断絶防止法案」はどう見える?NPO法人ウィーズ・光本歩さんに聞く(1/2)
離婚後の親子関係の維持・促進をめざす“親子断絶防止法案”。賛否が割れ、現在修正作業が進められている模様です。
離婚または別居後に自分の子どもと会えなくなった別居親たちと、子どもと同居する親側の支援者・団体が対立する構図が続いています。
そもそも離婚時に最も守られ、尊重されるべきは、親が離婚した子どもの立場ですが、なかなかその声が聞こえてくることはありません。子どもの立場の人は、この法案やいまの状況を、どのように見ているのでしょうか?
そこで今回は、自らも親の離婚を経験し、離婚家庭の子どもたちの支援活動を続ける光本歩さん(NPO法人ウィーズ 副理事長)にお話を聞かせてもらいました。
光本さんは6年前に『親の離婚と子どもの気持ちQ&A』(共著)という本を執筆し、筆者はこの本の担当編集者として光本さんと知り合いました。
※ご意見は、コメント欄、または筆者宛にお願いいたします。光本歩さんへの直接のご連絡は、どうか、お控えください。どなたさまも、自分と異なる意見を冷静に受け止め、子どものことを一番に考えつつ、議論を深めていただければ幸いです。
※法案はこちら。
*親の責任の周知は必要だが、子どものケアを考えてほしい
――親が離婚した子どもの立場である光本さんから見て、この法案はどう感じますか?
正直、一番最初に聞いたときは“頭がついていかない感”がありました。
面会交流や養育費の問題が改善されないのは、「離婚したあとにも、両方の親に、子どもに対する責任が残る」ということが、まだ一般に浸透していないからですよね。
そこに一番問題があるので、まずその社会の認識を変えないとダメだ、と思っていて。
でもその後、いろんな方にお話を聞いて、「ああ、たしかに」と思ったのは、「この理念法ができることによって、親の離婚後の養育の在り方について周知される」という点です。それはすごくいいと思います。その観点で言えば、法整備は必要だと思うんですよね。
でも、その先の具体的なところをちゃんと大人たちが考えていかないと、せっかく作っても意味がないな、とも思います。
――その先の具体的なところ、というのは?
やっぱり面会交流を行っていくなかで、どうやって子どものケアをするのか、というところ。
「子どもの本当の気持ち」って、すごく難しいです。それぞれの子が置かれた状況も違うし、子どもによっていろんな意見をもっている。しかも発達につれて考えや気持ちが変わる。親に言えないことだっていっぱいある。
そういうなかで、長期的に子どもに寄り添って理解を示してあげられる支援者を、どうやってつけられるのか。子どもが両親間の葛藤をもろに受ける状況になってしまったら、余計、負担になってしまうので。
それから、これは推進派の方も反対派の方も言っていることですけれど、法案ができて予算がつけられるようになったら、面会交流の支援機関を増やすところに予算を割くべきだ、という話がありますよね。
それはそうなんですけれど、ただ、いまは面会交流支援についてガイドラインが何もないので、このままだと支援団体・支援員任せになってしまうのは、不安だったりします。
親の離婚や面会交流というものが、子どもにとってどういうものか、ということすらよく知られていない状況なので。
だから、もっと周知すればいいと思うんですよ。離婚しても、親はこういうふうにするものだ、ということを。いろんな方法で認識を広げていけるはずだと思うんですけれど、それがないまま、ここまで来ちゃっているので。
私も、法律ができた後にどこまでの影響力を持つのか理解しきれていない部分はありますが、周知する手段の一つとしては有効なのではないかと感じています。
――養育費も面会交流も、まだ全然“当たり前”になっていないですものね。
そうですね、全然当たり前にはなっていない。だから現時点では、この法案自体、子どもや同居親に「押し付けられるもの」という印象が生じてしまうのかもしれません。
子どもが面会交流を「押し付けられたもの」と感じてしまったら、それは「会えてよかった」とは感じづらいと思います。
*面会交流の条件闘争のなかで置き去りにされる子どもの気持ち
――そもそも「面会交流」ってへんな言葉ですよね。親と子どもが会うだけのことなのに。
そう、不自然ですよね。本来、離れていてもお父さんはお父さん、お母さんはお母さんだと思える状態が、子どもにとってはやっぱり自然だと思うので。子どもが会いたいときに会えるというのは、本来当たり前のことであって。
ただ、「会う」に固執する必要はないとも思っています。
子どもに会えない親で、けっこう回数や頻度に固執される方もいるじゃないですか。「年間100日以上、宿泊あり」とかいう条件にこだわったりして。
でも、いまの子たちってすごく忙しいです。大きい子は部活もあるし、小さい子でも、習い事をたくさんやっているとか、親せきの家に行くとか、友達の誕生日会があるとか、子どもの社会のなかでも、いろいろなことがある。
そこでもし、親の希望通り「年間100日以上」の面会交流が実現したとしても、それを子どもが義務と感じて、「押し付けられている」と思ってしまったら、いい関係は築けないと思うんですよ。もちろん、逆に「たくさん会いたい」と子どもが思うのであれば、それをできる限り叶える努力を大人がしてあげるべきです。
子どもにとって一番だいじなのは、自分が会いたいと思ったときに会えること。回数や時間にかかわらず、それがずっと続いてくこと。親が自分の都合や気分で、子どもと会うのを急にやめる・やめさせるとか、そういうのは絶対ダメです。
――夫婦喧嘩の延長で、意地になっちゃうんでしょうね。
そう、面会交流の回数を多く取ることで「勝った」気になれるというか、自分の状況をちょっとでも有利にするために、面会交流で争う、みたいになっているケースも見ました。
最初は離婚で揉めているんだけれど、連れ去ったほうが親権をとるのに有利になる現実があるなかで、離れて暮らす別居親のほうは「負けた」という感覚をもってしまうのかもしれません。子どもにとってはどちらも本当に理不尽な話です。
――大人の争いに面会交流が使われて、子どもが巻き込まれてしまっている面があるんですね。子どものことを、じつは見ていない。
子どもは結局、そこで決まった条件を突きつけられるだけですから。
「●カ月に▲回、■時間、会うことになったから」って言われて、会うだけです。
(続く)
光本 歩(みつもと あゆみ)
NPO法人ウィーズ副理事長 家族支援カウンセラー
1988年大阪府大阪市生まれ。13歳のときに両親が離婚。自らが父子家庭に育った経験から「子どもが育つ環境によって、抱く希望や夢に制限がかかってはいけない」という思いを強くし、2009年に低価格学習塾を立ち上げた。これまで延べ500名以上の子どもの声を聞き、様々な子どものための支援活動や親をはじめとする大人たちを啓発するための講演・執筆活動を行う。第三次静岡県ひとり親家庭自立促進計画委員。