企業はSNSによる風評被害をどう防ぐべきか――経営者は自らSNSを使ってみよう
企業の不祥事のニュースが絶えない。従来なら一過性で終わる話もSNS(交流サイト)で拡散されて炎上し、テレビや新聞も巻き込んだ大問題に発展する場合がある。
たとえば2019年の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」では、愛知県立美術館に展示された映像作品(昭和天皇の肖像画を燃やすシーンが作品の中に含まれていた)をめぐって「不謹慎だ。展示をやめるべき」という趣旨の電話抗議が県庁に殺到した。また22年4月には、外食企業の常務取締役が講演で女性蔑視の発言をしたというSNS投稿が拡散され、大手メディアも問題視するに至り、最終的に解任された。
●従来なら炎上しえない案件もSNSが引き金に
あいちトリエンナーレ事件で、筆者は愛知県の調査委員会の副座長を務めた。事情を調べると、問題となった作品は入場料を払った人だけが展示室に入れる仕組みだった。しかも当該展示室の入り口にはただし書きがあってそれを読んだ上で納得した人だけが鑑賞できる仕組みだった。しかも来館者が作品を撮影し、その映像を対外発信することは禁止されていた。主催者側としては当該映像を広く世間に流布させる意図は全くなく、見たくない人の目には絶対に触れないように工夫がされていた。
だが、実際にはルールを守らずにSNSで映像を拡散する人がいた。その結果、あたかも県立美術館が不特定多数の公衆に対して(まるで広告宣伝画像のように)問題とされたシーンを積極的に発信しているかのように誤解された。そして、県庁に抗議電話が殺到した。SNSのない時代ならば、仮に作品展示に対する抗議が仮にあっても実際に作品を見た人だけだっただろう。一部のメディアも問題視したかもしれないが、プロが取材をすると主催者が上記の工夫と配慮をしていたことには当然気が付く。賛否両論を呼ぶことはあってもいきなり全国ニュースで大きく取り上げられることはまずありえなかっただろう。ところが本件の場合はSNSで先に炎上した。それでメディアもニュースとして扱わざるをえなくなった。
●SNSにはどういうリスクがあるのか?
企業にとってのSNS時代の情報発信リスクの最たるものは、いわゆる“バイトテロ”だろう。レストランのアルバイトが厨房や冷蔵庫の中に入って食材を触る等のふざけた写真を撮って発信するといった事件だ。しかし、これは常識を知らないアルバイトを雇わないように注意する、あるいは現場で教育・管理すればいい。
ややこしいのは企業アカウントとも個人アカウントとも言えない中間的なアカウントでの発信だ。たとえば大手ホテルチェーンに属するリゾートホテルの支配人やコンシェルジュが、ペンションのオーナーのように「今年は紅葉が半月早く綺麗(きれい)になる。玄関前のモミジの葉っぱの天ぷらがおいしかったです」といった情報発信をしたとする。だがそれはホテルのレストランのメニューにはなく、本人が自宅で調理して食べただけだったとする。
問題は、ホテルに行けばそこのレストランでモミジの天ぷらが食べられると思った人が「わざわざ言ったのにメニューになかった」と憤慨したりするといった事件だ。ちょっとくだけたパーソナルタッチが魅力のアカウントだ。誤解を与える軽率な発信だったが、これは本人のミスでしかない。会社の責任までは問いにくいはずだが実際には会社としては謝罪を免れないだろう。
企業の情報発信に伴うリスクは、従来なら広告宣伝やWebサイトなどに限られていた。だが、これからはSNSの準公式アカウントからの従業員の発信にも目配りが必要だ。リスクはSNSでの発信に限らない。社長や役員が講演会等で使う言葉も要注意である。聴衆が不特定多数の場合、録音・録画され、それが無断でSNSに流れて炎上する場合がある。むやみに録音・録画の要請に応じない等の対応が必要だろう。
●リスクマネジメントの仕事
企業や役所の対応で一番大事なのは、SNSでの炎上が起きた時の初期対応だろう。必ずしも広報部が発信源ではない。早い段階で事業部門、そして総務部門さらに経営幹部が対応しなければならない。
厄介なのは事実認定だ。広告宣伝や情報発信のミスならやってしまった側に自覚がある。しかし、「〇〇販売センターで店員がお客様に暴言を吐いた」といったSNS情報は根拠が定かでない。誤解やデマの場合もある。初動が大事といっても安易に謝罪はできない。事実でないとわかったら公式アカウントで即座に否定すべきだし、マスコミ対応も最低限となる。下手に過剰反応してお詫びの報道発表をすると、寝た子を起こして“オウンゴール”になりかねない。
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